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5◆転生悪役令嬢は国一最低な娼館を高級接待ホテルにのしあげる?

◆転生悪役令嬢は国一最低な娼館を高級接待ホテルにのしあげる?


 ── 16歳前の卒業式の会場で、無実の罪で冤罪の濡れ衣を着せられ、断罪されて娼館に金貨1枚で売られたアルメニーのはずだったが ── 






 冒頭の通り、金貨1枚で売られたはずのアルメニーとして扱われたキロウだったが、奴隷商人の御者として雇われた小助が途中で馬車を止めると、影たちに支持を終えて待っていたアルメニーと、馬車の中のキロウは素早く入れ替わった。


「ご苦労様キロウ。本当によくやり遂げてくれたわ。貴方は引き続き任務に戻って頂戴ね。これからまた忙しくなるから


 小助。それでは手筈通りにして」






     *****






 アルメニーが連れて行かれたのは、経営も雑で女性の扱いも粗雑な最底辺の低俗な娼館だった。


 経営者は水色の髪と瞳を持つブラック・トリコロール子爵。裏では奴隷売買や非合法な取引まで手掛ける男だ。


「新人か。まあ、顔はいいし、白髪は珍しいからそれなりに値がつくか」


 子爵がアルメニーを品定めしながら、おや? と手付金変わりだとばかりに、髪飾り・首飾り・ブローチ・耳飾り・婚約指輪を彼女の体から奪った。


 しかしアルメニーはにっこりと、この国一の王太子妃教育で培った淑女の笑顔を向けると、経営者に奪われた装飾品以外の、足に着けていた足輪・着ていたドレスなどを外すと、長かった白い髪をバッサリと切り落とした。


 もちろん、ただでヌードショーをするつもりはない。


 高級なドレスの下には動きやすくてシンプルではあるが、男装の麗人もかくやと思うようなシャツと足にぴったりしたトラウザース……よりももっとスリムなスラックス系ズボン。


 おかげで、小助を通して身に着けた品々を一番高く売れる店……実は自分で立ち上げた闇商会で即座に換金すると、大白金貨数十枚ほどになったので、大白金貨1枚をオーナーに手数料だと渡し、自分の身と国一低俗な娼館とは名ばかりの娼婦宿事買い上げて影のオーナーになると宣言した。


「どうかしら? これで不足ならもっと色を付けて出してもよくてよ?」


「……あっ! なっ……いえいえ。とんでもございません。これでもう充分。むしろ出せるお釣りがないのが申し訳ない限りでございます。新しい経営者様」


 元経営者のブラック・トリコロール子爵は、先ほどまでの上から目線がすっかり怯えたようになり、相手が格上であり、またアルメニーが、実は自分が運営する裏商売の元締めだと理解するや、平身低頭して従属を示した。


「そう? ああ、それから。先程外された装飾品も手付け金と前金の1部として差し上げるわ。うふふ」


 口元に冷たい笑みを浮かべながら、アルメニーは呟いた。


「……さあ。第二王子様、クロハラ男爵、側妃殿下……あなた方が私を『悪役令嬢』だと思っているなら、その期待にしっかりと応えてさしあげないとね。本物の悪役令嬢の力を、存分に見せてあげますわ」





     *****






 娼婦宿で、自分と娼婦宿を買い上げたアルメニーは、王太子達や学友達が卒業会場で大盛り上がり、更には側妃がお気に入りの愛人を連れこんで寝室で楽しんでいることを半蔵たちからに情報で知り、すぐに手薄になっている王城の側妃と王太子の執務室に侵入することにした。


 王城の静寂は、祝宴の喧騒をよそに、冷たい石壁に包まれていた。


 アルメニーは、切りたての肩までの長さになった白い髪を軽くなびかせ、薄暗い抜け道を進む。


 お祖母様からの知識と、残りの王太子妃教育で教えられた、王族だけが知っている緊急時の避難脱出経路になっている抜け道の出口から逆に、側妃と王太子の執務室に侵入した。


 何しろ15歳からの1年間。残りの王太子妃教育と言う名ばかりの、前半は離宮通いで、王太子だけでなく国王代理の側妃の執務まで代行させられた。後半は使用人たちの横暴から回避し続ける生活で、執務室に泊まり込んだあの日々。その不幸な時間が、今、この秘密の出入り口と経路を知る糧となった。


 それと先に説明した、王妃は病気で亡くなり、国王まで病気で寝込んだ上、正妃の息子である第一王子も落馬の事故で臥せるようになったと言う話。


 実は王妃の病気は側妃と第二王子を担ぎ上げる貴族達からの毒殺。国王陛下は幼少から毒に慣らしていたため正妃と同じ毒で殺そうとしたが効き目が弱くて辛うじて生きのびたがその毒殺未遂。第一王子の事故も人為的故意によるものだと、離宮と執務室を通う中、側妃の実家の子爵家の関係者たちの策略から異能で知ったから。


 私が成人して万が一王太子に嫁いだら、問題になるのが、次期公爵家当主となるはずだったアルメニーを王家自らが奪うと言う事。


 そこで次に正式に公爵家を継ぐのは母の弟の伯爵であり、養父となった叔父伯爵であるはずだった。留学と、離宮通いの王族代理の執務をしている間、きっちり引継ぎをして外交官を辞してまで領地経営を手伝って貰うようになっていたし。


 婚約を打診してきた王家はもちろん、神殿や宰相と元老会と当主が交代する公爵家の全親族達との、国を挙げての会議で、次期公爵家当主がアルメニーからスムーズに交代できる手続きは既に済ませてあった。


 ちなみに叔父の伯爵は10代から外交官としてそれなりに嘱望されていたため、領地なしの伯爵位。爵位は祖母に一時戻すか、他の親族にいつでも譲渡できるようにしているらしい。


 なので、いつでも叔父伯爵が公爵家当主になるのも可能な状態だったので、それが早まっただけ。


「すべてはここから始まる」


 彼女の手には、革製の書類袋が握られていた。


 中身の1つ目は祖父母推薦の後見人であり養父でもある伯爵に公爵家当主を継いでもらう手続きの書類。


 2つ目は私が王太子と婚約しなければ本来は正式な公爵家嫡子だったが、代わりに叔父伯爵が継ぐことになるので、迷惑が掛からないように自分を公爵家から除籍する手続き。


 3つ目は男爵叔父夫婦による、両親の謀殺。


 4つ目は公爵家の財産の横領……は最初から失敗してたけど。元老会議もなしに勝手に公爵家代理人を名乗った詐称罪と、お家乗っ取りの反逆罪の証拠など揃えた。


 それと5つ目に不動産の管理人からの備えつけの家具や備品を勝手に売り払ったり破損させたため、タウンハウスから追い出す手続き。


 6つ目は側妃による正妃の毒殺。

 

 7つ目は王への毒殺未遂と、毒の入手ルートの証拠書類と記録。


 8つ目は第一王子を落馬事故に見せかけた暗殺未遂の記録。


 9つ目に敵対国の間諜との密通を示す決定的な文書。


 そして10個目に王太子……元王太子とは婚約破棄でなく、第二王子の不貞を理由とした有責による正式な婚約解消の申請と、慰謝料の算定書などの手続きの書類など。


 執務室に忍び込むと、そこには誰もいなかった。


 机の上には、まだ温かい紅茶のカップが置かれている。


 側妃と王太子が、それぞれの『お楽しみ』に耽っている隙だ。


 アルメニーは素早く書類を所定の位置に配置し、国王代理・王太子代理としての認印を押す。手慣れた動作。あの1年間、彼女は文字通りこの執務を代行していた。経験に無駄はない。苦痛でしかなかった日々が、今、完璧な計画の礎となった。


 全て整え、神殿にも正式な書類を複写して急いで送ってもらうことにした。


「半蔵」


 低声で呼ぶと、影から執事姿の半蔵が音もなくすっくと現れた。


「神殿への書類複写は届けました。十蔵と才蔵も、審査をスムーズに進めています」


「ありがとう。国王陛下と第一王子殿下の方は?」


「解毒薬は効いている。陛下は意識を回復され、第一王子殿下のリハビリも順調。全盛期の采配が戻られるまで、あとわずか」


 アルメニーはほっと息をつく。前世の知識と、半蔵たちが築いた裏の情報網がなければ、ここまでできなかった。人心掌握術を教え、宰相補佐官や神官として育てた者たちの働き。すべてが噛み合っている。


 彼女は執務室を後にする際、宰相室にも忍び込むと、一枚の紙を宰相の執務机に残した。側妃と第二王子たちのための、事実上の宣戦布告だ。


 あの断罪会場にいた宰相の息子と違い、中立派で思慮深い宰相と、回復された国王の采配なら、側妃たちを断罪後、その座から引きずり下ろせるだろう。


 書類整理後、半蔵の子飼いであり国王陛下から間諜として入り込み、今や宰相補佐官になっていた十蔵、神殿に潜り込み水属性と治癒能力と神聖魔法の使い手の神官の一人になった才蔵、二人とも前世知識で覚えていた人心掌握術などを手解きしてあったので、あれよあれよと大出世していたおかげでスムーズに書類審査を通して貰えた。






     *****






 城を出たアルメニーは、薄明かりの中、自分がかつて『公爵令嬢アルメニー』として過ごした場所を振り返らない。本来の髪色である赤髪に戻し、常時厚化粧だが、化粧を洗い流した姿は半蔵たち影たちや商会以外では誰も知らない素顔を、夜空に晒した。


 名前も、前世の名前の『コトネ』に変えた。この国での公爵令嬢だった自分の痕跡は、半蔵たちに頼んで一切綺麗に抹消されるはずだ。


 自由だ。


 しがらみから解き放たれた今、彼女の目には新たな光が灯っていた。手元には、もう一つの計画書がある。


 かつて自分と娼館そのものを買い上げた、あの場所。最も賤しいとされたその場所を、彼女は知っている。そこで出会った人々の、隠された才能と強さを。


「経験に無駄はない……ね」


 彼女は小さく笑みを浮かべ、闇の中へと歩みを進めた。公爵令嬢としての経験も、王太子妃教育という名の苦役も、すべては次の舞台への布石だった。


 国一最低と言われた娼館を、この国で最も洗練された、誰もが憧れる空間へ。


 悪役令嬢の烙印を押されたこの人生で、彼女はもう一度、ゼロから全てを築き上げる。


 これが、真の転生の使い方だろうと。






     *****






 王太子と従妹、叔父夫婦がどうなるかは知らない。コトネ(アルメニー)はかつて『最低』と呼ばれた娼館に舞い戻った。


 仕事を終えた娼婦たちを、元オーナーであり今は店長になった男と、娼婦たちをまとめているマザーの前に集めさせた。


 そうして、彼らみんなに、


「貧乏人でもなんとか買える安価の値段の娼婦だからと言って、酷い扱いをされている貴方たちみんなを守りたいの」


 コトネは宣言した。


「この娼婦宿を、高級娼館にも負けない娼館にしてみせるわ。それから、貴方たち一人一人が、何か一つでもいいから得意なことや好きにやりたいこと、特技を伸ばせるようにもしてあげるわ。


 それと、待遇の改善もよ。時間給の見直しはもちろん、一日最高でも十時間。週休二日と時間外労働の禁止もね」


 もちろん顧客たちに対しても改善を要求した。無理難題をふっかけ、娼婦たちを傷つけたり暴力を振るおうとする客は、きっぱりはっきり断る。お金を出せば何をしてもいいという問題ではない。彼女たちは大事な『商品』ではあるが、人間でもあるのだから。






「客だから? 金を払ったから? 何をしてもいい? どんな好きなことをしてもいいと思ってるって?」


 ある日、乱暴な客に関節技をかけながら、コトネは言い放った。


「お前ひとりの我が儘で、二度と働けなくなる彼女の今後の働き手としての給料の補償と賠償を、一生払い続けてくれるなら、どうぞ好きにしな!」


 私がカゲロウたちから教わった護身術と前世の格闘技の知識もちょっと使ったけど、横暴な客を絞めながら言ってやった。


「う……わ、わかったから。これからはもう暴力振るいませんから! もう勘弁してくれ~」


「姐さん、ありがとう」


「姐さん素敵」


「……姐さんは恥ずかしいから、せめてコトネ姉さんくらいにして……」


 流石にちょっとやり過ぎたかなと、コトネと名乗ることになったアルメニーは顔を赤くしながら言った。


「「「「「はい! コトネ姉さん」」」」」


 学ぶのが好きで向上心のある者には、語学や地理、情勢などの教育を施した。商品である彼女たちの『品質』の向上だけではなく、人間としての可能性を広げるためだ。


 例えば、趣味で言えば刺繍や繕い物が得意なものは、デザインや色の知識と一緒に縫物全般の技術と、庶民だろうが奴隷だろうが誰が相手でも偏見なく接してくれる洋裁店や服飾に詳しい職人を紹介したり、刺繡や繕い物などをバザーで実際に売ってもらう。もともと貴族令嬢だったらしい白金髪青目の20歳前後に見えるレディが特に熱心だった。


 料理が好きな者には、地産の知識と各国の代表的な料理や様々な料理法とレシピと、元シェフの紹介を。みんなをまとめる青灰髪青灰目のマザーが、元は居酒屋などで働いたことがある上、娼婦たちの栄養や体調管理に必要だからと一番に学んでくれた。


 音楽が好きな者には、国内と周辺国の音楽家や代表的な楽譜の読み方や知識と技術と、知人の音楽家の紹介。


 本や言語に興味がある者には、自国の文字の勉強に始まり、自国以外の周辺国の言語の勉強も。


 計算が得意な者には、経営学と会計の方法と、これは元経営者自らが指導してくれた。


 他には、酷い目にあった仲間たちを助けたい。怪我や病気の手当をもっとちゃんと覚えたいという者には、医療の知識や薬草学と、知人の町医者や薬師を紹介した。アルメニーが最初に来た日に心配そうに様子を見てくれた銀髪銀目のアルメニーと同じ年くらいのパーダが特に素質があった。


 面倒見のいい者には、休日を利用して孤児院で小さい子の世話をする機会や、子育てについての知識などを。まだ見習いで灰色髪茶目の10代前半に見えるプリンが率先して行ってくれた。


 また、受け持ちの顧客のちょっとした大したことない話や雑談でも良く聞いてあげること。悩みを打ち明けてきたら、悩みの内容に合わせた適切な知識やアドバイスができるような知恵も学ばせた。


 コトネは知っていた。この先、どれほどの困難が待ち受けているかを。


 でも、もう怖くはない。


 だって ── 彼女はただのゲームのキャラクターじゃない。二度目の人生を生き、すべてを知り、すべてを計算した上で戦う、本物の公爵令嬢だったのだから。






     *****


きっと…ドレスの生地が高かったんですよ…それとドレスの飾りのレースとか細かい宝石が付いてたとか足輪に付いた宝石が希少品だったと思ってほしい…

髪の毛            :金貨5枚

足輪の宝石、複数個      :白金貨10枚

ドレスの生地         :白金貨4枚

ドレスのレース        :金貨5枚

ドレスに使われた数多の宝石たち:大白金貨15枚


※作者ルール異世界貨幣価値、他の人の作品では違うようだが、だいたいこんなもん?

※青貨   十円

※銅貨   百円

※銀貨   千円

※大銀貨  1万円

※金貨   十万円

※大金貨  百万円

※白金貨  1千万円

※大白金貨 1億円


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