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142話 強者との再会

 A級ダンジョンに入ってから4日目。

 攻略は順調に進んでおり、今は5階層に突入していた。

 1階層からずっと迷宮構造のダンジョンが続いているが、魔物はスケルトンから屍食鬼(グール)へと替わっていた。

 グールは人に近い姿をしており、2本足歩行をする魔物だ。

 そして手には五本の指と尖った爪が伸びている。

 肌は黒光りしており、全身には毛が一本も生えていない。

 顔は獣に近い感じで、口を開くと鋭い牙が無数に見える。

 グールの姿は人に近いのだが、知性はなく冒険者を見つけると集団で襲ってくるのが特徴だ。

 そしてグールの好物は死肉で、倒した冒険者に群がる姿を見て心を折られる冒険者が一定数存在する。

 個体の強さはA級ダンジョンに現れる魔物の中では低い方だが、集団で現れた時の強さは一気に跳ね上がる危険な魔物だろう。


「アリスとリオンは前方の3匹の相手をしてくれ! リンドバーグは左側の二匹の足止めを頼む! 俺もそっちの応援に入る」


「「了解!」」


「ダンも攻撃できるタイミングを見つけたら、遠慮なく攻撃をしてくれていいからな。ただし声掛けだけは絶対に忘れるな!」


「あいよ」 


 アリスとリオンは並び立つと、同時に前方へと走り出す。

 その動きはシンクロしていた。

 アリス達に合わせて、前方の3匹のグールも突っ込んで来る。

 そのまま互いの間合いに入る手前で、アリスが突然空中に大きくジャンプをした。

 グールはアリスの動きに釣られて上空を見上げる。


「スキだらけだよ」


 しかしその間にリオンが間合いに飛び込み、一匹の首に剣を叩き込む。


「ギァァァァー!!」


 断末魔を上げながら地面に倒れ込むグールの首と胴体は二つに切り裂かれ、青い血液が空中に飛び散っていた。

 空中に飛んだアリスは、体をしならせ手に持っていた細身の剣を限界まで引き付けていた。

 その姿は弓を引く姿に似ている。

 そのまま重力に身を任せ、自分の間合いにグールが入った瞬間に二連突きを放つ。

 

「はぁぁぁーっ!!」


 二匹のグールは何もできずに、一瞬で脳天を突かれその場に倒れ込む。

 前方の三匹のグールとの戦闘はほんの数秒で終了する。


 その間にリンドバーグは【ダッシュ】のスキルを発動させ、左側にいたグールを盾で弾き飛ばしていた。

 盾には大きな棘状の突起が取り付けられている為、盾で弾き飛ばす行為自体が強力な攻撃へと変わる。

 新しい盾は重量もあり、高速でタックルを仕掛けられたグールの骨は砕かれ、体は血だらけへと変わる。

 吹っ飛ばされたグールはそのまま絶命していた。


「新装備で一番化けたのは、たぶんお前だよ。リンドバーグ!」


 応援に入った俺が手を出すまでもなく、リンドバーグは危なげなく二匹のグールを倒していた。


「自分で言うのもなんですが、確かにこの盾の破壊力は恐ろしいですね」


 リンドバーグのスキル【ダッシュ】は任意の方向に短距離だけ高速で移動できるスキルだ。

 スキルを発動させると低空飛行する感じで移動するのだが、移動中は体が固定され、スキル使用後も少しだけ硬直時間が発生する。

 硬直したタイミングを襲われたら弱いが、装備込みの重量物が高速で体当たりをしてくるのだ。

 説明するまでもなく、その衝撃は凄まじい。

 【ダッシュ】のスキルは攻防に優れた強いスキルだ。


(これで終わったか…… ん? リオン!?)


 現れた五匹の魔物を全て倒した筈なのだが、突然リオンが奥へと走り出した。

 俺が視線を向けると、リオンが向かっている先に黒い影が動いている。

 どうやらグールがもう一匹隠れていたみたいだった。


「リオンねーちゃん。そいつは俺がやる!!」


 ダンもグールに気付き、リオンに声をかけた。

 リオンが声に反応して動きを止めた後、ダンは遠くにいたグールに向かって矢を放つ。

 距離は結構離れていたのだが、矢は勢いを落とす事無く飛んでいくと、そのままグールの胴体を貫通する。


「ヒューッ!」


 ダンは口笛を吹いて満足げな表情を浮かべた。

 

(今の距離は以前の弓じゃ届かない距離だったな。その距離でこの威力……)


 ダンが広い範囲で援護が出来るようになれば、戦闘時の安定感が大きく増す事になる。

 流石は新装備である。

 予想以上の性能に俺も自然と笑顔になる。


 その後も順調に探索を進めていると、競技場と変わらない円形の大きな広場に到着する。

 広場の周囲の壁には幾つもの通路が見えており、どうやらここで道が枝分かれしているのだろう。


 そして広場の中心部分では二人の冒険者が二十匹近いグールに取り囲まれている状況が見えた。

 どうやら(トラップ)に引っかかったみたいだ。

 ダンジョンには、突然魔物が大量に沸いてくる罠が仕掛けられた場所が存在する。

 部屋の様な場所や行き止まりに辿り着いた時など場所は様々で、罠に掛かった冒険者を恐怖に叩き込む。

 冒険者達はそんな罠を総じてトラップと呼んでいた。


「どうやらトラップに引っかかったみたいだ。すぐにあの二人の援護に入るぞ!」


 どう見ても二人で相手できる魔物の数ではない為、俺は二人を助けるために戦いに参戦する事を決めた。


 そして俺たちが動き出したと同時に戦闘は始まる。

 たった二人に十倍近い魔物が同時に襲い掛かり、俺は二人冒険者が血祭りに上がる未来を想像した。


「がははははっ! 掛かってこい魔物ども」


「流石に数が多いから、アックスが困っていても助けてやらないからね」


「馬鹿野郎! この程度の数で俺が困るわけがないだろう」


 しかし聞こえて来たのは叫び声ではなく、余裕を含んだ好戦的な言葉だった。

 更に近づいて分かったのだが、魔物に取り囲まれていた二人の冒険者は一階層で出会ったあの二人組の冒険者だった。


 筋骨隆々の男はアックスと呼ばれており、自分の背丈と同じ長さの鉄製の棒を頭上で回転させている。

 鉄の棒の先端には無数の突起が取り付けられていた。

 その鉄棒を振り回し、グールを力ずくで粉砕していく。


 そしてもう一人の少年も、死ぬかもしれない状況だというのに全く恐怖を感じていない様に見える。


 そのまま始まった戦闘を目にし、俺たちは足を止めた。


「こいつら、マジかよ……」


 お調子者のダンが目を見開いて見ている。


「これは…… 化け物ですね」


「流石にお父様にはかなわないとは思うけど…… お父様以外にも筋肉ゴリラがいたなんて……」


 アックスを見て、リンドバーグとアリスが感想を述べる。


「ラベルさん、もう一人の少年も強いよね? 動きに無駄がない感じ」


「リオンの言う通りだな。彼もかなりの実力者だ。これなら俺たちが助ける必要もないだろう。無暗に手を出すより、今はこの場所で様子を見よう」


 どう見ても苦戦している様子ではない。

 今応援に入ってもお節介にしかならない。

 一応、援護に入れる距離で俺たちは戦いを観戦する事に決めた。


 アックスは鉄の棒を振り回し、次々にグールを破壊していく。

 その豪快な戦い方を目にした俺は、カインとダンジョンに潜っていた頃を思い出す。


(カインの奴も、最初はこんな感じだったよな)


 俺が懐かしんでいる間に、戦闘は終わりに近づいていく。

 当初は二十匹近くいたグールの群れは、既に片手で数えれる程まで倒されている。


「おりゃぁぁぁっ!」


 その後最後の2匹のグールを2体同時になぎ倒した後、俺たちの方に鋭い眼光を向けた。


「何だお前たちは……? なぜそこに居る?」


 俺たちの事を警戒しているようで、トントンと鉄棒で肩を叩きながら俺たちの方へと距離を詰めてきた。

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