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ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第一章 いざ! 学園へ!!
16/94

15 街へ行ったら、オールバックの男に出会いました。

今回ちょっと長めです。

「つり目」から読んでくださっている方なら、誰が出てくるかわかるかと思います。


 今週末、ドリスはまた実家に戻ろうと思ったところで、手紙が届いた。

 何でも皆、用事があるそうで、実家には帰って来て欲しくないとのこと。なので私は、一人で王都に行く計画を立てた。


 当日、ドリスは歩いて街に向かっていた。


 この学園は貴族の学校なのに、なぜか緩いところがあった。

 いちいち、外出届けを出す必要も無い。

 帰りたい人は、必ず家から馬車がくるので、先生も常にチェックなんてしていない。

 なので、馬車乗り場からそっと抜け出すことも可能なのだ。


 これを教えてもらったのは、義兄のローレンツからだ。よく、男友達と徒歩で街に出て遊んでいたという。そこには、王太子殿下もいらっしゃったというから、驚きだ。

 

 寮は王都から少し離れたところにあるのだが、街には歩いて行けない距離ではない。ただ、あまり長距離を歩くという経験がない貴族にとっては、辛いものだった。


 一方、ドリスは歩くのを苦にしたことが無かったため、ズンズン街へと歩いて行った。

 ちなみに、ドリスが今着ている服は、庶民の服に限りなく近いワンピース姿だ。


 そして無事、目的地に着いた。





 そこはドリスの家にパンを卸している店だった。以前馬車で通った時に、店でパンが食べられるのに気付き、ついに実行に移したのだ。


 ドアを開けると、カランカランという音が鳴る。


「いらっしゃいませ」


 にこやかに、男性のシェフ姿の男性が接客してくれた。


「あの……中で、食べたいのですが……」

「あぁ……あいにく満席でして……相席になりますが、宜しいでしょうか、お嬢様?」

「えぇ。お願いします」


 引き返してなるものか!! という意気込みで、シェフの後を着いて行った。





 案内されたその席は、ドリスは極力座りたくないところだった。

 場所が……という訳じゃない。相席の人物が苦手なタイプだったからだ。


 座っていたのは茶の髪をオールバックにし、がっちりした身体に上等そうなスーツを着崩した、碧眼の美丈夫だった。野性的だが、色気を漂わせている。


 周りの席に居る女性はチラチラと彼を見ている。

 その当事者は、黙々とサンドウィッチと菓子パンを摘んで、コーヒーを飲んでいた。





「ブルーノ。悪い! 相席良いか?」


 シェフは知り合いなのか、気軽に男に話しかけた。


「あぁ? ……しょうがねぇな」

「助かった! 今度おごる」

「おぉ」


 シェフはにこやかに、ドリスをブルーノの対面の席へ案内した。


「申し訳ございません。この席にどうぞ、お嬢様」

「ありがとうございます」


 ドリスはお礼を言い席に着くと、対面の相手に礼を言った。


「相席を承諾してくださり、ありがとうございます」

「お前、貴族学園の生徒だろ? いいのか? 一人でこんなところにいて」


 なぜか、ドリスの身分がバレていた。


「な……何のことでしょう?」

「庶民とは思えない言葉遣いに、所作。商人の娘にもそういう奴はいるが、お前のは洗練されていて、比べものにならない。明らかに浮いているぞ、お前」


 その言葉を聞き、ドリスはショックを受けた。


 せっかく三十分もかけて歩いて来たのに~!!


「寮からじゃ、疲れたんじゃねぇか? どうせ馬車じゃなくて、歩いて来たんだろ?」

「……なぜ分かるのです?」

「バレバレだからだよ、お嬢様。なぜ、お付きも連れてこないで一人で来たんだ?」

「え? 街に行くのに、お付きの者などと一緒に行くのですか?」

「は? ……とんだ世間知らずだな。男はともかく、女は一人じゃ行動しない。せめて、侍女一人とだな」

「そ……そういうものなのですか」


 ショックを受けていたところで、先ほどとは違う店員がやって来た。


「注文はお決まりですか?」

「あ……サンドウィッチと、本日の菓子パンのクリームパンを一つ」

「お飲物は?」

「紅茶を」

「サンドウィッチを一つ、本日の菓子パンのクリームパンを一つ、お飲物は紅茶ですね。少々お待ちくださいませ」





 店員が離れると、ドリスは目の前のオールバックの男に向き直った。


「今日は食い終わったら、すぐに寮に帰るんだな」

「なぜ貴方に言われなければならないのです?」

「大人だからな。……最近物騒なことが起きてるって知らないのか?」

「物騒なこと?」

「例えばスリだ。それに、女性の腕をつかみ、無理矢理どこかへ連れて行くという事件も発生している。……まずは自分の金を確認した方がいいんじゃねぇの?」


 そう言われ、すぐにドリスは財布があるか確認した。ちゃんとあるのを確認し、ホッとする。


「良かったな。あって」

 

 にやりと笑う男に、ドリスはムッとした表情で男を見た。


「ご親切にどうも」

「失礼します。サンドウィッチとクリームパンと紅茶でございます」

「あ……ありがとうございます」

「ご注文は以上で宜しいでしょうか?」

「はい」

「紅茶のおかわりは無料でございますから、何なりと申してくださいませ。それでは、ごゆっくり」


 そう言って、店員は席を離れて行った。






 ドリスは、目の前の男を無視して、食事に集中することにした。サンドウィッチは三種類。トメトとレタシィーが挟んであるもの、卵と何かが混ざったもの、ベーコンが挟んであるものの三つだ。

 ドリスは特に卵のが気に入った。けれど、卵と何が入っているのか分からなかった。


 サンドウィッチとクリームパンを食べ終わり、紅茶を飲み干すと、まだ目の前に男が座っているのが見えた。男はすでに食べ終えているのに。


「うまそうに食ってたな」

「悪いですか?」

「良い表情だった。無自覚って恐いな」

「何のことです?」

「気付かないなら良い。……少しお嬢様と話がしたい。俺はこういう者だ」


 男は、ドリスに厚手の小さめの紙を渡した。それは、最近流行っている名刺というものだった。

 黒地の紙には、白い文字で情報屋としか書かれていない。


「すぐそこにある建物が、知り合いの商会でね。そこで、学園のことを教えてほしいんだ。俺のこと、怪しいっていうなら、さっきいた店長に聞いてくれ。腐れ縁だ」


 なんと、さっきのシェフは店長さんだった。会計の時にまた会い、そこで男のことを尋ねると「安心して良いですよ。あいつは信用できますから」と答えた。


 なので、その男について行くと、その知り合いの商会の裏から入った。





 ドリスは、ここで気づくべきだった。


「おい、居るか~?」


 男が、一つのドアを開ける。そこは、会頭室と書かれた部屋だった。


「お前のところのお嬢様を連れて来たんだけど?」


 男がにやついた声で言うと、何とそこにいたのは義兄だった。


「……どういうことか、説明してくれるかな?……ドリス」


 義兄ローレンツは、凶悪なオーラを放ちながら、笑顔でドリスに尋ねた。

 男は、ローレンツの知り合いだったのだ。





「そう、一人でここまで……確かに俺が、一人で街へって話もしたからなぁ」

「……ごめんなさい」

「いいかい? 君は、家格は下でも貴族なんだ。そんな女性が一人で行動するなんて、とても危ないことなんだよ。しかも人目を忍ばず、堂々としていて無事だったことは、もう……奇跡だよ」


 「はぁ……」とローレンツはため息を着いた。


「ディモの奴が気づいて、俺のところに寄越したんだよ」

「そうだったのか……あぁ、ディモっていうのは、パン屋の店長だよ。こいつは、平民時代の腐れ縁で、ブルーノっていうんだ」

「どうも、ドリス・アルベルツ子爵令嬢」


 最初から、バレバレだったのかと、ドリスは肩を落とした。


「じゃぁ……情報屋っていうのは……?」

「それは、本当だよ」

「ローレンツ。このお嬢様に、情報屋と明かした上で話を聞きたいと、ここまで連れて来たんだ」


 それをブルーノが言ったとたん、ピキッという音がした。


「ドリス?」

「は……はい」

「知らない人について行っちゃダメって、子どもでも知っていることだよね? しかも情報屋に?」

「あ……!? で……でも、ディモさんが信用できるって……」

「もし、悪い奴らとグルだったら?」

「……すみません」

「それにしても、この嬢ちゃんは無自覚だな。周りの男が皆狙っていたのに、全く気づいていなかった」

「え!?」


 さっきの無自覚って……そういうこと!?


「あぁ……この姉妹は皆、周りがそんな目で見ていることに、全く気づいていないんだよ。……頭が痛くなる」

「え……っと」

「ドリス」

「はい」

「この後、学園に強制送還。来週は帰って来ないで、寮で過ごしなさい」

「街で見かけたら、すぐに俺や、街の奴らがローレンツにチクリにいくからな」

「……はい」

「まぁ……脅しはこのくらいで。改めて、俺は情報屋をやってるブルーノってもんだ。学園の情報はいつでも大歓迎だ」

「何か困った調査をしたい時は、頼ると良い。ドリスからはお金をとらない。そうだろう? ブルーノ」

「まぁ……ドリス嬢以外からは取るかもな」

「よろしくお願いします。ブルーノさん!」

「もう、一人で行動するなよ」


 ブルーノは、ドリスに悪戯な笑顔を向けた。


 ドリスは大人しく、ローレンツが手配してくれたアルベルツ家の馬車に乗り、寮に戻った。







ブルーノはこの後も登場します。

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