14 その頃、アルベルツ邸では
エルヴィンの断罪が行われていた頃、アルベルツ邸では、男達が集まっていた。
「カレン!! オリバー!! 大お祖父様だぞ~!!」
「おおじいちゃま!!」
「じー!!」
白髪が多くなった金髪に、緑の瞳を持った、美形の男。まだまだ現役のアドルフ・ブレンターノ伯爵は、ひ孫達と戯れていた。
「ずるいですよ。お義父様」
そう言うのは、デリアの夫のヴェンデル・ベック・ブレンターノ伯爵子息。カレンとオリバーの父、ローレンツの弟だった。
ローレンツに似た容姿で、オリバーにも顔立ちが似ている。唯一兄と違うところは、瞳の色が緑なことくらい。彼も、姪っ子と甥っ子に構いたくて仕方ないのだ。
「まあまあ、順番ね」
やれやれと、カレンとオリバーの祖父、ベルンフリート・アルベルツが諌める。
今日、アルベルツ邸にいる男は、この三人。ローレンツだけは、仕事で不在だった。
三人は、カレンとオリバーと戯れ、二人がお昼寝に入った後、一息をついた。
「今頃、どうしているかな?」
「こてんぱんにやられているに決まっとる。俺だって、あの場にいるのは嫌だ!!」
「同感です」
そのくらいうちの女性は、怒らせると恐いことを知っていた。
「にしても、アピッツ侯爵はどうしょもないの」
「いくら人間関係が苦手でも、自分の立ち位置を把握していないとは……上位貴族には、そんな人が多いのですか?」
「今はな……上位……しかも、歴史ある貴族は、浮世離れしている印象が強い。絶対ではないのだが……」
「伯爵に、そんな人は少ないけど、侯爵になったとたんに増えるね」
「今の侯爵は、ロザリファ建国当時からある貴族が多い。だからこそ、過激派が多くなる」
「考え方が古いですよね。自分の領土を広げる為に、戦争を起こそうなんて……」
「自分の土地も碌に豊かにできないのに、広げたところでどうにもなるまい。それが分かってないのだよ」
「領地経営に関しては、頭が痛いな。つくづく、手放して良かったと思う。私も父と同じで、うまく行かないと思うからね」
アルベルツ子爵家は、かつて、領持ちの貴族だった。ベルンフリートの父の事業が失敗し、それを返す資金集めがうまく行かず、早々に領を王に返上した過去があった。
「今なら、ローレンツ兄上がいますから、大丈夫だと思いますよ」
「確かに。彼には頭が上がらないよ」
ローレンツは、個人でやっている商会があるし、うまく周りを利用出来る人だ。領持ちになったところで、それは変わらないだろう。
「それで? アピッツ侯爵をどうするおつもりで?」
「招待状を出そう。うちで会う」
「ブレンターノ邸で……その方が良いですね」
「相手は研究熱心な方ですよ? 来ますかね? しかも、家格が上位の者を呼びつけることになりませんか?」
「来るだろう。俺には王都での仕事があるし、どうにかして、中立派に戻りたいと思うはずだ。会うのは、俺一人でいい。周りにせっつかれると嫌がるだろう」
「よく分かってらっしゃる」
「プライドの高い者は、笑われるのを嫌うものよ。それで、さらに離れてしまっては意味が無い」
「幸い、アピッツ領は、うまい領地経営をしていますからね」
「香草もそうですが、薬草を栽培しているところでは、大手ですから」
「彼の地で作られるポーションは、国民中が頼りにしているのぅ」
「確かに需要はありますね。香草もお金になりますし」
「無くてはならないものを作っているからこそ、研究にのめり込むのだ。それは、少しでも国民が豊かになって欲しいと思う一心だからな」
「貴族の矜持を知っている侯爵なのですね! なら、味方に付けた方がいい」
そこで侯爵の話が途切れたあと、ベルンフリートがエルヴィンについて、皆に話を振った。
「それより……息子の方ですよ! ドリスにふさわしいのか、疑わしい」
「まあまあ、ベルンフリート。謝りたいと言うのだから、良いではないか。傲慢な奴だったらごめんだが、そうではなさそうだ」
「女性陣の評価を聞いてからで宜しいのでは? それに、ドリスには嫌われているのでしょう? 名誉回復には時間がかかりそうだ」
「父親と同じで、研究馬鹿というのは調べがついている。周りが見えてなかっただけだろう」
「研究馬鹿にも困りものですね」
「ローレンツも研究馬鹿だろう?」
「兄上は、社交も大事と分かった上でのそれです」
「確かにそうだな」
すると、侍女達が三人が居る部屋に入って来る。
「ご歓談中、申し訳ございません。カレン様、オリバー様が起きてしまいまして……」
「おおじいちゃま!」
「……じー……」
「おぉ! カレン! オリバー!! 大お祖父様はここだぞ~!!」
「あぁ……癒される……」
「ところでヴェンデル。今日は、仕事しなくて平気なのかな?」
「無理矢理休みをもぎとってきましたので、ご心配なく。カレン! オリバー! 叔父さんも入れてくれるかな?」
「いいよー。ベーおじちゃま」
「べー……」
「オ……オリバーも……俺の名前を……何て良い日なんだ!!」
「さすがにまだ、ヴェンデルとは言えないからな」
「賢いぞ! さすが我がひ孫!」
ここではブレンターノ邸とは違い、賑やかで穏やかな時間が流れていた。
次回はやっとドリス視点に戻ります。
しかーし! この休み中、色々家族が動いていた中、ドリスは何をやっていたのか?
「つり目」でちらっと出て来た、懐かしのあの男も登場です。




