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まずはお嫁さんからお願いします。  作者: 桜庭かなめ
特別編6

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第3話『球技大会-サッカー-』

 朝礼が終わってすぐに、テレビ中継の形で開会式が行なわれた。

 校長先生が始業式や終業式のときと同じくらいに長く話したり、球技大会の実行委員長の女子生徒が、


「宣誓! 我々、生徒一同は! スポーツマンシップに則り! 正々堂々と戦うことを誓いますっ!」


 と、元気良く選手宣誓をしたりしていた。

 開会式が終わり、球技大会がスタートした。生徒達は試合に出場するとき以外は自由に過ごしていいことになっている。

 西山達と一緒に出場するサッカーが第2試合なので、開会式が終わってすぐに教室を出発する。西山をはじめとしたサッカーに出場するクラスメイト達とはもちろん、応援してくれる優奈や井上さんや佐伯さん達とも一緒に。

 教室のある6階から昇降口のある1階まで階段で下り、昇降口で外用のシューズに履き替える。

 校舎を出て、サッカーの会場である校庭に行くと、既に第1試合がスタートしていた。

 双方のクラスを応援する声が結構聞こえてきて盛り上がっている。


「おっ、もう始まってるんだな!」


 サッカーコートを見ている西山も盛り上がっている。西山のサッカー好きがよく伝わってくるよ。そういえば、一昨年も去年もここに来てサッカーの試合をやっていると、西山は楽しそうにしていたっけ。


「始まったな。この次が俺達なんだよな」

「ああ、そうだ。……サッカーに出る奴ら、集まってくれ」


 西山はサッカーに出場するクラスメイト達を招集して、どういう形で試合運びをしていくかなどを話していく。去年までも、西山はこうしてチームを纏めて引っ張る役をしていたな。

 あと、相手の3年6組の生徒も校庭にいるので、西山からサッカー部の部員が誰なのかを教えてもらった。

 また、作戦会議をしている中で、担任の渡辺先生が俺達のところにやってきた。

 作戦会議が終わってすぐ、


「2年1組対2年4組の試合は、2対1で2年1組の勝利です!」


 第1試合が終わり、審判を務めている男性教師が試合結果を言った。

 会場にいる多くの生徒達が、第1試合を戦った双方のクラスに拍手をしている。俺達も拍手をした。


「第1試合、終わったな」

「おう! もうすぐ俺達の初戦だな。今年もキーパー頼んだぜ、長瀬」


 西山は白い歯を見せて爽やかな笑顔でそう言ってきた。


「ああ、任せろ。今年もたくさん点を取ってくれよ、西山」

「おう!」


 西山は元気良く返事をすると、右手を握りしめて俺に向けて突き出した。グータッチしようってことか。去年までも試合前にはグータッチするのが恒例だった。

 俺も右手を拳にして、西山にグータッチをした。


「和真君、西山君、頑張ってください!」

「頑張って!」

「2人とも頑張ってね!」

「先生も応援してるよ!」


 優奈、井上さん、佐伯さん、渡辺先生がエールを送ってくれる。


「ありがとうございます。頑張ります」

「頑張ります! ありがとうございます!」


 俺と西山はお礼を言って、優奈達とグータッチをした。

 また、俺は優奈に、西山は佐伯さんに水筒などの荷物を預ける。

 第1試合を戦ったクラスがコートから出たので、俺達もコートに入ろうとしたとき、


「あのっ、和真君」


 優奈が俺のことを呼び、俺が着ている体操着のシャツの裾を掴んでくる。そんな優奈の顔は頬を中心にほんのりと赤らんでいて。


「どうした、優奈」

「……和真君が活躍できるようにおまじないをかけていいですか?」

「おぉ、おまじないか。お願いするよ」


 どういう形でかけてくれるのかは分からないけど。ただ、優奈がおまじないをかけてくれるのは嬉しいので快諾した。

 はいっ、と優奈は返事をすると、ゆっくりと俺に顔を近づけ、

 ――ちゅっ。

 とキスしてきた。その瞬間に女子達の「きゃあっ」という黄色い声や、男子達の「おおっ」という野太い声が聞こえてきて。

 2、3秒ほどして優奈から唇を離した。すると、目の前には真っ赤な顔に可愛い笑みを浮かべている優奈がいて。


「これが……私からのおまじないです」

「……素敵なおまじないだよ。より頑張れそうだ。ありがとう、優奈」


 優奈の頭をポンポンと優しく叩く。すると、優奈の笑顔が柔らかいものに変わった。


「いえいえ。……実は和真君達が作戦会議をしているときに、萌音ちゃんが『キスの形でおまじないをかけたらどうか』って提案してくれたんです」

「私が試合前におっぱいを堪能することで元気良くプレーできるからね。そこから、優奈のキスのおまじないを思いついたの。優奈にキスされたら元気良くプレーできるんじゃないかって」

「なるほどな。凄くいい提案をしてくれたな、井上さん。ありがとう」

「いえいえ」

「妻の優奈のためにも頑張るんだよ、長瀬」

「佐伯の言う通りだな」


 西山はそう言うと、俺の背中をポンと叩いた。

 ゴールキーパーの役目をしっかりと果たして、クラスが勝利できるようにしたい。

 西山達と一緒にコートに行き、サッカー担当のスタッフの生徒から青いゼッケンを受け取る。俺の番号は1番で、西山の番号は10番だ。また、ゴールキーパーの俺はグローブも受け取り、両手に嵌めた。

 また、対戦相手の3年6組は赤いゼッケンを身に付ける。西山から教えてもらったサッカー部の生徒は8番だ。

 それから程なくして、審判を務める男性教師の指示で、センターラインを挟んで向かい合う形で並ぶ。


「これより、第2試合の3年2組対3年6組の試合を行ないます」

『よろしくお願いします』


 挨拶を交わし、双方のクラスの生徒達はそれぞれのポジションにつく。俺はゴールキーパーなのでゴールの前に立つ。

 センターサークルには西山と相手チームの赤ゼッケン8番……例のサッカー部の生徒と、審判の男性教師がいる。

 西山とサッカー部の生徒は……じゃんけんしているな。それが終わった後、西山はセンターサークルに置かれているボールに右脚を乗せ、赤ゼッケン8番の生徒がセンターサークルから離れた。どうやら、うちのクラスからのプレーでスタートするようだ。


「それでは、試合開始!」

 ――ピーッ!


 男性教師によって試合開始の合図がなされ、3年2組の初戦が始まった。

 試合時間は7分。キーパーの俺は相手に点数を入れさせないように頑張ろう。

 うちのクラスもサッカー部は西山だけだ。ただ、うちのクラスには陸上部や野球部など運動神経が良くて、足の速いクラスメイトが何人もいる。そんな彼らと西山を中心にドリブルやパスをして、相手チームのゴールに迫っていく。


「西山、頼む!」

「おう!」


 野球部の生徒が西山に向かってパスを送る。そのパスが西山に通り、


「いけっ!」


 西山は相手チームのゴールに向けてシュートを放つ。

 西山が蹴ったボールは俺から見てゴールの左側に向かって飛んでいく。

 ど真ん中に立っている相手チームのキーパーも反応するけど、西山のシュートのスピードが速いので、キーパーにボールが触れることなくゴールネットを揺らした!


「よしっ!」


 さっそくうちのクラスが先制点を取ったぞ!

 シュートを決めた西山は、近くにいるうちのクラスの生徒達とハイタッチを交わしている。

 また、いきなり先制点を決めたのもあって会場がどっと盛り上がり、


「西山君凄いです!」

「西山やるじゃん! 凄いよ!」

「さすがはサッカー部!」

「西山君いいよ!」


 と、優奈達もシュートを決めた西山に賛辞の言葉を送っていた。それが聞こえたのか西山は握りしめた右手を突き上げていた。


「西山ナイス! さすがだ!」


 俺も大声で西山に賛辞の言葉を送った。

 すると、西山はこちらに向かってニッコリとした笑みを浮かべて、右手でサムズアップした。今年もかっこいいな、あいつは。そう思いながら、俺は西山にサムズアップした。

 西山は攻撃で頑張って、さっそく結果を出したんだ。俺も相手が迫ってきたらちゃんとゴールを守らないとな!

 うちのクラスがゴールを決めたので、センターサークルで相手チームのプレーから試合が再開される。

 サッカー部員の赤ゼッケン8番の生徒を中心にドリブルをしたり、パスを繋いだりして、こちらに迫ってくる。集中して守らないと。

 そして、ペナルティエリアの中に入り、赤ゼッケン8番の生徒にパスが通ってすぐに、


「いけっ!」


 赤ゼッケン8番の生徒が左脚でシュートを打ってきた!

 俺から見て左側に向かって、結構な速さでボールが転がってくる。ただ、シュートを放った瞬間に体が動き、

 ――バシンッ!

 両手でシュートを防いで、倒れ込みながらボールを抱きかかえる姿勢になった。

 例のサッカー部員からのシュートだったけど、何とか止められて良かった。西山からサッカー部員だと教えてもらって警戒できていたことと、試合前に優奈がキスのおまじないをしてくれたおかげだな。そう思いつつ、ボールを持ちながら立ち上がる。


「ナイスセーブ! 長瀬!」


 西山は爽やかな笑顔でそう言ってくれた。他のメンバー達も笑顔で「ナイス!」「よく止めた!」などと声を掛けてくれて。


「長瀬もやるじゃん! ナイスセーブ!」

「さすがは3年連続キーパーをやるだけあるわね。凄いわ!」

「長瀬君いいね!」


 井上さん、佐伯さん、渡辺先生も笑顔で俺に称賛の言葉を送ってくれて。応援してくれている他の生徒達も。そして、


「和真君、ナイスセーブですっ!! すっごくかっこいいですっ!!」


 西山がシュートを決めたときよりも大きな声で、優奈はとっても嬉しそうな笑顔で称賛の言葉を送ってくれた。優奈を笑顔にできて、すっごくかっこいいと言ってもらえて凄く嬉しいよ。これまでの球技大会で何度もシュートを止めてきたけど、今回が一番嬉しい。

 さっきの西山に倣って、俺も右手を握りしめた状態で高く突き上げた。

 俺がシュートをセーブできたし、ここから反撃していこう。


「西山、頼んだ!」


 俺は西山に向かってパスを出す。


「おう!」


 西山は元気良く返事をして、俺からのパスを受け取った。

 それからも試合は進んでいく。

 西山を中心に攻撃していき、うちのクラスは西山がゴールを決めて、追加点を挙げることができた。

 ただ、相手の3年6組もサッカー部員がいるだけあって、サッカー部員を中心にシュートをされることも。ただ、俺がセーブしたり、西山達がブロックしたりしてゴールを守っていく。また、俺がセーブすると、


「和真君、ナイスセーブですっ!」


 と、優奈が大きな声で褒めてくれて。それがとても嬉しくて、力になっていった。

 そして、


 ――ピーッ!

「そこまで!」


 試合時間の7分が経って、試合が終了した。

 得点板を見ると……2対0。俺達3年2組の勝利だ!

 審判の男性教師が集合をかけ、試合前と同じく双方のクラスの生徒達はセンターラインを挟んで向かい合う形で並ぶ。


「3年2組対3年6組の試合は、2対0で3年2組の勝利です!」


 審判の男性教師によって試合結果が言われた。それと同時に、コートの外から大きな拍手や「お疲れ様」「おめでとう」などといった労いの声が聞こえてくる。

 ありがとうございました、と挨拶をして、俺は西山達と一緒に優奈達が待っているところへと戻る。


「初戦勝利おめでとうございます! 和真君、何度も相手のシュートを止めていてかっこよかったです!」


 優奈は満面の笑顔でそう言い、俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。そのことで試合に勝ったことの喜びが膨らむよ。


「ありがとう、優奈。優奈のおまじないやみんなと一緒に応援してくれたおかげだよ。俺がシュートを止めたときは褒めてくれたし。ありがとう」


 感謝の言葉を伝えると、優奈はニコッと笑いかけてくれる。至近距離からの可愛い笑顔にとてもドキドキする。そのドキドキと試合に勝った喜び、おまじないをかけてくれたお礼に俺は優奈にキスをした。

 屋外で試合をして体が熱くなっているけど、優奈の唇から伝わってくる温もりは優しくてとても心地いい。

 少しして俺から唇を離すと、目の前には優奈の嬉しそうな笑顔があった。


「お礼のキスだ」

「ふふっ、ありがとうございます」

「今後も試合前には毎回、有栖川からおまじないのキスをしてもらうといいぞ。今の試合の長瀬の動きはとても良かったからな」

「そうだな。今の試合が今までで一番動けてた気がするし」

「何度でもかけますよ」


 優奈は可愛らしい笑顔で快諾してくれた。今後の試合も凄く頑張れそうだ。


「和真君はもちろんですが、西山君も2点決めていて素晴らしかったです」

「そうだね、優奈。さすがはサッカー部エースって感じだったね。長瀬のセーブも冴えてたよ。初戦勝利おめでとう!」

「西山君中心の攻撃も、長瀬君中心の守備も良かったわ。初戦勝利おめでとう」

「西山君と長瀬君はもちろん、みんなもいい動きしてたよ。初戦勝利おめでとう! うちのクラスにとって幸先のいいスタートになったよ!」


 優奈、佐伯さん、井上さん、渡辺先生は笑顔で祝福の言葉を言ってくれた。


「ありがとうございます。点を取れて良かったです」

「俺も1点も許さずに勝てて良かったです。ありがとうございます」


 西山と俺はお礼を言って、優奈達とハイタッチをした。今後も勝利して優奈達の喜びのハイタッチができるように頑張りたい。

 その後、優奈から荷物を受け取って、水筒に入っているスポーツドリンクを飲む。冷えていてとても美味しい。勝利した後だから本当に美味しい。

 俺の近くで西山も水分補給をしており、彼も凄く美味しそうに飲んでいた。

 一昨年も去年も球技大会のサッカーで勝利したことはある。ただ、優奈達のおかげで今までで一番嬉しい勝利になった。

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