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62話 古代秘術

「ここがエデリー家。あなたの御実家ですか」


 ヴァイス様が私の手をひいて、私の家の中に案内してくれた。

 つい先日まで義母達が住んでいたので、家の中はまだ綺麗だ。

 でも、私の知っていたころの面影はあまりない。義母とリックスの趣味に改装してしまっていて、なんとなく別の家に感じてしまう。

 私は庭に飾られている豪華な装飾に、よくそろえたなと、苦笑いを浮かべた。

 王子に許可をいただいて、私たちはエデリー家に立ち入りが許された。

 いまは暴徒が家の中を荒らさないようにと国の管理下に置かれているからだ。

 義母は国に財産が全て没収される。この家ももう国の管理下にはいってしまっているのだ。

 久しぶりの我が家なのに、兵士たちが物々しく門を見張っている姿に胸が締め付けられるが、今は問題はそこじゃない。


「はい、でも、もう私と父の住んでいた時の面影はありませんが」


 そう言って、家の中にヴァイス様とキースさんを案内する。


「ここにエデリー家の秘術が記された書が?しかしそのような貴重なものをあの女が残しておくでしょうか?」


 キースさんがきょろきょろ見渡した。


「たぶん。大丈夫だと思います。私以外にはただの壁にしか見えませんから」


 私は二人を案内しながら、地下室にいくと、私は地下室の壁の石のレンガの一つにそっと手をあてた。


「……これです」


 私が言うと、ヴァイス様とキースさんが顔を見合わせた。たぶん二人にはただのレンガにしか見えないと思う。


 でも、違う。ここに祖先の残した秘術がある。

 私もよくわからないけれど、なぜかあるという確信を持てる。


「たぶん、魔力を入れたらゲートが開くと思います」


「それはエデリー家に伝わるものなのでしょうか?」


「はい。遠い祖先が残した記憶がここに眠っていると思います」


「……先ほどから確証のないように聞こえますが。貴方も初めてなのでしょうか?」


「……私もよくわからないんです」


「よくわからない?」


「ヴァイス様の薬を作るときに声が聞こえました。それからなぜか知らなかったはずの知識が入ってくるようになって」


 私の言葉にキースさんがうーんと考えて


「それって信用しても大丈夫なのでしょうか?」


 と、小首をかしげる。


「た、たぶん。この声がなかったら、熟成の錬金も成功してなかったと思いますから。悪意はないとは思うのですが……。そうですね、もしかしたら危険かもしれないです。すみません」


 私が言う。正直言うとそこまで考えてなかった。確かにキースさんが言うように怪しいはずなのに、私はここに来るまでなぜかここは安全だと思い込んでいた。なんでだろう?

 私の答えにヴァイス様が子どものような笑顔を浮かべた。


「面白いではありませんか。力を試す前に私にも見せていただけますか」


 ヴァイス様が呪文を唱え始める。するとレンガに文字が浮かび上がった。


「これは……」


「なるほど、なるほど。古代秘術ですね。これは素晴らしい。完璧に魔力を隠しきっていました。このレンガにエデリー家の魔力を注ぎ込むと、過去の記憶が見えるようです」


 無邪気な笑みを浮かべてヴァイス様が観察している。


「過去の記憶……ですか?」


「はい。ですが今のままでは私とキースは見ることはできませんので、私にも見えるように少々書き直しさせていただきましょう」


「ヴァイス様はそんなことまでできるのですか?」


 私がびっくりして聞くと、ウィンクして「古代秘術は昔勉強しましたから」と笑ってくれた。なんだか本当にすごい。勉強したとしても、ここまで出来るものなのかな?

 古代秘術は専門分野外なのでよくわからない。


「って私は仲間はずれですか?」


 キースさんが少し不貞腐れたように、ヴァイス様に抗議する。


「記憶の海を漂っている間の身体の保護をお願いします♡ それではよろしくお願いいたしますマイレディ」


 そう言って手をつないでくれて、私は笑顔のヴァイス様にうなずいた。


 レンガに魔力を注ぎ込むと――見えたのは祖先の記憶だった。


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