34話 アリスの頼み。
俺達のギルドホームにアリスがやって来ていた。
彼女はちょこちょこ俺達のギルドホームに顔を出しているので、リオンとダンとも仲は良かった。
「こんにちは~いますか? って居た!! お久しぶりですー」
「アリス、久しぶりだな。今日はダンジョンに潜らないから潜るなら明日になるぞ」
「アリスさん。お久しぶりです」
「アリス姉ちゃん。元気してたか?」
アリスは気さくにリオン達と挨拶を交わした後、俺の傍まで駆け寄ってきた。
「今回はダンジョンに潜りたいって言う訳じゃないんです。実はですねちょっとしたお願いがあって…… 」
「お願い? 俺達にか? 知らない仲でもないからな、出来る事なら考えるが?」
アリスは頭をかきながら話し出した。
アリスの話を聞けば、どうやら首都の次に大きな街である商業都市【サイフォン】で同盟国の【カンダン】の皇太子が参加する大きなイベントが行われるらしい。
そのイベントに露店を出す商人が依頼主で、首都から【サイフォン】までの護衛任務を受けて欲しいと言う事のようだ。
「護衛の任務ねぇ…… アリス、お前が入っているパーティーはやってくれないのか?」
「いやー遠いから嫌だって言われて、誰も協力してくれないんですよ。報酬が良かったから…… 実はもう受けちゃったんですよねぇ~」
口笛を吹いて誤魔化そうとしているが、スースーとしか言っていない。
多少、怪しいがアリスが悪い奴じゃないのは分かっているので、依頼を請けるのは構わない。
リオンは去年の繁殖期は商人の護衛に付いていたと言っていた。
なら経験済みと考えていいかもしれないが。
最悪ダンにとって今回は少し相手が悪いかもしれない。
「それに、行きと帰りの護衛の時間以外はフリーみたいなんで、皆で観光もできますよ。もちろん滞在中の宿代は依頼主持ちなので、お得感満載です。露店もたくさん出ますし絶対に楽しいですよー」
身振りを交え必死にアピールしてくる。
それ程まで困っているのだろうか?
「たくさんの露店!?」
露店という言葉にリオンとダンが食いついてきた。
「うんうん。リオンちゃんには新しい装備とか可愛らしい服、ダン君も孤児院の子供たちに色々とお土産を買って帰れるよ」
既に二人は物で釣られかけている。
しかし二人はこの護衛の依頼がどういうもの分かっていない筈だ。
俺が心配している事は俺達が戦う可能性がある敵が人間だという事。
「うん。ラベルさん、これは受けるべきだよ!!」
「なぁー受けようぜ。アリス姉ちゃん困ってるじゃんかよー」
自分達が買い物をしたいだけだろうが? とも思ったが、俺は口には出さなかった。
アリスも俺達の実力を認めてくれている。
冒険者なら護衛の依頼など普通にやっていると思うだろう。
だから深く考えずに頼んできているかもしれない。
しかしリオンは冒険者となって二年目、ダンは冒険者になって間もない。
護衛の依頼がどう言う事か分かっていないだろう。
まず最初にリオン達にハッキリとさせておいた方がいい。
「俺は何度もこういう依頼を受けているから、大丈夫なのだが…… ダンはもし戦闘になったら誰と戦うのか理解しているのか?」
「えっなに!? 誰が敵なのかって…… あっ」
ダンは俺の伝えたい事に気付いて息をのむ。
そうもし戦闘になったら戦う相手は魔物ではなく言葉が通じる人間なのだ。
生半可な覚悟では返り討ちに遭うだけだろう。
俺は確認の為、リオンにも声を掛けた。
「リオンは大丈夫なのか?」
「うん。私は去年、護衛の依頼を受けて何度か戦っているから大丈夫」
「俺だって大丈夫だ!!」
ダンは俺の予想を裏切り、怯えなど見せなかった。
「二人には話していなかったけど、捨て子の俺だけじゃなく、孤児院には村を襲われて両親を殺された子供たちもいっぱいいるんだ。俺は何度も聞いている、あいつらは笑いながら人間を殺すんだって。だから彼奴らは人間じゃない。俺はもし戦う事になったとしても怯えたりはしないぞ」
ダンは力強く答えていた。
別に今すぐこの依頼を受けなくてもリオンとダンは大きく成長してくれるだろう。
しかしセンスがある二人の事だ、大きく成長した時に必ず周囲の嫉妬や策謀に巻き込まれてしまう。
そんな時に、敵対する人に攻撃ができないのは致命的だ。
今回はダンもやる気をみせている。
なら俺は先を考えて、この依頼を受けた方がいいと思い始めていた。
理由は俺がいる今なら、若い二人が人を傷つける事になったとしても、最大限のフォローが出来る。
出来るだけ二人の心が傷つかない様に、フォローしながら対人戦に慣れて貰う。
「ダン、勇気があるのは良い事だ。しかし本来なら人に対して攻撃をする事に抵抗を感じなければいけない」
「うん」
「だけど今の時代、悪党を野放しにしていたら、ダンの言うとおり孤児が増えるだけだ。心を強く持って、相手を見極め戦う相手を間違えない様にしよう。大丈夫、今回は俺が絶対に二人を人殺しにはさせない」
「うん。わかった」
「俺も分かった」
なんとかリオンも納得してくれた。
後は俺が約束を守るだけだ。
俺達のやり取りをアリスは無言で見守ってくれていた。
「アリス。こっちの意見はまとまったぞ。後は依頼内容と報酬の内容を話してくれ、分配が適正なら協力してやってもいい」
「やったー。ありがとうラベルさん」
話を聞くと依頼主は俺も知っている首都にある中堅クラス商会だ。
手広く商売をやっているとも聞いているし、あの商会の依頼なら報酬の不払いもないだろう。
内容は行きと帰りの荷馬車の護衛で二十四時間態勢で行うとの事だ。
アリスの話が本当なら報酬も良く、俺は乗り掛かった舟という事でその依頼を共同で受ける事を承諾した。
★ ★ ★
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。移動は片道五日程掛かる予定です。街道には盗賊が出る可能性も高いので、十分警戒をして下さい」
「はい」
軽い挨拶をした俺達は馬車の護衛の任務に就いた。
馬車は全部で三台あり、荷物が山積みされている状態だった。
馬車の速度は歩くよりも速く、並走して護衛するには少々きつい。
なので先頭と最後尾の馬車に二名ずつ分かれて乗っていた。
もし盗賊に襲われる事になれば瞬時に飛び出す用意はできている。
最前列の馬車にはリオンと俺。
最後尾の馬車にはダンとアリスだ。
ダンは弓を使えるので、どちらから襲われたとしても援護が出来る。
一日目は特に何もなく過ぎ去った。
夜警も二人ずつ四時間で交代と決めた。
俺はリオンと周辺警戒しながら雑談に興じる。
少しくらい気を抜かないと、集中力を必要とする護衛任務は上手くいかない。
「どうだ。ダンジョンアタックと違うが、やれそうか?」
「うん。護衛は新鮮で楽しい」
「冒険者の中にはダンジョンにはあまり潜らず、こういったクエストメインで生活している奴らもいるんだぞ」
「聞いた事はある」
「人には得手不得手があるからな、リオンも色んな事にチャレンジして自分に合ったものをみつけたらいい。もちろんダンジョンに潜りたくなくなったんなら遠慮しないで言うんだぞ」
「うん。解った…… でもダンジョンアタックをやめる事はないよ」
「そうなのか?」
「うん。だって私はずっとラベルさんと一緒にダンジョンに潜りたいから。あの時、差し出してくれた手の暖かさはずっと忘れない」
照れたようにリオンは言った。
「そうだな。俺もリオンと出会ったおかげで今もこうしてダンジョンに潜れているんだしな。リオンには感謝してもしきれないよ」
「あはは。それじゃ私と同じだね」
「そういう事になるな」
話をしている内に交代時間となる。
俺達はダンとアリスをおこして、眠る事にした。




