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54話 絶体絶命(……敵が)

 ……カラン。


 城の地下室で、転がった死刑囚の死体を見て、第二王子はため息をついた。

 自らが切り刻んだため死体になったその物体を蹴とばすと、片付けておけと部下に告げる。


 つまらない。


 王位をとれと母はいうけれど、戦争のないこの世界で王位についたところで何になるのだろうと、王子は唾を吐く。


 欲しいのは戦いによる高揚感と、生死をかけた戦いの緊張感。

 王位なんてこれっぽちも興味がない。

 それなのに母は王位に固執する。

 しかも、そこに第二王子にたいする愛があるわけではなく、第一王妃が気に入らないという理由だけだ。

 柔和で優しい性格の第一王子にたいするやっかみもあるだろう。

 結局、第二王子は第二王妃の意地だけで王位につけられてしまうのだろう。


 そこへ――。


「また、貴方はこんなことをしていたのですか!?」


 死体の散乱する地下室にくるなり、母である第二王妃が叫ぶ。


 ああ、またうるさいのがきたと、第二王子が第二王妃を睨みつける。


「何用ですか母上」


「こんなことをしているとバレたら、王位継承戦に不利になるからやめろと言ったでしょう!?」


「だったら、王位などあきらめたらいいのでは?」


 イラつきながら第二王子が答えると、第二王妃はため息をついた。


「また貴方はそんなこと……ああ、なるほど誰かを切りたいという欲求がたまっているのね。わかったわ、ちょうどいい獲物がいるの。貴方がそれを殺してきなさい」


 そう言って王妃はにやりと笑った。



★★★


「強制ということですか……」


 屋敷の門の前にずらりと並んだ錬金術師協会の私兵の人と、キースさんがにらみ合う。

 キースさんが錬金術師協会の人のもってきた書類を見て、問う。


 あれから、ヴァイス様が目を覚まして10日たった。

 ヴァイス様はやっぱりまだ本調子ではないみたいで、寝たり起きたりを繰り返していて、これからの対策をキースさんと打ち合わせをしていた。


 そして、私にもおそらく強制的に連れ出されるだろうとも説明してくれて、どうするのか教えてくれていた。その日がついに今日来たといっていい。


「はい、これを断れば我が国においての錬金術師と資格を失います」


 書類をもってきた錬金術師は言うと、ちらりと私に視線を移した。


「……わかりました。ですが、私も同行させていただきます」


 キースさんが私を見て言う。


「ですが……」


「何か?私が同行すると貴方達に都合の悪いことがあるとでも?」


 錬金術師の人が言う言葉をキースさんがばっさり遮る。


 しばらく見つめあう錬金術師協会の人とキースさん。


「いえ、わかりました。行きましょう」


 錬金術師協会の人が先に折れて、歩くように促した。


 キースさんが私の隣に立ち、しっかりとガードしてくれるように手を添える。


 ……うん。怖いけれど大丈夫。

 錬金術師協会にはきっと義母だったマリアがいる。

 でも大丈夫。私はもう気弱な前の自分と違う。

 この展開はすでにヴァイス様が予想していた範囲だもの。


 ヴァイス様が私に命を託してくれたように。

 私もヴァイス様を信じる。


 それにこれは……ヴァイス様の戦いじゃない。私の戦いだ。


 さぁ、勇気をもって歩き出そう。


 ちゃんといままでの自分と向き合って、打ち勝って見せる。

 その為にヴァイス様が用意してくれた決戦の場所なのだから。



★★★


(やっとあの生意気な小娘が戻って来た)


 錬金術師協会の屋敷の窓から、馬車をおりてきたシルヴィアを見ながら、マリアは心の中で毒づいた。今度は逃げられないように閉じ込めて、飼い殺しにすればいい。

 戸籍上はヴァイスと一緒に病気で死んだことになるのだ。両親もいない、あれと懇意にしていた親戚も遠くへ追いやった。誰も探すものなんていないだろう。

 馬鹿息子リックスも今後は近づけないようにしておけばいい。


 ヴァイスも今頃、第二王妃の放った刺客に襲われて死んでいるころだろう。

 すべてはこちらの計画通りなのだ。

 あとはあのシルヴィアを捕獲するだけ。

 マリアはにやりと笑った。


★★★


「ヴァイス様、どうやら敵が動き出したようです。屋敷の周りに高度な結界を張り始めました。外に騒動がバレないように防音の結界でしょう。すぐにでも襲ってくるはずです」


 屋敷の中からシルヴィアとキースが連れていかれる様子を見守っていたヴァイスに部下が報告してきた。


 屋敷をとりかこみ逃げられないようにと、結界を張り始めた、騎士たちをぼんやりと眺めながらヴァイスはコーヒーを飲む。


 シルヴィアと離れるのは不安ではあるが、キースがそばにいるので大丈夫だろう。

 何より義母を陥れるのをヴァイスが全てやってしまっては、シルヴィアのためにならない。彼女自身で決着をつけさせてあげて、彼女自身で鎖を断ち切らないと意味がない。


 あちらを陥れるのはシルヴィア自身に任せよう。


 屋敷の外では第二王子率いる軍が、屋敷を取り囲みはじめている。


「いやはや、私のような一商人を殺すのに、王子様までおでましとは。

 これは面白い、楽しい展開になりました。さぁ、祭りのはじまりです。

 相手が泣き叫び許しを請うまで楽しもうじゃないですか。

 全員等しく地獄に堕としてさしあげましょう。私に喧嘩をうったことをあの世で後悔させてさしあげます」


 ヴァイスの言葉に部下がドン引きしているが、いつもの事なので気にしない。

 ヴァイスはコートから取り出したモーニングスターを両手に抱え、極悪な笑みを浮かべるのだった。

 


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