09 温室で会った、最低男!!
04話で盲点だったものの答え回です。
多分、皆様の予想通りだと思います。
今日は用があると、リーナは申し訳なさそうに言って、帰って行った。なのでドリスは放課後、学校を散策することにした。
中庭に出ると、奥の方に何かがある。行ってみると、そこは温室だった。ガラッと少し音を立てて、扉が開いた。
ここは管理されているのか、どの花も生き生きしている。ドリスは穴場を見つけたとばかりに興奮した。
家ではいつも、花壇に向かって精霊に祈っていた。寮に来てからは朝、ベッドを降りてから、祈っている。
なので、ここでも精霊に祈ってみた。手を組んで、軽く頭を傾け、目を閉じる。
精霊を視ることが出来ますように
「……なにやってるんだ?」
声のする方に顔を向けると、男が温室内のベンチで、横になっていた身体を起こしていた。
銀髪のストレートに、きりっとした目の美形の顔を持つ男子生徒だった。
「何でもいいでしょ。それより綺麗ね、ここの花」
「そうだな。適切に管理が行き届いている。 正直外の空気を吸うより、ここにいた方が数倍良いな」
「あぁ! 確かに。 花好きなの? この香りが嫌いな男性は多いと思うけど」
「うちの領は、ハーブとか薬草を育てているんだ。それの研究を手伝っていたから、よく花は側にあったよ。 俺は、エルヴィン・アピッツ。君は?」
「ドリス・アルベルツ。 貴方、アピッツってことは、侯爵様ね。 下位貴族の私と話していいの?」
「関係ないな。気が合えばそれで良い」
「ふぅん」
ドリスは心の中で感心した。……が、次の瞬間打ち砕かれる。
「あの『魔女』のように、誘惑したり、叱咤するような女は嫌だけどな」
その言葉に、ドリスはカチンときた。
「……アピッツ様、わかっています? 私は、ドリス・アルベルツです。……その言葉、しっかり覚えておきます」
冷ややかに、エルヴィンを見た後、ドリスは温室から出た。
何よ! あいつ!!!
さっき「魔女」と言ったエルヴィンは気付かなかったが、それはドリスの姉、カミラのことであった。
カミラは社交界デビューしてすぐ、そんな浮き名が流れてしまった。最低な従兄のせいで。
その従兄一家は、その従兄と父親が、国庫から横領していた罪で廃され、社交界から消えた。
それはもう、四年も前の話だ。
当時のアルベルツ家と言えば、貧乏子爵と揶揄されるほど、困窮していた。
カミラのドレスは、母アマーリアのドレスを手直ししたもので、ほつれなどもうまく縫うことが出来ず、誰が見ても、似合っていないし、廃れたものだった。
「魔女」と言われた原因は、カミラの緊張から来る強面のせい。カミラは、つり目の綺麗系美人なのだが、緊張で真顔になるとまるで、魔女の様な恐さがあったかららしい。
以来勘違いされ続けたが、ローレンツという頼もしい旦那のおかげで、その浮き名は今、「白薔薇の精霊」と呼ばれるにまで変わった。
未だにそんなことを言う人がいるなんて!! 今すぐ家に手紙を書いて、要注意人物と知らせておこう!!!
ドリスは、真っ直ぐ、寮に帰った。
寮に戻ると、リーナが購買の辺りをうろうろしているのが見えた。
「どうしたの?」
「あ……購買が閉まっちゃって、買いたいものが買えなくて」
「え? もう、閉まってるの?」
「実は……クリーニングにまとめて持ってかれてしまって……あるものが無いことに気付いたの」
「あ! もしかして、案内書通りにしか、持って来てないの?」
「えぇ」
「なら、三階で待っててくれる?」
寮の決まりで、自分部屋がある階以外の部屋には行くことが出来ない。
なので、誰もが使える階段の踊り場で待っててもらうことにした。
ドリスは自分の部屋まで出来るだけ急いだ。そしてリーナのところまで戻って来て、あるものを渡した。
「はい」
それは、紙袋に入っていた。リーナは中をのぞくと、希望通りのものがあったのか、笑顔になった。しかし、本当にもらっていいのか、不安そうな顔に変わる。
「良いの?」
「新品だから、あげます」
それは、ショーツだった。
ドリスは姉、デリアからの事前情報で、下着は多めに持って行った方が良いと、助言を受けていたのだ。
この学校ではクリーニングを毎日出すが、学園が休みの時はクリーニングも休みになる。なので、休み明けにまとめて、クリーニングを出す。
案内書にはなぜか、必要最低限の枚数しか、書いていなかった。真面目にその数しか持ってこないと、痛い目を見るのだ。
「ありがとう!」
「困っていたら、お互い様だもんね!」
ドリスはデリアへの手紙に、事前に聞いていたことが役に立ったという、感謝の言葉も追加した。
次回からは、エルヴィン視点の話になります。
ドリス視点はちょっとお休みです。




