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虎にお願い

「はあ……疲れた」

 戦場のような仕事場の残業からやっと帰ってきて、晩飯を食べた後、時計を見ると、もう日付が変わっていた。

 最近はほとんど家に帰ってきて寝るだけで、仕事場との往復のような毎日だ。体力的にも精神的にも限界を迎えて幻覚を見たのだと思った。

 もう寝ようと自室の扉を開くと、虎が待ち構えていたのだ。黄金と黒の危険色の四肢の先からは鋭い爪が飛び出していて、フローリングに突き刺さっている。低く唸るような音を出している口からは肉を引き裂くことに特化した歯が少し覗いていた。

 逃げることも戦うこともできず、あまりの非日常に俺はただ呆然と立ち尽くしていたが、その膠着状態は想像だにしなかった形で破られる。

「こんな夜分にすまない」

 そう虎が言った。言葉といっても唸り声に近く、辛うじて認識できる程度だったが、この場に俺と虎しかいない以上、疑いようはない。

「いつか我が子猫と違わぬ幼かった頃、お前に助けられたのだ。その礼をするため、人の言葉をも使うことができるようになった。さあ、何でも願いを言ってくれ」

 俺にはまだ状況の理解が追いついてはいないが、願いというなら考えるまでもない。

「分かった。とりあえず寝かせてくれ」

小説お題めいかあhttps://shindanmaker.com/656318からのお題。夜、家で虎が登場するご飯を使った話。

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