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巫女ねえちゃんは、ひまじゃない!  作者: 日々一陽
第2章 お兄ちゃんは、渡さない
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二話

 涙目で初穂ちゃんを睨む悪い虫、じゃなかった美月子。しかし初穂ちゃんはそんなことはお構いなしに、回転棚の中から青い学業お守りを手に取る。


「もしもだよ。もしもこれ買って御利益がなかったら、クーリングオフは利くの?」

「クーリング…… 利きません」

「ええ~っ!」


 またも仰け反る初穂ちゃん。


「どうして? ご利益なかったらだよ? せめて買って八日間は返品できないの?」

「できません」

「どうして」

「初穂料はお供えですからね」

「お供えは返せないの?」

「はい」


 答えながら美月子はちょっとクールダウンした。

 怒っても仕方がない。

 勝手に勘違いしたのは自分なのだ。


「そう。仕方ないわね。じゃあこれは本当に知らないから聞くんだけど――」

「やっぱり知ってたのね」

「おみくじの吉と中吉って、どっちがいいの?」


 あ、これ、よくある質問で、簡単そうだけど案外難しい質問だったりする。運勢の順番って実は神社によって違うし、ましてや美月子の神社みたいに小さなところは自分のところでおみくじ作っている訳じゃない。だから美月子はいつもこう答えることにしている。


「一般には吉>中吉と言われていますが、重要なのはおみくじに書かれている神様のお言葉だと思うんです。吉とか中吉とか小吉とかはあまり気になさらなくてもいいんじゃないでしょうか」


「原稿がありそうな立派な解説ね」

「ありがとうございますっ」

「ほっ、誉めてないわよ」


 ホント素直じゃない初穂ちゃん。

 ツンと顔を背けると社務所に並んだおみくじを眺める。


 普通のおみくじ、開運おみくじ、子供おみくじに花柄の可愛いおみくじ、マスコットが付いたおみくじもある。どれも初穂料は二百円。お手頃なお値段なので、この神社の一番の売れ筋商品。でも、小学生にとって二百円はそこそこの大金。美月子はひとつ引かせてあげたいと思うけど、今の美月子はバイト巫女。勝手なことは出来ない。


「これ全部二百円なの?」

「はい、二百円のお納めになります」

「タイムセールは?」

「ございません」

「ポイント還元は?」

「ございません」

「大吉20%増量セールは」

「してません」


 美月子を恨めしそうに睨んだ初穂は、わざとらしく嘆息してみせる。


「はあ~っ。じゃあいいわ。ねえ知ってる店員さん、そこのモールに「キュンみくじ」ってガチャがあるの」

「存じてますよ」

「1回百円」

「ですね」

「カプセルに入った本格派」

「ですね」

「よく知ってるのね」

「はい。引いたことありますから」

「ここの巫女なのに?」

「つい出来心で」

「まあいいわ。黙っておいてあげる」


 偉そうに胸を張り、初穂ちゃんはニヤリと笑う。


「ありがとうございます」

「で、当たるの?」

「はい。気持ちの問題ですから」

「……そうよね」


 初穂ちゃん、赤い小銭入れを覗き込む。確かにガチャのおみくじの方が安いし、中身だってちゃんとしたものだ。勿論、神様のお言葉は霊験あらたかな神社のおみくじにこそ宿るはず。だけど、きっと百円だって大金に感じる初穂ちゃんを見ていると、美月子はすごくもどかしくなる。


「で、何だった?」

「何だったとは?」

「凶とか大凶とか大殺界とか」

「大吉です。待ち人来たる、でした」

「縁談は?」

「思いに任す、だったかな」

「それ、どういう意味? 悪いの?」

「えっと、自分で考えなさいって意味だから、普通かな」

「神様丸投げじゃん」


 さっきからずっと聴きに回っていた健二くん、ここぞとばかりに突っ込んでくる。


「まあ、考え方次第ね。任されたら前向きな気持ちになれるかもだし」

「なんか多いよな、気持ちとか、そんなの」

「そうね。もしかしたら神社って気持ちの病院だったり、気持ちの学校だったりするのかもね」

「ふ~ん、学校とか病院とか、どっちもヤだな」

「初穂は好きだよ、学校。だって、いっぱいお勉強して健太お兄ちゃんと同じ高校に行くんだからっ!」


 初穂ちゃん、ここぞとばかりに力説する。


「初穂はバカだな。その頃には兄ちゃんとっくに卒業してるぞ」

「健二兄ちゃんこそバカね。長い人生よ、同じ高校だった方が話題が増えて、長い結婚生活がより楽しくなるでしょ?」

「だから兄ちゃんとは結婚できないって」

「できるもん! マイノリティの日の出は近いもん。ブラコンだって認められるもん!」

「ブラコンって、ブラジャーコンプレックスなのか?」

「ぶっぶ~。違いますう! 初穂の胸はおっきくなりますう!」

「うそだあ」

「おみくじに、願いは叶うって書いてましたあ!」

「それ、いつの話だよ」

「今年のお正月ですう!」

「じゃ、今やってみろよ」


 初穂ちゃん、また小銭入れを覗き込んで、険しい顔をする。


「そうだ、飴玉占い、してあげようか」

「飴玉占い?」

「うん、ちょっと待ってね…… はい。どっちかの手に飴玉が入ってます。当たったら大吉で願いは叶います」

「外れたら?」

「飴玉が貰えません」

「分かった」




【三話へ】


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