21 やっと精霊に会えた!
「試験結果だが、うちのクラスは、ダントツで一位だ! おめでとう!」
「おぉ~!!」と皆、拍手を送る。
「特に一位を取ったアルベルツは、学園創設以来初の、子爵位の女生徒で一位だ。私も鼻が高い」
「ありがとうございます」
一応ドリスは、お礼を言っておいた。
「皆もだ。学園創設以来のクラス成績の一位だ。誇って良いぞ」
クラスの皆がお互いの顔を見て、笑みを浮かべた。
「だが! まだ、最初の中間試験だ! 油断するなよ」
「「「「はい」」」」
先生の叱咤激励から、また授業が始まった。
それから二週間くらい経ち、ようやく精霊を見せる方法を教えてくれると、ドリスにアンディから連絡があった。
「やっと、許可が降りたよ。よかったね」
「はい!」
「言っておくけど、これは賭けみたいなものだ」
「何が……ですか?」
「君に精霊が視えることで、その精霊の魔法を使えるようになることが……だ。君の精霊は今、とても貴重だからね。もしかしたら、うちの国に来てもらう可能性だってあるんだ」
「え?」
「その打算的な考えもあって、教えることにしたんだよ。ただ、君はそれがきっかけで、狙われることもあるかもしれない。念頭に入れておくようにね」
「……はい」
思ったよりも大変なことになりそうだと、ドリスは心を引き締めた。
「……もしかすると、階段を落とされたのは、もう、狙われている証拠かもしれない。まぁ……私は、そうだとは思わないが……」
「なら、今度は反撃してみせます!」
すると、アンディは苦笑した。
「大口叩くよね、君。そして、本当にやってしまいそうだ」
アンディはやっと、精霊を見る方法を教えてくれた。
寮の談話室を借りて、アンディによる精霊授業が始まった。
「まず、精霊を見るには、最低でも三年は精霊に祈りを捧げなければならない。精霊を尊ぶことが最も重要なんだ。それは人間がお願いして、精霊に力を貸してもらっているからに他ならない」
「では、精霊に祈るのは、間違えではなかったのですね!」
「あぁ。ワシューでは、食事の挨拶の時に、『精霊に祈りを』と唱えてから食べる習慣がある。小さい頃からやっていれば、自然に精霊に祈るということになる」
「なるほど」
「ただ、もちろんそれだけでは、精霊は視えない。ワシューでは七歳の誕生月になった時に、王族貴族から平民まで、教会に行くよう義務づけているんだ。例え、孤児でも浮浪児でもね」
「教会で……何をするのですか」
「ワシューでは大人の神官達から、魔力の流れを学ぶ」
アンディは、私の両手の手を取った。
するとだんだん身体が暖かくなり、身体の中を何かが巡っているのを、感じ取ることが出来た。
アンディが手を離しても、その感覚は変わらなかった。
「何かが巡っているのが分かるか? それが魔力の流れというものだ。ほら、お前の隣には何が視える?」
横を向くと、淡いエメラルドにウェーブのロングへアーに、瞳は金色。外見は二十歳くらいで、とても整ったグラマラスな体型の女性がいた。女神のような神々しい顔に、穏やかな雰囲気を纏っている。
『初めまして、ドリス。と言っても、ドリスが小さい頃からずっとそばにいたけどね』
にっこりとおっとりとした口調で微笑んだ。
「貴方が……私の精霊?」
『正確には、私が気に入った人間に憑いているだけだよ』
すると、それについて、アンディが説明した。
「精霊が憑くのは、精霊に気に入られて憑く場合と、契約で憑く場合の二つに分けられる。ほとんどが、精霊に気に入られて憑く。
契約の場合はお互いが了承し、先祖代々精霊が引き継がれる様、儀式をする。滅多にないことだから、この場合気にしないで良い。もし、その方法が知りたい場合は、神官に聞くんだな。この国以外の」
ドリスは精霊に会えた感動からか、ぽけーっとしている。
「おい、聞いているのか?」
「はっ!」
「聞いてなかったのか……」
「あ……あまりの綺麗さに、つい……」
「まぁ……いいや」
アンディはため息をついた。
「あなたの名前は何ですか?」
『アイリスよ。よろしくね、ドリス』
『あ! 俺も紹介してくれよ、アンディ!』
見知らぬ男の声がしたので探すと、アンディの横に白髪に緑の瞳を持つ、若い成人くらいの男がいた。
「私の精霊、ジンだ。風の精霊で噂好きの」
『よろしく、ドリス!』
「よろしくお願いします」
『俺には敬語はいらねぇよ?』
「でも、殿下の精霊ですので」
『えぇ〜……』
「分かりました。なるべくがんばります」
会話が一段落したところで、アンディが話を振った。
「このように、自分に憑いている精霊が視えるようになると、他の精霊も視えるようになるんだ。例えば、リコの精霊も視えるか?」
ドリスは、アンディの侍従のリコを視た。するとリコの斜め上に、髪が黒く、瞳が赤い精霊がいた。この精霊も成人男性の様だ。
「視えました」
「こんな風に視えるようになる。精霊が視えなくても、憑いていることがあるから、いちいち驚くなよ」
「あ……はい」
「次に……」
「殿下! その前に私の精霊の紹介をさせてください!」
『リコの精霊のエンだ。よろしく』
「よろしくお願いします。エンは何の精霊ですか?」
『敬語はいい。炎の精霊だ』
「エンの攻撃は強力でな。仕様に制限がかかっている。攻撃する時は、私の許可が必要なんだ」
「……やっぱり炎って強いのですね」
「エンが特に強いだけだ。平民で、これだけの力を持つ精霊が憑いていることは、異例の様だが……」
「なので、攻撃に関してはあまり頼らない様、お願いします。灯りが欲しいくらいなら、お任せください」
エンの紹介が終わった後、アンディは精霊の階級を教えてくれた。
精霊の階級は見た目で決まる。
・成人に見える精霊は→上位精霊
・少年・少女に見える精霊は→中位精霊
・子どもに見える精霊は→下位精霊
「ロザリファの人間に憑いているのは、ほとんどが、下位精霊だ。だから、上位精霊が憑いている、アルベルツとブローンは目立っていたと言う訳だ。わかったか?」
「わかりました。あの、ちなみに、アイリスは何の精霊なのでしょう?」
「それは本人に聞け。まぁ見た目で分かると思うが」
アイリスは、同じ名前を持つ花をハーフアップした髪に、髪飾りの様にしてつけている。
「アイリスは何の精霊さんなの?」
『植物の精霊です! 植物の生長を促すことが出来るの!』
「地属性の精霊だな。一昔前は、さほど珍しい精霊ではなかったのだが、近年地属性の精霊が激減している。精霊が視える国でも、ほとんど見かけなくなった。その結果、農作物の出来に問題が起こっている」
「それじゃあ……」
「今、視える国は、喉から手が出るほど欲しがっている。……気をつけろよ」
「……はい」
今日は、精霊を視ることだけで、授業が終わった。
「言い忘れていたけど、これからよろしくね、アイリス」
『こちらこそ! やっと話せて嬉しい』
綺麗なお姉さんアイリスは、私にふよふよと浮きながら、抱きついて来た。
ドリスはこのとき、精霊が視えた嬉しさでいっぱいだった。
この先、様々なトラブルに巻き込まれることも知らずに。




