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ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第一章 いざ! 学園へ!!
21/94

20 久々に、本気出しちゃおうかな!


 階段を突き落とされかけた、次の日。


「アンジェリーナ様! 階段から落とされたとは本当ですか?」

「アンジェリーナ様! 正直に言ってくださいませ。ドリス・アルベルツのせいなのでしょう?」

「やはり、アンジェリーナ様を妬んで……」

「違うわ! 私と一緒に落とされたのよ。彼女も気遣うべきではなくて?」


 リーナは蔑んだ目と低い声で、うるさいご令嬢達を黙らせた。

 そしてドリスは、黙々と机に向かい、ノートと教科書を開いてペンを走らせていた。


 昨日、階段から落とされたことは、あっと言う間に噂となって広がった。しかし、落とされた本人達は、ケロッとしている。

 精霊に助けられたこともあってびっくりはしたが、フワッとした感覚が楽しかったのか、そんなに恐い思いをしたとはお互い思わなかった。

 ドリスは、自分のことが噂になっているにも関わらず、昨日アンディと交わした約束を果たすため、勉強に勤しんでいた。


「ドリス! 階段から落とされたって……大丈夫か!?」


 エルが慌てた様子で、ドリスのクラスに駆け込んで来た。


「大丈夫です。怪我一つしてないので、まずは安心してください」

「え? あ……そうか。よかった」


 エルは、ドリスが敬語なのでショックなのと、怪我が無かった安心が入り交じる様な返事をした。


「それより、試験勉強はしているのですか? 私は負けられない戦いがあるので、勉強に集中したいのですが……」

「あぁ……邪魔して済まなかった」


 もうすぐ次の授業の鐘が鳴ってしまう。

 エルは急いで、教室に戻って行った。


 すると、リーナがクスクスと笑いながら近づいて来た。


「彼、貴方のことがそんなに心配だったのね。なのに、その態度はあんまりじゃなくて?」

「心配してくれるのはありがたいですけど……それより、何が何でも一位を取らないと!」

「私も負けないわよ、ドリス」

「あら、残念ながら、勝つのは私ですわ」


 二人で顔を合わせて、にっこりと笑い合った。






 一方、ドリス達の周りは震えていた。

 優秀なドリスが、あんな一生懸命勉強している。それだけ、今回の試験は難しいのではないかという噂が流れ、特にドリスのクラスの男子は、試験勉強に集中することにした。

 同じ下位貴族の女子たちも、ドリスに習い黙々と勉強をしていた。

 唯一、勉強に集中していなかったのは、上位貴族の女性達だったが……


「勉強するのは、上位貴族として、当然のことではありませんか?」 と、リーナが言ったことから、渋々、勉強を始めた。






「ここ。試験に出るから、チェックしとけよー」


 そうボイスが言うと、みんな鬼気迫った表情になり、一斉にペンを走らせた。


「……どうした? お前ら」


 たまたま、担任のクラスの授業をしていたボイスは、皆の変わり様に驚いていた。

 よく見ると、普段授業に集中していない者まで、この日は声を聞き逃すまいと、ギラギラした眼でこちらを見ていた。


 やる気になってくれたのはいいけど……やりづらいなぁ。


 そんなことを思いながら、授業を進めた。







 職員室でも、ボイスのクラスの変わり様が話題となっていた。


「ボイス先生のクラスの生徒、どうしたのですか? いつもとは雰囲気が違うのですが……」

「それが……私にもさっぱりでして……」

「どうやら、アルベルツが勉強に集中しているからみたいです」

「アルベルツが?」

「何でも、負けられないと言っているようで……」

「私は今回の試験が、アルベルツが集中して勉強しなくてはならないほど、難しいからと聞きましたよ」

「試験は……普通ですよね?」

「普段通りですよね」

「では、アルベルツが原因なんですね」

「にしても、集中して勉強するのは良いことだ」

「そうですね」

「近年稀に見る授業風景に、私は感動しました」

「試験が終われば、いつも通りですけどね」

「ボイス先生のクラスの成績が、今から楽しみですなぁ」


 教師の方はのんびりと成り行きを見守っていた。







 そして中間試験が終わり、結果、ボイスのクラスがぶっちぎりのトップの成績をたたき出したのだ。


「やりましたね! ボイス先生!! この成績は何十年ぶりじゃないですか!?」

「いえ! 初めてですよ!! こんな成績!」

「今、調べましたが、学園創設以来、初めてのことです」

「本当ですか!? 歴史に名を残しましたね! ボイス先生!!」

「いや~……ははは……」


 うれしいけど……お前らなんてことをしてくれたんだ!!


 その後、ボイス先生のクラスに入らせたい親が、増え……なかったとか。面倒臭がりのボイスは、この結果にホッとした。








 アンディは、中間試験の上位入賞者が張り出されてある所へ向かった。

 自分が一位だろうと、余裕の表情を見せていた。


 そして、自分の名前を探すと……そこには、あり得ない順位が張り出されていた。


 一位 ドリス・アルベルツ

 二位 アンジェリーナ・ブローン

 三位 アンディ


「さ……三位!?」


 そう、アンディが思わず口にすると、周囲がざわつき始めた。

 するとドリスとリーナも来て、発表を目にしてから、アンディに気付いた。

 ドリスは、アンディに近づいてくると、にっこりと笑った。


「な……なんだ?」

「お約束通り、殿下より上の成績を取りました!」


 とっても嬉しそうな表情だ。


「……仕方ないな。父に進言する前に、親の許可をもらっておけ。それを聞いたら、ロザリファ王はこちらで許可をもらう。その後、父に進言することになる。……ダメだとしても、こちらのせいにしないでくれよ」

「ありがとうございます! 父にはもう、許可をもらっています!」


 ドリスは手紙を差し出した。

 アンディが開くと、そこには「精霊指導に許可をする」と書かれた一文に、ベルンフリート・アルベルツ子爵とサインが入ったものだった。


「分かった。これはもらっておくよ」

「お願いしますね!」

「……あぁ」






 人気の無いところまで来ると、アンディは何も無い方向に顔を向けて、話しかけた。


「ジン、このこと知っていたろ」

『当然だろ?』

「なんで教えなかった!」

『ドリスって娘の精霊が、話したそうにしていたからだよ。それに、アンディも鼻が高くなっていたからな。ここで、へし折ってやらないと』

「……確かに。俺はなめていた」

『それに、入学前の試験あったろ? あれ、一位あの娘だったんだよ』

「じゃあなんで、私が入学式の挨拶を?」

『この学園では、入学式の挨拶を上位貴族以上で、成績が良かった奴がやるんだと。あの娘は、下位貴族だから、選ばれなかっただけだよ』

「そうだったのか……」

『少しは俺を頼らずに、情報を仕入れるくらいしような?』

「……あぁ」


 実は今まで、アンディの後ろにくっついていた侍従のリコは、主のがっくりと下がった肩を目の当たりにし、ひっそりと反省していた。

 リコはアンディの精霊である、ジン以上に素晴らしい情報屋はいないと思い、自分で情報収集することを怠っていたのだ。

 確かに自分の精霊は、情報収集には向いていない。しかし、そうではなく、自分がしないとという頭がなかったのだ。

 リコは気を引き締め、情報収集が出来るよう、努力することをひっそりと誓った。





 嬉しそうな顔をしているドリスに、リーナも思わず笑みを浮かべる。


「嬉しそうね、ドリス」

「まぁね! 本気を出したからには、一位くらい取らないと!」

「次は負けないわよ!」

「その前にアンディ殿下が、本気出しそう」

「そうかも。……そういえば、入学前も試験があったと思うけれど、その時本気は出したの?」

「出さなかったよ」

「……ドリスってこわーい」

「なんで!?」





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