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第74話

「歩美!!!!」

 そのメッセージを見た瞬間、初月諒花は我先にと家を飛び出していた。立場などお構いなしに。背中から聞こえる花予と蔭山の制止も振り切って。

 歩美が危ない。きっと誰かに襲われて助けを求めてきた。ワイルドコブラから今、歩美を守れるのは自分しかいない。

 さっき歩美と別れてまだ2分ぐらいしか経っていない。そんな遠くへは行っていないはずだ。マンションなどが建ち並ぶ住宅街を手当たり次第に見回す。外は真っ白な雲に覆われている。

 ――そうだ。

 闇雲に捜すのではなく、歩美は渋谷駅に向かって移動している。家から渋谷駅へ向かうためのルートを辿ってみよう。駅までそこまで距離はない。5分から10分ぐらいか。

 もし零がいたら同じことを家を出た直後に言ってくれたに違いない。すると方向転換して逆の道を走って行った先、家かそこまで離れていない渋谷駅へ向かうルートであるコンクリートの間に挟まれた狭い路地裏の通路で二つの人影が遠くに見えた。

「諒ちゃん!」

 そこに立っていたのは歩美。ただ彼女が逃げないように後ろから両手を取り押さえられ、拘束されていた。その拘束をしている人物は「諒花に連絡したか? よし――」と歩美の耳元に囁くとこっちを見た。

 それはよく知った顔だった。このシチュエーションも既視感がある。


「バーッハハハハハハ!! そろそろ来ると思ったぜ、人狼女!!」

 そのもはやお馴染みともいえる笑い声をあげながら歩美を拘束している、目つきが鋭く、頭に赤いバンダナを巻いた金髪が後ろから出た両耳の長い男。クワガタのギザギザなハサミが上を向いたシルエットが描かれた緑の長袖シャツとジーパンを履いている。

「お前は……カニ野郎!!」

 そう呼んだが昨今のワイルドコブラになぞらえてのカニ人間ではない。コイツの能力、自慢の両手から繰り出す巨大な得物がそれを想起させるというだけだ。


「おうよ、この大バサミのシーザー様を忘れちゃいねェだろうな!? 初月諒花!!」

「忘れてねえよ、シーザー!!」

 相変わらず自分に様づけしちゃうこの男、これが初対面ではない。一度倒してもその後何度も悔しさ滲ませ、執念深くリベンジを仕掛け、覚えている限りでは四度もしつこく襲ってきた。先月、変態ピエロが現れる前に最初に送り込んできた刺客でもある。

「テメエと黒條零、二人ともブチのめすために戻ってきたぜ!」

「今はそれどころじゃねえんだ。……歩美を返してくれ」

 ワイルドコブラだってどこかに潜んでいる。こんな事してる場合じゃない。右手を腰に当てて、視線を逸らしながら頼み込む。

「おおっと、言い訳は無しだぜ? こっちは早朝に始発で渋谷に来て、ちょうど変装して走ってるお前の背中見かけたから、出てくる所をこうして待ち伏せてたんだからな」

「ちっ」

 どうやら石動からもらったコートを着てホテルから家を目指している途中を遠くから見られていたらしい。全然気づかなかった。恐るべし勘の鋭さ。


「オレと勝負するってんなら歩美は返してやるよ! でなかったら一生返してやらねェ」

「離してよ! もう!」

 ジタバタ暴れて逃げようとする歩美。しかしシーザーの腕による拘束を解くことはできない。

「速攻でお前を倒す……!」

「おお。そんじゃ、約束だ。ほら、悪かったな。帰んな」

 それを聞くとシーザーは人質にしていた歩美の拘束を解いた。大バサミ、あるいは現代の切り裂きジャックという残虐で物騒な異名を持つが、彼は意外にも要求を呑めば人質に余計な危害は加えずあっさり返す。それは前も同じだった。


 あの変態ピエロ――レーツァンが引き起こし、最終的にあのピエロを倒すことで決着した先月19日の事件では敵側だったにも関わらずこちらの事情と状況を顧みて成り行きで味方になってくれた。

 勿論、それは一時の休戦にすぎず、再戦を誓って去っていった。実際、あの事件で変態ピエロが動かしていた、突然現れた全身鋼鉄の鎧に実を包んだ謎の女騎士にシーザーもやられてこちらへのリベンジを中断させられたことも大きい。零とも滝沢邸に乗り込む際に共闘したらしい。

 無関係の歩美に手を出し、巻き込んだことから、零はとても許せない顔で、味方になった後もそっけなく冷たい態度だったが、後になって内心思った。コイツそこまで悪いヤツというわけでもないんじゃないか。


 それもそのはず、コイツの目的は自分を負かして屈辱を味わう要因を作ったこちらに因縁をつけ、堂々とぶっ倒すために戦うことだ。戦いの最中に人質をすんなり返さず盾にしたり、脅してきたり、そういうせこい手段をとろうとしない。

 解放された歩美が背中に回り込んでくる。


「諒ちゃん、ありがとう! 助かった!」

「気にするなって。アタシがぶちのめてやるよ!」

 勝負は勝負。やめないならば一発殴って黙らせるだけだ。幸い、ここは灰色のコンクリートに挟まれた道。多少の攻撃ではビクともしない。戦っても問題はなさそうだ。

「バーッハハハハハハハハハ! それはオレの台詞だ! 今日こそオレが勝つ!」

 鼻で笑いながら両手を自慢の鉄の大バサミに変えて右手のハサミの先端を向けるシーザー。その両手はさながらカニのようで、カニ野郎というあだ名と大バサミや切り裂きジャックの異名はここから来ている。その笑う自信はどこからくるのか。異人ゼノの能力で現れた鋼鉄の大ハサミは当然、ホンモノの刃物で挟まれたら真っ二つだ。


 このシチュエーション、前もこんなことがあった。コイツが最初現れた時、零を先に路地裏に誘き寄せて倒し、それを餌にして今度はこちらを路地裏に誘き寄せたのだ。それで一人で戦って勝った。

 二回目現れた時も歩美を連れ去って自分に優位に働くフィールドである森のある公園まで誘い込んできた。これも同じだ。

「どうやら見た所、黒條零はいねえみてえだな……! ま、そのうち姿を現すか」

 零がどうなったかなんて今更言っても無駄だろう。ならばこの拳で黙らせてやる。じっとファイティングポーズで身構える。








読んで頂きありがとうございました。

前回の第73話で歩美が姉を失った交通事故は一か月前と表記されてましたが、厳密には11月から数えて9月を指していますので訂正させて頂きました。すみません。


大バサミのシーザー。彼は前作、「人狼少女は表社会では最強になれなかったので裏社会で無双する!!」で諒花に最初に立ちはだかった異人です。前作では最序盤から登場してましたが今作ではだいぶ遅れての再登場です。


明後日の水曜夜はノベプラのコンテストの方で一話完結短編を投稿するためお休みです。なろうでこのVSシーザー戦の続きは今週金曜の夜からお送りします。すいません。

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