コミカライズ連載記念 小話
「ふぁ……」
双子のお昼寝時間。
静かになった部屋で、私はそっと伸びをして紅茶に口をつけた。
「マイレディ!!ただいま戻りました!!」
突然、窓が勢いよく開き、ヴァイス様が風と一緒に飛び込んできた。
「……旦那様。毎回毎回お約束のように窓から入ってくるのはおやめください!ちゃんとドアから!」
紅茶をいれていたキールさんが、ドアを指さしながらさけぶ。
「わかりました。ここに一つドアをつくりましょう。そうすればすべての問題は解決します。所詮ドアも窓も基本的原理は同じ。ただ大きさと用途に微々たる違いがあるだけです」
「そんな事をして子供があやまって開けてしまって事故ったらどうするんです?」
マーサさんがジト目でいうと、ヴァイス様がはっとして。
「なるほど。確かに子どもにとってはドアはドアであり、そこをあけたら危険があるという認識できるまでに要する成長というものを私は知りませんでした。これは盲点です」
そう言って腕を組んで考え始める。
「何アホな事言ってるんですか」
キールさんが心底呆れた顔をするがヴァイス様がぽんっと手を叩き、
「子どもが届かない位置にドアをつくれば問題の全てが解決するのでは!」
と瞳を輝かせた。
「なんでこの人奥様のことになると知能指数がだだ下がりするんですか」
と、キールさんが心底あきれたように突っ込んだ。
ふたりのやりとりに思わず笑っていたら——
「ふぇぇぇぇ……」
双子がぐずりはじめた。
「あっ、ほらっ旦那様が騒ぐから!!」
「これは私のせいなのでしょうか!?」
キールさんとヴァイス様が慌てる中、
マーサさんが双子を抱き上げると——
すやぁ……
一瞬で寝息を立て始めた。
「……手慣れたものですね」
「流石は三児の母です」
ヴァイス様とキールさんが感心している。
「久しぶりに旦那様が帰って来たんですから、息抜きしてきたらどうです?
お二人でデートでもいってきたら?」
マーサさんがウィンクしながら言ってくれる。
視線が自然とヴァイス様に向く。
ヴァイス様も、私を見る。
「……では。久しぶりに二人で」
差し出された手を握ると、ヴァイス様はそのまま私を抱き上げた。
「え、あのヴァイス様!?」
「愛していますよ、愛しのシルヴィア」
耳元でささやかれ、胸がどきんと跳ねる。
本当にヴァイス様はこういう時の声が凄く甘くて困る。
「私も愛しています。ヴァイス様」
その言葉で、彼は嬉しそうに頬を染めた。
***
「今日はどこへ?」
「ついてきていただければ分かりますよ」
屋敷を出て向かったのは、街を一望できる静かな丘だった。
夕陽がちょうど沈みかけ、街が金に染まり始めている。
「こんな場所があったなんて知りませんでした」
「では、もう少し特別な場所へ行きましょうか」
そう言って、彼は崖の端に立ち——
一歩、空へ踏み出した。
「これは……あの時の」
ヴァイス様が私の国で告白してくれた時の魔法だ。
「はい。今日はあれからちょうど二年……あなたと私の記念日でもあります」
その言葉に私は顔を赤くする。
「……そうですね。もう二年……」
感傷に浸っているとヴァイス様が目を細めて嬉しそうに微笑んでくれて、そのまま空中を歩き出す。
ふわり、ふわり。
足元には透明な“空の床”のようなものが広がり、街の灯りが反射してきらめく。
あの日、あの時と同じ幻想的風景が広がって、私の中にいろいろな思いがこみ上げてきた。
ヴァイス様に出会う前までの私は――仕事に追われ、自分に自信ももてなくて、好きだった錬金術師の仕事すらできなくなっていた。
でも今は違う。
ヴァイス様がいてくれる。
支えてくれて――一緒にいてくれて――ともに笑ってくれるて、そして私を愛してくれる愛しい人。
ヴァイス様がいっぽいっぽ踏み出すたびに、街じゅうの灯りが徐々に灯されていく。
宝石を敷きつめたような光が広がって、まるでどこかの物語の世界だった。
「綺麗……」
「では、一曲踊っていただけますか?」
いつの間にか、キールさんが空中でヴァイオリンを構えていた。
「キールさん!?」
「旦那様が、どうしても“雰囲気が大事”と……いい加減人をこき使うのはやめてほしいのですが」
呆れつつも曲を奏で始める。
私はヴァイス様に手を取られ、そのままステップを踏む。
空の上で、宝石のように光る街を背景に。
「夢みたい……」
思わずつぶやくと、
ヴァイス様がほほえんだ。
「マイレディ」
「はい?」
「これからも、ずっと……あなたと共に歩いていきたいのです」
心臓がぎゅっとなった。
「……私も。ヴァイス様と一緒なら、何でも乗り越えられます」
そっと抱き寄せられる。
夕陽と星空のあいだ。
風が冷たく、でも腕の中はとても温かい。
「あなたの幸せは、私の世界そのものです」
「……ヴァイス様……」
そのまま、彼の顔が近づき、
そっと唇を重ねた。
空の上で、
街の灯りが瞬く中で。
ひとつの願いが胸に満ちる。
どうか、この幸せが
いつまでも、いつまでも続きますように——。
――終わり。
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『無能だと捨てられた錬金術師は敏腕商人の溺愛で開花する』
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よもも先生の作画、本当にすごくて素敵です!!!
シルヴィアの儚さと強さが同時に伝わる表情、
ヴァイスの包み込むような大人の魅力……
素敵に描いていただけて本当に幸せです!!!
よもも先生、素敵な世界を描いてくださりありがとうございます…!
▼無料で読めますので何卒何卒よろしくお願いいたします(๑•̀ㅂ•́)و✧
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