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第94話

 眼前の白い画面に大きく表示された黒幕の名前。それがずっと零が裏でやりとりしていた相手の正体。まるで、世界を形作る裏側にでも辿り着いてしまったかのような衝撃が初月諒花に走る。


「中郷利雄……」


 記憶を辿れば、それはつい最近、名前も聞いたことがある人物だった。先月、蔭山たち警視庁が渋谷で起きた女子高生、円藤由里殺害事件を捜査していた時、その捜査権をXIED(シード)が長官権限により半ば強引に持って行ったという話。その時に蔭山は確かに言っていた。その長官の名を。警視庁で例えるなら警視総監だと。

「現在の日本のXIED(シード)のトップさ。関東だけでなく北海道、東北、中部、近畿、中国四国、九州、そして沖縄ァ!!!! 日本全国の裏社会を秩序で管轄する、実態も名前以外は分かりづらい、日本のXIED(シード)の頂点に君臨する存在そのものだ」


 なぜか沖縄だけテンション高く強調した言い方のマンティス勝。何か思い入れでもあるのか。

 XIED(シード)という組織はそもそも世界全体の総本部はアメリカにある話は昔からうっすら知っている。昔、花予や蔭山から聞いた話のうろ覚えだ。

 世界中の人が力を合わせて組織を形成し、各所にはトップがいて、日本代表のトップは中郷ということになる。世界で見れば東日本支部、つまりは日本支部は世界各国にあるほんの小さい一つの基地にすぎない。しかし日本という一つの国全体を管轄し、その他の日本各地にある支部を取りまとめる総本部だ。


「敵は日本のXIED(シードのトップか……」

「そういうことです諒花さん。あのレーツァン以上に果てしなく強大な存在です」

 翡翠の言う通り、確かに裏社会の帝王という異名を持ち、三大幹部達を束ねる犯罪組織の総帥の肩書きよりも、表社会で公認された権力も併せ持つ警視総監に相当する存在はより強大にしか感じない。事前に覚悟や気を引き締めなければならないのは本当だった。

「ここから分かることは三つ――」

 司会者の勝の代わりに話し始めたのは翡翠。

「諒花さんのご両親や恋人がレーツァンに殺された原因も、中郷と彼の間で何らかの取引が成されたからではないかと――」

「更に、黒條零さんを送り込んで監視活動させていたのも中郷」

「更に更に、もっと言えば諒花さんがご両親を失った事故の後、入院していた病院で与えられたチョーカーに発信機を何らかの手段で仕組んだのも中郷」

 その通りだ。今まで起こっていた事の全ての背後には中郷が絡んでいる。


 チョーカーも外す前は零のスマホに常にこちらの現在地が表示されていたことから関連付けられる。逆に変態ピエロとの戦いの中でチョーカーを外した後は零のスマホからはこちらの現在地が分からなくなっていた。

 変態ピエロも両親と恋人を殺したお陰でそいつに近しい立ち位置にいると言っていたが、そいつとは中郷のことだったのだ。中郷に近づいて蹴落とし、全てを奪うためだと口にしていた。最も、それは死に際に負け惜しみにすぎず、そのまま自ら混沌の炎に焼かれて消えていったわけだが。


 もはや、自分の身に起こった大きな事件の裏、ほぼ全てに中郷が関わっていると言っても過言ではない。

「中郷の目的ってなんなんだ? アタシを零に監視させて」

 他にも変態ピエロはなぜちょっかいをかけてきたのかも中郷絡みなのかもしれないが、今は置いておこう。ピエロは中郷同様に自分を狙っている存在としか分からず、それ以上の関係はまだ分からない。それより零だ。

「それについてはこれを見てくれ。黒條零と中郷のチャットのやりとりだ」

 その目的を示唆する文面も、パソコンから見つかったと言ってシンドロームに画面を切り替えさせる勝。そこの吹き出しの並ぶ横に表示されている名前、【rei-kokujyou】は黒條零で【Secretary】は中郷と説明した上で、


「これは先月の木曜24日夜の会話であり、中郷が黒條零に翌日の金曜25日は学校を休むこと、そして次の土曜26日に東京港に停泊してあるXIEDシードの船に乗れと指示した後の会話だ」

 勝はそう付け加え、映し出されたのは零と中郷のやりとり。

 26日土曜というと滝沢邸で翡翠の推理を聞いた日だ。零は黒幕が送った手下、そして自分は正体不明のまだ見ぬ黒幕に監視されていたということ。それで気になって零の家に急いだが、いなくて翌日に出直した日だった。その黒幕は当然中郷だ。

 金曜は珍しく学校に来なかったのもこのためだと合点がいった。零が学校を休むことは珍しいが、あの日は家庭の事情で通していたので特に不審な点はなかった。そういう日もあるかと。

 しかし、ここまでの情報で自然と直感で分かったことがある。


 それは零の家庭に関する情報全てが本当ではないということ。全てではなかったとしても、監視活動を進めるための作り話が含まれている気がした。どこまでが本当で嘘なのかはまだ分からない。が、思い当たるものはある。

 両親はもういないという零に仕送りをし、住まいを提供し、仕事で日本中を飛び回っているという親戚の顔。たとえ小学校の卒業式とかでも、ここまで見たことは一度もなかったのだから。両親がいない理由も詳細は聞いたことがない。

 はたして零はどういう感情を抱いていたのだろうか。実はとても苦しかったのではないか。一緒に肩を並べて様々な敵と戦ってきたこちらだけでなく、花予や歩美も騙し続けてきたことに。


 映し出されたそのスクショをズームし、下へとスクロールしていく勝。二人のやりとりを目で追っていく。

『諒花をこの先どうするつもりですか? 上官』

 先の金曜25日と土曜26日の用件を聞いた後のさりげない零の質問。それに対して中郷はこう答えている。


『私の描く理想を実現するために彼女が欲しい。それだけだ。生まれながら、稀異人(ラルム・ゼノ)である彼女には無限の可能性さえある。そんな貴重な人材をこの国の未来のために役立てるのだ』

 それは揺るがない執念、あるいは自らの思い描くものを実現する、野望ともとれる一文だった。

『彼女の母親、初月花凛も素晴らしかったが、それ以上だ。私は彼女がその血を引いているからといって重宝するのではない。彼女の才、チカラが欲しいのだ。この国のために、私の理想のために』

 そう熱弁する中郷に対し、零はこう返している。


『上官の思い描く理想とはなんですか?』


 中郷は次々と演説のようにその全てをさらけ出す。


『──この国を、決して衰えることのない、()()()()()()()()()()()()とすることだ』


『この国の防衛力は非常に脆弱だ。第二次世界大戦後。戦争はもうしない? それは表向きの社会と国際情勢だけの話だ』

『世界にはまだ見ぬ様々な異人(ゼノ)がおり、彼らが敵となれば脅威でしかない。手にすれば誰もが異能を行使できる武具や道具も、闇ルートを経て上陸してきている。それを手にした一般人も一瞬で脅威となりかねない』

『この国も攻撃されるかもしれない。来たるその時のために、自国を守るための絶対的防衛力なくして平和などない。この世に異能がある限りな』

『この国は外部からも、内部からも、常に危機に晒されている。ゆえに抑止力にもなり、その脅威を時に排除するための選択肢が必要なのだ』


『私はそれを強く提唱する。初月諒花の存在はこの問題を変えるきっかけとなるだろう──』


読んで頂きありがとうございました!補足ですが、諒花が中郷利雄の名を最近聞いたのは前作「前作「人狼少女は表社会では最強になれなかったので裏社会で無双する!!」の第32話でこれが名前の初出でした。

この時は零も交えて蔭山の口からその名前を聞くことになるのですが、まだこの時は黒幕とは微塵も思わなかったことでしょう……

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