美しい人
美味しいと不味い、善いと悪い、楽しいと苦しい、など、価値観は人によって違う。
だが、こと美しさに限っては美しいと醜いに絶対的な差がある。美しいもののためだったら、どんな罪でも罪でなく、醜いものには一厘刹那の価値もない。
それを彼女は僕に教えてくれた。だから美しい彼女が醜い僕に何をしようと受け入れなければならないし、咎められるべきではない。もしそのために彼女に危害が加えられるのならば、僕は進んで彼女の代わりに危害を加えられなければならない。
なぜなら、醜い僕が存在するためには、美しいものの側にいなければならないから。美しい絵画や彫刻を磨き、料理の材料を調達し、彼女の作業が滞りなく進むように彼女の希望を叶えなければならない。
「その眼鏡、割りなさいよ」
「そ、それは……」
できない、とは言ってはいけない。たとえこの眼鏡が僕が初めて唯一美しいと思ったものでも。
「早くしなさい」
彼女の指が魔法のように眼鏡を手に取り、振り上げられるのがぼんやりとした視界でも見えて、その後の一分間のことは、後からどれだけ思い出そうとしても、思い出すことができない。
絵画、彫刻、料理、彼女の指。
僕の部屋には美しいものが溢れている。
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