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第96話

『異能の蔓延る裏を知れば、生きる答えを必ず見つけられる。他人に教えてもらうのではなく自分自身で納得いく答えを見つけること。でなければあなたの答えではない』



 かつてメディカルチェックを不合格になり、夢を絶たれた後に零から出た、再起のきっかけであり活力としているこの言葉。だがこれも今だともう一つの違った見方が見えてくる。


 相棒であり友達としてはそうだろうが、同時に監視役としてこちらに再び立ち上がってもらわなければ、任務が達成できなくて困るから出した言葉なのだろう。


 他人に教えてもらうのではない。どのようなことがあっても最終的に答えを決めるのは自分だ。それは誰かによって無理やり作られるものでもない。



 一連の情報を知った上でどうしたいか。顔も知らない誰かに敷かれたレールをただ思い通りに歩きたいのか、歩きたくないのか。


 それはもう一つだけ。誰かの掲げる正義だとか、この国の安全がとかは関係ない。たとえ拒否したとして、それで日本が滅ぶことになったならば、その時に考えればいい。それより今やりたい大切なことがある。


 ――零にまた会って、もう一度話をして、一緒に帰ること。ただそれだけだ。


 零もきっと、中郷に都合よく使われているだけだ、そうに違いない。だから敵だったとしてももう一度しっかり話をしたい。

 分かってくれるはずだ。あの時かけてくれた再起のきっかけとなる言葉も中郷の言いなりではなく、間違いなく血の通った零が考えて出した確かな言葉だ。



「まだこれで全部じゃねえんだろ? マンティス」

 零を取り戻すにはもっと情報が必要だ。プロジェクター前に立っている勝に問う。


「あら、彼のことカマキリ野郎とは呼ばないんですね、あだ名呼びが好きな諒花さん」

「そういうのじゃねえから」

 口元に右手を当てて微笑む翡翠。零のパソコンを解析して頑張ってくれた相手だ、彼らがいなかったらここまで辿り着けていない。


「ま、まあ俺のことは好きに呼べばいいさ、翡翠さんがそう言うならカマキリ野郎も悪くねえけどよ」

 そう言って気を取り直した勝は続ける。


「無論だ。ここまで発表したことはほんの序章にすぎない。オープニングだ」


 それを聞いて、再度気を引き締める。あの変態ピエロを倒し、正体を暴こうとしたら零がいなくなって、そこからずっと知りたかった零の正体と、ここまでの全ての黒幕が中郷ということだけしかまだ聞いていないのだから。


「黒條零のパソコンには中郷との連絡ツールとして使っていたチャットは勿論のこと、XIED(シード)の極秘データベースへ繋がるアカウントがあった。俺達は残されたパソコンからパスワードを割り出し、黒條零名義のアカウントでログイン、チャットとか連絡ツールへのアクセスもそうだがアクセス権限のある一部データベースへのアクセスにも成功した」


 コンピューターの専門用語は詳しいことは分からないがデータベースというと情報が沢山あるもののことを指すのは何となく知っている。イメージすると図書館か大量の情報がある部屋という所だろう。


「本人名義でアクセスできたデータベースには黒條零がこれまで監視活動して集めた情報が全てログとして残っていた。言っておくが内容はまじまじとは見ていない。察してすぐ閉じた」

「だよな。人の着替え覗くようなもんだぞ」


 こんな見られたくないデータベースがあると思うと寒気がする。もはやストーカーだ。零はどんな気持ちで活動していたのだろう。たぶんあらゆるこちらの情報が記録されているのだろう。


「更に言うと、このアカウントを使えば、失踪後の黒條零と中郷のやりとりもパソコンから見ることができた────」


「それは本当か!? じゃあ零はどこにいるんだよ!!」

 思わず身を乗り出して声を大にした。



「まあ落ち着け。見れても失踪した日を入れて二日分だけだ」

 即ち、零が失踪した今週日曜日の10月27日。翌日の28日。見れるのはこの二日のみとなる。

 零の家に滝沢家による家宅捜索が行われ、その後滝沢家と協力体制を築いている裏での零と中郷のやりとりということになる。

 今は11月2日の土曜日。明日で零失踪から一週間だ。


「置き去りにされたパソコンによる、こっちのログインがバレたせいでアカウントを放棄したのか、29日以降は更新がない。黒條零は失踪後、スマホあるいはタブレットの類でこの残されたアカウントに再ログインし、チャットで中郷と会話していたことが分かる」


「どんな会話をしていたんだ?」

 それを尋ねると、これを見てもらえば分かると、吹き出しによるチャット画面で行われている会話内容をプロジェクターに映させる勝。


『上官。諒花に監視役であることが見破られたため、家を放棄しました。申し訳ございません』

 これは失踪した直後に零が中郷に送ったメッセージだ。


『ただちに臨時の宿を手配する。夜はここに泊まってくれ。初月諒花には見つかるなよ』


 その中郷のメッセージの後に宿であるホテルへのURLがあった。HTTPから始まるアレだ。ネットの住所というのは知っている。その地図も表示されている。それを見て、ピンと来たのは花予。


「これは渋谷駅から南に離れたとこにある格安ビジネスホテルだね。ふーん、零ちゃん、そこに泊まっていたのか」

 顎に手を当てて見ている花予はどうやらこのホテルを知っているらしい。


「ハナ、このホテル知ってるのか?」

「昔、渋谷に住み始める前、終電逃した時に泊まったことがあるね。駅や繫華街から離れてるし小さいけど一晩泊まるとか一時的な拠点としては最適だよ」


 建物の外観も、同じ形をしたビルが建ち並ぶの中に建つ一際違うそれは古城のようだ。夜は城というより小さなお化け屋敷のような外観をしている。四本の高く伸びる屋根は三角形をしており、他のありふれた四角いビルとはまた違う雰囲気を醸し出している。この滝沢邸を一軒家サイズにまで小さくしてまとめたような感じだ。外観は全然違うが。


 そのホテルのどこに宿泊したのか。それは二人のやりとりで一目瞭然だった。

「このチャット画面、見れば分かる通り、中郷の手配したこのホテルの301号室に宿泊したことを確認した」


 ――じゃあすぐに行けば零に会えるのでは……? そんな考えが過って身を乗り出して口を開こうとした瞬間。


「おっと諒花さん。私は一足先に知ったので、朝のうちにこのホテルに捜索隊を派遣しました。知り合いが泊まっているという口実で確認しましたが既に彼女はチェックアウト済みでしたよ」


「あ」


 考えを翡翠に先に読まれてしまったようだ。翡翠は画面を見るようにと、人差し指をその方向へ向ける。


「ならこの後、どこに行ったんだよ零は?」

「これを見てくれ」

 そう言って勝はプロジェクターを切り替えさせ、また表示されたのはチャットでの新しいやりとりだ。


『台場に来い。渋谷に迎えの車を出させる。指定のホテルで暫く身を隠せ。手続きしてある』

『かしこまりました』


「今度はお台場かよ……」

 東京港の次はお台場。26日に零が呼ばれて行った所は確か東京港だった。お台場はビッグサイト、テレビ局、そして巨大なブリッジがある海辺の街だ。やはりあの近辺に中郷はいるのだろうか。


「ただ残念なことに、お台場のホテルの所在地までは特定できなかった」

 勝はとても残念そうに肩を落としながらそう言った。

「はぁ!? マジかよ……」

 一時は上がったテンションが一気に下がった。零に会えるかもしれなかったのに。



「ここまでってことか」

「ああ。現状追跡できたのはここまでだ。翡翠さんの指示でパソコン解析完了後、ただちにお台場にも捜索隊を派遣したがまだ報告は来ていない」

 勝は置いてあったペットボトルからスポーツドリンクを口に含むと、


「まだ一つでかい情報はあるが、29日以降のやりとりは確認できない。敵もバカじゃねえから急いで新しいアカウントなどを中郷側が手配し、そこで連絡をとりあっていると見ていい」


 ここまでで分かることは監視活動をする上で、いくつもの連絡ツールや避難先の拠点をすぐに用意できる周到さだ。予め、こうなることを想定していたかのように。


「まだ一つあるでかい情報ってなんだ?」

 早く見せてくれ、気になる。再び心臓が早くなる。


「この中郷の一文から渋谷を出て以降の黒條零の動向が伺い知れる。向こうが連絡ツールを乗り換える直前のやりとりだ。その後は向こうもこちらの解析に気づいたのか、このメッセージは即座に削除されていた。だが、今回協力してくれた助っ人のスーパーハカーのお陰でデータの残滓を解析して、どうにか繋ぎ合わせることで見ることができた」


 勝がプロジェクターの画面を切り替えさせると、


『上官。私はこれからどうすれば良いですか?』

『暫く待機だ。命令があるまでそのホテルから出ることを禁ずる』


『諒花のことはどうすれば』


『心配する必要はない。レーツァンが倒されたことでダークメアでは内紛が起き、体制も揺らいでいる。じきにワイルドコブラが動き出す。彼らを初月諒花にぶつける』


『もし彼らに諒花が殺されたらどうするのですか? 私はあなたの命令と約束のために任務を遂行し、彼女を守り、監視してきました』


『あのレーツァンを倒した彼女だ、心配することはない。人狼少女が一人、どう戦うかのデータが欲しい。ワイルドコブラには裏から手を回してある──』


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