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101話 ブロッケンの屋敷へ

 今、俺達はブロッケン様が治める鉱山がある地域へと向かっている。

 

 実はあの後、もう一つ別の事件が起こっていた。

 それは捕虜として俺が捕らえていた襲撃犯がいつの間にか姿を消していたのだ。 

 自力で逃げ出したのか? 他に仲間が隠れていて助けられたのか? それとも…… 

 様々な憶測が頭をよぎる。

 

 あの時は一分一秒が惜しい時だった為、拘束してそのまま放置していた。

 その事自体は俺も納得している。

 とは言え、正直に言えば情報源を失った事は痛い。


 あの時、真っ先に一階へと降りて行ったブロッケン様に何か気付かなかったか尋ねてみたが、何も見なかったとしか言わなかった。

 アリス達はブロッケン様が怪しいとは言ってたのだが、決定的な証拠が見つからないので、それ以上の追求も出来なかった。


 なので次こそは必ず証拠を掴んでやろうと心に誓う。

 


◇   ◇   ◇



 今はミシェル様や荷馬車を護衛しながらの移動なので、速度はゆっくりとしている。

 

 今の隊列を説明すると、先頭を進む上等な飾りが付けられた箱型の馬車にはミシェル様とメイドのメアリー、そしてブロッケン様の三人が乗っており、その馬車を操る御者の隣にはダンが座り正面や周囲を警戒していた。

 

 俺とアリスは馬に乗って馬車の両脇を並走しながら進んでいる。

 

 その後方には雨除けのほろが付いた荷馬車が大量の荷物を積み込んだ状態で追走していた。

 荷馬車を操る御者の横にはリオンが乗っている。

 そして一番最後に馬に乗ったリンドバーグが後方の護衛に当たっているという感じだ。


 ダンとリオンは馬に乗れないので今回は御者の隣に座っているが、この任務が終われば馬に乗る訓練をさせた方がいいだろう。


「ラベルさん」


 何事もなく平穏に移動していると、突然反対側にいる筈のアリスが俺に近づき、声を掛けてきた。


「どうした? 何かあったのか?」


 何が起こったのかと心配して、周囲を見渡したが特に問題は無さそうだ。


「この辺りは周囲の見通しもいいから、今は襲われる心配は無いでしょ?」


 この場所は広々とした平地が続く草原地帯であった。

 確かに見通しも良く、敵が隠れる場所は何処にも見当たらない。


「そうだな。それでどうしたんだ?」


「今の内にこれからの動きを確認しておこうと思って」


「あぁ、そう言う事か。現地に着けば状況は変わるかもしれないが、今回ミシェル様の事は全てダンに任せてみようと思っている」


「うん。でも大丈夫かな? 数で押されたら幾らダン君でもヤバいんじゃない?」


「アリスの言う事も理解できるが、そうならない様な立ち回りをして貰うか、そうなっても対応できる万全な状態にしておくしかないだろう」


「ダン君がミシェル様の護衛に付くなら、私達は伯爵様の救出に動く訳だね」


「あぁブロッケン様が本気で伯爵様を助け出すつもりなら俺達も協力するが、そうでなければ俺達は協力するフリをしつつ独自で動くつもりだ。しかし俺達がブロッケン様の意に反した行動をした場合、ミシェル様に危険が加わる可能性が高くなる。だから穏便に行動する必要があるだろう」


「そうだよね。まずは情報を集めて伯爵様の状況を確かめないと」


「後、アリス達にはまだ伝えていなかったんだが、マルセルさんに頼んで、ある場所に手紙を届けて貰っているんだ」


「手紙?」


「あぁ、実は助っ人を呼ぶつもりなんだが、間に合うかはハッキリ言って賭けだな。だがもし間に合ったら必ず役に立つだろう」


「助っ人? それって誰なの?」


「アリスは出会った事が無いから知らない奴だよ。態度はアレだが…… 腕は立つからな。来たら必ず紹介するよ」


「ラベルさんが、そこまで言い切る人なら信用出来るね」


 その後俺達は警護を再開し、翌日の昼にブロッケン様の屋敷へと到着した。



◇  ◇  ◇



 屋敷には多くの人間が集まっていた。

 冒険者風の身なりの者からそうでは無い者、数も多いが一貫性がない。

 ただ全員が武器を持っている上、戦い慣れしている雰囲気を醸し出していた。

 

 俺達は屋敷の中へ案内され、ミシェル様は本館の一室を与えられる。

 ダンには部屋のチェックと逃亡ルートの確認を徹底しておく様に伝えた。


 その後、俺達は全員で協力しながら荷馬車から荷物を運んでいると、一人の冒険者が近づいて来る。


「おい。ちょっといいか?」


 見知らぬ顔だったので、とりあえず俺が対応する。


「何か用か?」


「手を止めて悪いな。俺はソドムって言う者で、今はブロッケン様の護衛任務に就いている。今回はブロッケン様からの伝言を伝えにきた。今から一時間後に伯爵様救出の会議が開かれるから、あんた達も参加する様にとの事だ」


「了解した。それで場所は?」


「屋敷の一階にある集会室に臨時の会議室を作っているからそこで開かれる。俺は伝えたから、ちゃんと参加しろよ!」


 そう告げるとソドムはそのまま去ろうとした。

 

「ちょっと待ってくれ。会議が開かれるまでの間、屋敷の周りを確認して回っていいか?」


「問題ない、好きにすればいいさ。敷地にいる者の半数は急遽集められた寄せ集めばかりで、あいつ等も好き勝手に動き回っているからな」


「そうか。後、俺はラベルって言うが、よろしく頼む」


「あぁ、よろしくな」


 俺達は荷物の運搬を終えた後、二手に分かれて屋敷の周辺にいる集められた冒険者達に話しかけ、情報を集める事を決めた。


 今回は俺とリンドバーグの男性班とアリスとリオンの女性班に分ける事にする。

 その理由は至ってシンプルで、男性は女性に弱いからだ。

 女性の方が警戒心も薄れ、情報が引き出しやすくなる。

 なので見た目も綺麗な二人になら、有用な情報が手に入る可能性が高いと俺は考えた。

 

 それにもし調子に乗って手を出されたとしても、あの二人なら軽く返り討ちにしてしまうだろう。

 一人ではもしもの事もあるので心配にも思うが、二人が揃えば同数のA級冒険者が相手でも問題はない。


「リオンは人見知りだから難しいかもしれないが、アリスお前なら聞き込みも大丈夫だろう。有益な情報が手に入れば助かる」


「任せて! 諜報活動は初めてじゃないから全然大丈夫だよ。リオンちゃんは私の横で笑っているだけでいいからね」


「うん」

 

 アリスは可愛らしくウインクをした後、力強く胸を叩く。

 その後、二人が遠ざかる姿を見送っていたが、俺の予想通り容姿の良い二人が並んで歩くだけで、その美貌に引き付けられ、すれ違う男達は全員振り返っていた。 


「あの二人なら大丈夫だろう」


「ですね。でもパッと見た感想を言えば【狼の群れに羊を放り込むようなもの】と言った感じですね」


「そうだな。でもその羊が【羊の皮を被った狼】…… いや猛獣だと気づく者が何人いるんだろうな?」


「初対面なら私も絶対に気づきませんよ。あの二人の見た目はハッキリ言って詐欺レベルです」


 俺とリンドバーグは騙されているとは気づかず二人に手を出す馬鹿な冒険者が居ない事を祈りつつ、ご愁傷様と手を合わせた。

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