愛しい冷たさ
夜のレストランの扉を開くと、真っ暗で寂しかった。鍵のかかった密室だから当たり前だが、光が当たらず眠っているような静けさの中でもなお、豪奢なものたちはその圧迫するような存在感が私の鼓膜を押していた。
受付を通り、ホールを抜けて、厨房の向こうの冷凍室の前まで行く。その横の壁を一枚剥がせば、人間が一人入るくらいの空間がある。そこにブルーシートと一匹の鼠が横たわっていた。閉じられた世界の片隅で、呑み込んだ言葉も感情も知らずにうつくしく歪んだ顔に、私は触れることができなかった。
料理人は人間が生きていく上で最も大切な行為の一つである食事を提供する者。人を生かす者だ。だから決して死に触れることは許されない。死に触れた手で人を生かす料理を作ることはできない。しかし、触れられる死はある。それは人の糧になる死。食欲を満たすことも、健康にすることも、また見た目で心を癒すことも、糧になる。もちろんそれをそうするためには沢山の課題があったが、最早それらもなくなったことが今日証明された。
幾度となく夢にまで見たこの瞬間。私はようやくこの愛しい冷たさに触れることができる。その一欠片があなたの血肉となった、今となっては。
妙なお題だけで三題話をしてみやがれったーhttps://shindanmaker.com/161245からのお題。「ブルーシートと一匹の鼠」と「寂しかった」と「愛しい冷たさ」。
恋愛お題ったーhttps://shindanmaker.com/28927からのお題。「夜のレストラン」で登場人物が「開く」、「鍵」という単語を使ったお話。
縛りプレイ小説お題ったーhttps://shindanmaker.com/467090からのお題。〔触れられない〕です。〔二次元ネタ台詞の引用禁止〕かつ〔音の描写必須〕。
お題ひねり出してみたhttps://shindanmaker.com/392860からのお題。『閉じられた世界の片隅で』。
お題詰め合わせhttps://shindanmaker.comからのお題。『うつくしく歪んだ顔』/『呑み込んだ言葉も感情も知らずに』。




