58話 迂闊
「……テンション高くやりすぎて、また体調崩すとかアホなんですか、アホなんですね」
事件後。シルヴィアを連れて、壊れた屋敷とはまた別に用意した屋敷にもどった途端、ヴァイスはそのまま高熱で倒れてしまった。
大急ぎでベッドに運ばれ、看病されることになってしまったのである。
「わ、私としたことが迂闊でした。体力を半分残しておくはずが……」
本来なら魔力で体を動かして体力をセーブするはずだったのに、第二王子がそこそこできたせいで、久しぶりの獲物にはしゃいでしまった。
テンション高く痛ぶった結果、終わった後体力を使い果たして、結局熱をだしてしまったのだ。
シルヴィアも心配してしまい、今は前の屋敷の工房からもってきた荷物を整理して点滴の準備を護衛とともにしている。
「おかしいです……この程度の運動で力を使い果たすとは……。
もっと彼女に愛を伝える予定だったのに……」
死にそうな顔をして言うヴァイスをキースはベッドから逃げられないように結界をはりはじめた。
「もう病人は大人しく寝ていてくださいっ!うっとおしいっ!」
「……貴方は最近、私への扱いが雑になっていませんか」
キースの様子を見ながらヴァイスがうめく。
「反省がないからです!何回倒れているんですか!?
薬中だったときと同じだけの体力があるわけないでしょう!?
罰として仕事もしばらく禁止ですっ!!!」
「……それは別の意味で死にます」
真っ青になりながらヴァイスはうめくのだった。
★★★
「それにしてもよかったですね。奥様。全部終わって」
ヴァイス様の薬を用意しながらマーサさんがけたけた笑いながらいってくれた。
「はい。ヴァイス様のおかげですね。マーサさんもいろいろありがとうございました」
私もマーサさんに笑う。
ヴァイス様の病気も治ったし、嫌がらせしてきた義母もきっとあのまま捕まって処罰をうけるだろう。リックスは少し前に賠償金を払って釈放されたとは聞いていたけど、そのあとどうなったかまでは知らないし、サニアは家を追い出されたとしか聞いてない。でもあの二人ではたぶん大した嫌がらせはできない。出来る嫌がらせといえば私かヴァイス様にまとわりつくくらいだろう。大きな事はできないはず。
私に関する大きな問題はほぼ終わったといってもいい。
けれど、まだこの国に蔓延してしまった薬の被害は心配だ。
斑点ができている人も一過性のもので、薬やお茶の使用をやめれば治る人も多いだろう。
だから、協会での会話を町中に流したのだ。
もちろん義母達を陥れるためでもあったけれど、あの方法はどちらかといえば、薬が危ないと皆に知らせるための方が強かった。
効いていた薬をいきなり、危ないからやめろといっても、一定数信じず使い続ける人もいるし、そもそも危ないという情報を知らぬまま過ごしてしまう人もいる。
情報をどうやって伝達するかの問題もある。
これだけ大騒ぎになればみんなに知れ渡り、みんなすぐ服用をやめてくれるだろう。
荒治療だったことは承知のうえだけれど、完璧な治療薬が存在しない今仕方ない。
そして問題なのは――かなり病状が進行してしまっている人だ。
まだヴァイス様ほど進んでいる人はいないとは思う。だから症状を抑制剤で押さえつつ、テーゼの花が咲くまで待つしか方法がない。
――治すのは無理でもテーゼの花が咲くまで抑えることならできるはず。
頑張らなきゃ。私はヴァイス様用の点滴をまとめて持ち立ち上がった。








