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第80話

「ハナ!! ごめん……!」

 石動がくれたコートに身を纏って姿が割れないようにして家に帰ってくると、すぐに諒花は花予にさっきのことを必死に謝罪した。

「分かったならいいよ。蔭山さんがいてくれて良かった。でも零ちゃんがいないからいつかはこうなるだろうなと思っていたよ」


 その最後の一言がスッとブッ刺さった。そうだ、後先考えずに突っ込んでしまった。歩美を助けに行くのはいい。ただすぐに家を飛び出して突っ込んでいくのではなく、もう少し立場を考えた落ち着いた行動をしなかったのがいけなかったのだ。これまで零がやってくれてたことを自分がしなければいけなかった。

「ホントにごめん。アタシ、蔭山さんにもだけどみんなに迷惑かけてばっかりだった」

「そうしょげた顔をするなよ諒花。学んだんだからいいじゃないか」

 そう言われて、罪悪感から救われた気がした。

「そう……だよな」

「ウン、それで良い」

 失敗や経験から学ぶのは大事だ。フォルテシアに負けた時もそうだ。

「翡翠ちゃんから聞いたよ。車を出してくれるみたいだね」

「ああ。電車でいくと敵に狙われる危険性があるからって」


 それに急な予定変更は渋谷ヒンメルブラウタワーの件が響いているのだろう。せっかくの渋谷での拠点が陥落してしまったわけだ。既に敵の手が回っているかもしれない。となれば別で拠点を確保しないといけない。だからそれを滝沢邸としたのだろう。

 コカトリーニョは倒してもまだ周辺にはワイルドコブラが潜んでいるかもしれない。今は渋谷のどこに敵が潜んでいるかも予測できない。

 そうだ、一つ報告すべきことがある。

「ハナ、蔭山さんはなんか急用ができたって飛び出していったけど滝沢邸には来てくれるってさ」

「こんな時に急用かい蔭山さん。なんだか不穏だね。フラグじゃなきゃいいけど」

 蔭山があれだけ急いで飛び出すってことは何かがあったことには違いない。嫌な予感はする。だが今は考えていられない。

「今は仕方ないね。翡翠ちゃんのお迎えが来るまでに出発する準備をしよう。荷物をまとめてな」

 さすがにこの家まではまだ敵に割れていない、ということを願いたい。花予はゲーム好きだがどちらかというと昔のゲームが好きで、手入れがされたレトロゲームやソフトが家には結構ある。だがそれらを持っていくわけにもいかないので、花予はもしものために最新ゲーム機のズイッチに、移植されたりサブスクで遊べるようになったレトロゲームを沢山入れている。テレビに繋ぐことも画面だけ持ち歩いて遊ぶこともできる手軽さだ。

 他にも災害用の水や食料、携帯トイレなどもあるが、今回は避難先が滝沢邸なのでそこまで大荷物じゃなくても大丈夫だろう。花予も荷物をカバンに詰め始めた所で、自分のリュックに必要なものを入れていく。するとふと思った。


 ――もしかすれば、これから見るパソコンの中身次第では零にすぐ会えるかもしれない。


 何か零との思い出がある物はないか。可能ならば持っていきたい。そう思うと同時にあることを思い出し、自分の部屋の机の脇の引き出しからあるものを取り出す。歩美と零、三人でゲーセンで撮ったプリクラだ。確か中学に入って、真新しい青いセーラー服に袖を通したばかりの時だった。入学式の帰りだったか。

 言うなればメディカルチェックで不合格を言い渡されて夢を断たれる直前でもある。一番身長が高い自分が零と歩美の後ろから手を回して三人で固まって写真を撮った。淵には桜の装飾がされている。なんだか懐かしい。


 荷物にもならないので二枚のうち一枚を持っていくことにした。全くシールとして使われていない同じ写真が並ぶプリクラ。8窓に写された切り取られた一瞬。うち一枚は零にあげようとしたが断られてしまったものだ。

 零は贈り物を基本受け取らない。初めて贈り物をしようとすると、

『気持ちは嬉しいけど……受け取れない』


 と、どこか寂しさと苦しさをにじませたような声で言われたのを思い出した。それもあってこれまで誕生日でもクリスマスでも互いに贈り物をしたこともない。クッキーなど食べ物は受け取るのだが、ゲーセンとかの景品にあるちょっとした小物アクセサリーとか、食べ物ではなく物として残るものは渡したことがない。逆に零も贈り物をしないのはお返しをされると困ってしまうからだろう。


 他に何か、零とゆかりある何かないかを自然と探っているとプリクラと同じ引き出しの奥からちょうど懐かしい品が出てきた。それはサファイアのように輝くブレスレット。先ほど思い出したその言葉が出たきっかけの品。小4の時に零の誕生日に渡そうとしたのだが断られたのだ。

 だが捨てるには勿体ないし、あの時は出会ってまだ二か月ほどしか経っていなかったから、そのうちもっと仲良くなったら渡そうと、最初は机の上に飾っていたのをいつでも機会があれば渡せるようにと、机の引き出しにしまったままでその存在をすっかり忘れてしまっていた。その後、プリクラも自然とその中にしまってそれっきりだった。

 このブレスレットの件もあって零の誕生日を祝うことは自然と控えていたがそこから翌年の小5になって、小3で一度東京を離れていた歩美が帰ってきたのもあり、零の誕生日パーティは歩美の計らいで行われた。零と花予はこの時に出会った。零は食べ物は受け取るが物として残るものは受け取らない傾向にあることを予め歩美には伝えた上で行われた。

 今になって思えば、なんで零が些細な誕生日プレゼントの受け取りを拒否したのかもだいたい予想できる。それはただ遠慮したからではなく、監視役だから受け取ること自体に問題があるのだろう。例えば上から受け取らないように言われているとか。零の方から直接贈り物の類を贈ってこないのもそういうことになる。


 ――これも持っていこう。

 そっと手に取った。零はもう覚えていないかもしれないし無駄かもしれない。だが初めての零との思い出の品。プリクラは確かな思い出を写した証であり、この渡しそびれた青のブレスレットも零との確かな思い出だ。


 たとえ監視役として送り込まれた、誰かに動かされている操り人形だとしても、零は心の通った大切な友達であり相棒。

 これらを通して、もう一度話がしたい。ただそれだけだ。


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