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閑話 :キース視点

「キース様、あれは私の知るヴァイス様なのでしょうか?」


 入国手続きに時間がかかっていた本国の腕の立つ護衛や使用人達が屋敷に到着するたびに問われる言葉にキースはため息をついて


「貴方の知るヴァイス様です。気がふれたわけでも、操られているわけでも、怪しい薬をやっているわけでもなく、シルヴィア様といるときはあれが通常運転なので、思うとこはあるかと思いますが受け入れてください」


 と、返事をした。


 キースやマーサはまだ彼がああなる過程を見ていたからいいものの、本国で働いていた護衛や使用人は、人目もはばからず愛を囁き、イチャイチャしだすヴァイスについていけずに、若干……というかかなり引いていた。


 いつも冷静沈着で、一人の時は書類を読みふけるか、使用人達にも労りの言葉をかけてはいたが基本仕事以外の話をしない彼が、ニコニコ嬉しそうにシルヴィアと話している姿に「別人では?」と本気で疑ってしまう部下までいる始末だ。


 もともと、裏で動くときはモーニングスターを狂気の笑みと歓喜の声をあげてぶん回す変人だった姿を知っている者は、「たしかに、素養はあった!そういうものかも!」とスムーズに受け入れたのだが、表のヴァイスしか知らない者達には受け入れがたい状況らしい。


「まぁ、そのうち慣れますよ。他国で働く分特別手当もでますから、仕事に励んでください」


 と、ぽんぽんと背を叩き、ヴァイスの飲み物とシルヴィアの飲み物を用意すべく歩き出す。


 ヴァイスは本来茶を好んでいたが、葉巻が吸えなくなってからはコーヒーを飲むようになった。特に後味の苦いセドニア産を好み、シルヴィアはトード産のお茶にレモンをそえたものを好む。


 懐中時計をとりだし、時刻を確認すると、そろそろ運ぶころかなと、カップとティーカップを用意する。


 人員がかなり補充されたおかげでキースもそれなりに自分の時間がもてるようになってほっとする。武術のみならキースよりも腕のたつものも到着した。シルヴィアを常に守っているので大丈夫だろう。


 もともとある商人を糾弾するためにこの国に立ち寄っただけで、糾弾したあとはすぐに帰る予定だったため、何の備えもなかった。そのせいで、人手が揃えられず、かなり苦労を強いられたが、第一王子のおかげで簡単に入国できるようになった今ならシルヴィアを危険にさらすことはまずないだろう。


 シルヴィアを妻に迎え入れる――。


 もともと嫁候補の資料を集めていたキースにとっては喜ばしいことではあった。

 才能も、商家の妻としての視野の広さも、商才も何一つ問題ない。


 問題があるとするなら――。


 シルヴィアを予想以上にヴァイスが愛してしまったこと。

 キース個人で見るならとても喜ばしいことではある。だが、秘書の立場で見るなら、敵の多いヴァイスに明確な弱点ができてしまったことは喜ばしいことではない。


 だが今更それを憂いたところでどうにもならない。


 彼が選んだのならそれが正解なのだろう。


 弱点とならないようにシルヴィアを守る専属の者も手配するべきだろう。


 ヴァイスとシルヴィアが中庭でイチャイチャしているのを横目で見つつ、中庭に設置されたテーブルと椅子にお菓子と飲み物を用意する。


 視線を他にむけると少し離れたとこにいる護衛は頬をぴくぴくさせていた。


 あとで、その護衛に「独り身にあのいちゃいちゃぶりはキツイです!!」と泣きつかれるのだろう。愚痴をきいてやるため、あの護衛の好きな酒でも用意しておいたほうがいいのかもしれない。 


 ――まったく、あの人は本当に手のかかる。


 甘く耳元でシルヴィアに愛をささやいてるヴァイスを遠目に診つつ、キースは心の中で大きくため息をつくのだった。


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