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巫女ねえちゃんは、ひまじゃない!  作者: 日々一陽
第5章 巫女姉ちゃんは小銭が嫌い
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二話

 着替えは優に三十分以上かかった。

 衣装だけじゃなく初穂ちゃんの黒髪も解いて丈長で結ったし、何よりふたりは女の子同士、井戸端にお喋りの花が咲きまくった。


「初穂、可愛くなったかな?」

「なったなった。まあ、最初から可愛いけどね」

「だよねえっ!」


 初穂ちゃんは小学一年生、その上パンツの柄はうさぎちゃん、可愛いに決まっている。

 いや、マジでこの子は将来すっごい美人になると美月子は思う。


「いつもお洋服は誰と買ってるの?」

「えっと、この前はお兄ちゃんふたりとバスに乗っていって買った。それまではお母さんが買ってくれてたけど今は自分で選ぶよ。健二兄ちゃんのは健太お兄ちゃんが一緒に選んでるけど初穂は女の子だから」

「好きなのが買えるんだ」

「うん。別に貧乏じゃないって健太お兄ちゃんも言ってるし。欲しいものは買って貰える。もしかして巫女さん、うちの家族を不思議に思ってる?」

「あ、あはは。やっぱり初穂ちゃんは賢いな。はい、こっちの手も挙げて」

「だよね。ふたりのお兄ちゃんと初穂だけだもんね。でも心配いらないよ。お家も住めるしお金もいっぱいあるんだって。健太お兄ちゃんが頑張ったから」

「頑張った?」

「親戚にいっぱいお金を貰ったって」

「そうなんだ――」


 肯いたものの美月子には今ひとつ分からなかった。勿論美月子が心配してどうなるものでもない。でも、やっぱりその先は、ちゃんと桜井先輩に訊こうと思う。これじゃ気になって夜も眠れない。だって週に4日はカレーなんだよ、この家庭――


「初穂ちゃんはカレーが好きなの」

「うん、大好きだよ。美味しいもん。健二兄ちゃんは文句言うけど、お肉いっぱい注いだら文句言わないから、味は嫌いじゃないんだよ。

「だったらいつもカレーなのは、みんな好きだから?」

「う~ん…… そりゃ毎日色んな美味しいお料理が食べられたら一番だけど、健太お兄ちゃんは料理人じゃないからね」

「美月子、入るぞ!」


 突然、奥の方から声がした。


「ちょっと待って!」


 ちょっと待ってと言ったのに、引き戸を開けて入ってきたのは宮司のおじいちゃん。勿論仕事着姿じゃなくって、ジーンズにポロシャツと言う若作り。


「おお、これは可愛い巫女さんじゃな。美月子の跡取りか」

「初めまして。桜井初穂です。今日は巫女のお姉さんにお願いしてこの衣装を着せて貰ってるんです」

「しっかりした子じゃな。初穂ちゃんか、いい名前だ。わしはここの宮司さんだよ」

「ぐうじ?」

「ま、社長みたいなもんだな。はっはっは」


 すでに着せ替えは終え、髪を結っているところだった。おじいさんはその様を見ながら懐かしそうに呟いた。


「そう言えば、律子もよく神社で遊んでいる男の子に巫女服を着せて遊んどったな」

「えっ、そんなことしてたんですか?」

「知らなかったのか? あいつは変わった趣味の持ち主だったからの」


 美月子がりっこ姉ちゃんから聞いた話は冗談ではなかったらしい。


「その点美月子はノーマルじゃの。ちゃんと社務所の仕事も教えてやってくれよ」

「え、いやそう言うんじゃなくって、初穂ちゃんにはただ着せ替えだけで」

「お前も小さい頃、律子に教えて貰ったろ?」

「え、初穂も巫女さんやっていいの?」

「もちろんじゃよ。初穂ちゃんみたいな可愛い生娘は大歓迎じゃよ」

「ちょっとおじいちゃん、それセクハラ用語!」

「え、あ、そうか。すまんすまん。わっはっはっは」


 笑って誤魔化しながら、彼は部屋を出て行った。

 嵐が通り過ぎて、美月子は無言のまま初穂の髪を結っていたが、沈黙を破ったのは初穂の方だった。


「ねえ、初穂も巫女さんやっていいの?」


 生娘って何? と言う質問でなくてよかったと胸をなで下ろす美月子。


「やってみたいの?」

「うん。お店屋さんとか大好きだし」

「そう。わかったわ。でも修行は大変よ」




三話へ続く


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