表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第二章 三領巡りに出発!!
31/94

29 両親が心配しているので、戸惑っております


 ドリスは実家に帰ったが、すぐに三領巡りの準備に追われ、課題を終わらせようと躍起になっていた。


「嬉しそうね、ドリス」


 アマーリアがドリスの部屋を訪ねて、開口一番に言った。


「お母様。……私、顔に出てます?」

「出てるわよ、はっきりと。いいじゃない、家の中くらい。それより、エルヴィン卿とはどうなの?」

「エルですか? なんとも」

「あら……もう、愛称で呼んでいるのね!」

「それは、あっちがそう呼べって言ったので」

「私は彼、いいと思うのよ。珍しくカミラも推してるし」

「珍しいですよね。カミラ姉様が乗り気って」

「それだけ人柄が良いと感じ取ったのでしょう。カミラは悪意ある様な人は必ず避けていたから」

「え? そうなのですか?」

「なぜかわからないけど、カミラが嫌がる人は、必ず何か黒い噂があることも多かったのよ。勘が良いのかしらね」


 その勘が、ローレンツ兄様を引き寄せたのだとしたら、カミラは素晴らしい慧眼を持っているということだ。


 エルか……もう悪い人だとは思わないけど、頼りない人……なんて思っちゃう。心配してくれるのは、殿下の言葉通り、ありがたいのだけど。


「ドリス」


 ドリスは「はっ」と、アマーリアの声に気付き、向き直る。

 真剣で、どこか心配そうな顔つきに、ドリスは息を飲んだ。


「……なんでしょう?」

「道中、気をつけてね。学園で、階段から突き落とされたなんて……聞いたときは、思わず倒れそうだったわ」

「お母様……」

「本当は長期休み中、家に籠っていて欲しかったの。でもそれでは、ドリスが色んな経験を積むことが出来ないと思って、我慢しているのよ」


 アマーリアはドリスをそっと、抱きしめた。


「貴女が、精霊が見える様になって、魔法が使える様になったのは知ってる。けれど……それでも心配よ。……無事に帰ってきてね」

「お母様。……お母様も、ブレンターノ領へ行くのでしょう? 私も後から行きますから、そこで、会いましょう」


 三領巡りが終わった後、ドリスは王都に帰らず、そこから、祖父達がいるブレンターノ領へ向かう予定なのだ。


「移動するときは念のため、ブレンターノ領邸宛に、手紙を出しなさいね」

「わかっております」


 互いに抱き合い、離れると、二人でにっこりと微笑んだ。






 すると、今度はベルンフリートがドリスの部屋を訪ねてきた。


「こんなことになるなら、精霊指導の許可を出すんじゃなかったよ」

「お父様。お言葉ですが、私が精霊が視える様になる以前から、狙われておりました。それだけが狙われる理由ではないかと」

「ドリス……」

「あ! お父様に頼みたいことがあったのです。私に、剣を教えてはもらえないでしょうか?」

「え……ドリスが? 剣を?」

「えぇ。アンディ殿下に言われたのです。私の精霊は攻撃系ではありませんので、剣や組手も習うと良いと」

「そうか……」

「なぜお父様は、私達に剣を教えてはくれなかったのです?」

「俺はついついやり過ぎてしまうからな。大事な娘達を傷つけたくなかった……と言うのは建前で。カミラ()()が心配でね」

「カミラ姉様だけ?」

「カミラは剣に興味を持っていた様だけど、運動は苦手だったんだ。やりたいって言われた時もあって、試しに剣を持たせてみたら、カミラは一人で剣を振っているだけでも怪我をしそうで……。デリアとドリスは、カミラよりは筋が良さそうだけど、カミラがそれを見たら落ち込むと思って、辞めたんだよ」


 それを聞いて、ドリスは察した。






 カミラは、デリアとドリスとは年が離れていて、彼女達にとってカミラは、もう一人のお母様的な存在だった。そんなカミラが、妹達にあっさり抜かされては、カミラの立場がない。


 ただでさえカミラだけは、ベルンフリートに似て、綺麗だけどつり目、黙っていると強面顔。

 下の妹二人は、美女と言われたアマーリアそっくりの愛らしい容姿。


 小さな頃から、カミラが妹達の顔を羨ましがっているのは、妹であるドリスも気づいていた。

 そんな妹二人が剣を始めたら、カミラはショックで閉じこもってしまったり、常に暗い顔をするかもしれない。


 ただでさえ当時は貧乏で、毎日休まず働かなければ、家のことが回らないほどの環境だった。

 そんな時に、閉じ籠ったりしたら、この屋敷はさらに荒れた可能性すらあった。






「殿下に言われたのなら、少し教えようか」

「いいのですか?」

「素振りだけな。だがその前の、準備運動が何より大切だ。それでへばりそうだけど」

「やりますよ! 殿下と勝負する約束もしましたし」

「え……そう。じゃあ……気合い入れないと……な」


 ベルンフリートの口調が、だんだん黒さを増してきた。


 この後ドリスは、みっちり準備運動をして、ひたすら素振りを見てもらった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ