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01 海辺のマリア

 誕生日の花束に短い手紙がそえられていた。


――君は、いつも話を聞いてはくれないから、手紙で失礼するよ。

 僕たちは、いつから話をしなくなったのだろう。昔は、少なくとも君が幼い頃は、上手くいっていたように思う。

 憶えてはいないだろうが、僕の後をついて歩く君はとても可愛らしかった。


 思うに、僕たちはすれ違っているのではないかな。

これから先、長いのだから兄として、妹の君とは仲良くやっていきたい。

 話し合わないか? 

 それがいやなら、ほんの少しでいい、毎日会話をしないか――





 リンゴーンと鳴り響く鐘が1日の終わりを告げる。この鐘の音を合図に、海辺の街は労働を終える。

 

 丘の上の古い修道院から夕景にそまる空を眺め、ため息をつく。白を基調とした家々が立ち並ぶ街が朱色に染まる。


「マリア、お祈りの時間です」

「はい、シスターサリー」


 教育係のシスターサリーの後をパタパタとついていく。


 ここへ来て、まだ二ケ月だが、生まれ故郷にいるかのようにしっくりくる。本当に自分はこの街の人間ではないのだろうかと、いぶかしむほどに。


 マリアはお祈りが終わると孤児たちの世話をしていた。小さい子の就寝の世話だ。ここの住民は信心深いせいか、孤児たちは衣食に困らない。畑でとれた新鮮な食べ物を届けてくれるし、自分の子供が成長し着れなくなった服なども寄付してくれる。


 祈りを捧げ、ささやかな夕餉をおえ、マリアが小さなこどもの着替えを手伝っていると、シスターサリーがよびにきた。


「院長室へ急いで、あなたに大切なお客様が来ているそうよ」

「私にお客様ですか?」


 いったい誰が訪ねて来ると言うのだろう。


「ええ、とても立派な身なりをした方たちよ。きっと、あなたのご家族よ」


「私の家族……」


 そういわれてもピンとこない。マリアは過去の記憶がないのだ。



「やっと、あなたが、何者か分かるじゃない。マリアは読み書きもできるし学がありそうだからきっとお金持ちの娘よ」


 なぜ、金持ちの娘が、記憶のない状態で海辺に打ち寄せられていたのだろう。ぼんやりと不安を感じた。ちなみに漁師は、それを見てトドかと思ったらしい。


 今でこそ修道院の健康的で質素な生活のお陰ですっかり痩せたが、ここへ来た当初は太っていた。修道院の自給自足の生活のなかで、突き出た腹は農作業の邪魔だった。今では楽に動き回れる。



 マリアと言う名前はここの院長シスター・アグネスがつけてくれた名前だ。とても気に入っている。ここの修道女になる気満々で、アグネスに申し出て修道女見習いになったばかりだ。




 今更、家族がいると言われても……。

 












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