三話
「お待たせしました桜井先輩」
「あっ、吉住さん。健二も初穂も」
「何だそのでっかいのは?」
健太は拝殿の方に視線を向ける。そこには一組の老夫婦が鈴を大きく振っていた。
「あのご夫婦のだよ。下で困っててね。こんな急な階段があるなんて知らなかったんだって」
「あ、どうもありがとうございます」
「吉住さんにお礼言われることじゃないよ。そうだ、ご朱印だったっけ、それが欲しいって言ってたけど」
「おっ、巫女ねえちゃんの出番だな」
ニカッと笑う健二に微笑んだ美月子は、大きくひとつ息を吸うと健太に向いた。
「ところで桜井先輩、明日健二くんと初穂ちゃんと一緒にクッキーを作ろうかと思うんですけど、その…… 一緒にいかがですか?」
「明日ですか……」
健太は上を向いた―― こいつら凄く懐いてるな。嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちと、もうひとつ、どんよりとした不安な気持ちが混ざり合う。
「ごめんなさい、僕は。こいつらが面倒掛けますけど」
「いえいえ全然。気にしないでください」
「なあ兄ちゃん、これは?」
健二は文化祭のチラシを手渡す。
「へえ~っ、R女子の文化祭って誰でもいけるんだ」
「そうだぞ。連れて行ってくれるよな」
「いやいや、入り口までは送ってやるから。僕が女子校の文化祭なんておかしいだろ?」
「そうかな」
「絶対全然おかしくないですっ」
「吉住さん……」
「だって健二くんと初穂ちゃんと一緒でしょ? 全くおかしくないです。だから是非来てください」
しかし、真っ赤なランドセルは健太の腕を取って反旗を翻す。
「初穂はひとりでも大丈夫だよっ」
「初穂?」
「女はオオカミなのよ。健太お兄ちゃん食べられちゃうよ」
「違うぞ、普通オオカミは男だぞ」
「健二兄ちゃん分かってないっ! 時代は変わったんだよっ! 今、女子高生は飢えたオオカミの群れなんだよっ」
「飢えたオオカミ――」
健太はちらり美月子に目をやる。
「違うやい。巫女ねえちゃんはオオカミなんかじゃないやい」
「じゃあ何よ?」
「えっと、オオカミの天敵の羊飼い?」
「羊飼い――」
二人の小さな兄妹に挟まれて、健太はもう一度チラシに目をやった。そうしてゆっくり視線を上げる。
「文化祭はちょっと考えてみます。さあ健二、初穂、帰ろうか」
「うん」
「兄ちゃんはぐらかしたな」
「はっきり言うな!」
右手に小さい妹、左手に小さな弟を連れて健太は階段を降りていく。
「文化祭にはメイド喫茶もあるらしいぞ」
「メイド喫茶――」
「健二兄ちゃん、やらしいー」
「やらしくないやい!」
「もしかして?」
「あ、巫女ねえちゃんは紙芝居するんだって」
「メイドは?」
「健太お兄ちゃんもやらしいですっ!」
「イッ、イデデデッ 手抓るな初穂っ!」
第7章 完
【あとがき】
たいへんお久しぶりです。吉住美月子です。
文化祭。R女子もこの日だけは老若男女、誰にでも扉を開いて待ってます。だけど女子高だからって男の人はほとんど来ないのが実情らしくって。
いえ、私はその、健二君と初穂ちゃんが喜ぶかなって思って、桜井先輩にも来てほしいんですけど、え、何ですか?下心見え見え? そんなことないですよっ!!
でもね、桜井先輩、ちょっと考えてみるって、まだ期待していいみたい。少し元気出てきたかも!
さて、初穂ちゃん健二くんと一緒にクッキー作ることになりました。
神社で一緒に作るはずが、ちょっとだけ計画が変わって桜井家に乗り込むことになって……
って、そんな展開なんですか? なんか楽しみな展開ですね!
次章「巫女ねえちゃんは押しかける」もお楽しみにっ!
わあっ、私がとっても楽しみになってきたっ!




