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第73話

 蔭山とフォルテシア関係の話を白熱させる中で、これまでじっと耳を傾けていた歩美が口を開く。

「ねえ、諒ちゃんと花予さんはこれから事件解決まで青山を拠点を移すんだよね?」


「「あ」」


 花予と同時に声が出た。これまで蔭山とこれまでの経緯やフォルテシアの話ばっかりしていてつい忘れがちになっていたのが一気に引き戻されたようだった。

 視線を時計の方に向ける。ここまで話して、いつの間にか40分は経っていた。

「歩美ちゃん、新幹線大丈夫?」

 歩美はそっと頷いた。

「大丈夫、花予さん。でも遅れたら困るしそろそろ行こうかなって」


 すっかり話し込んでしまった。歩美もそろそろ大阪へと行く時だろう。渋谷から東京駅に行き、そこから新幹線だ。因みに前に零から聞いた話だと東京から大阪まで新幹線で最速2時間30分だという。零は本当に知恵袋でもあった。

 今の時間帯ならばこれから東京駅に移動し、昼前の新幹線に乗り、中で駅弁などを食べ、昼過ぎた頃に大阪に到着だという。

「歩美はいつ大阪から帰ってくるんだよ?」

「この三連休最終日かな。でもお父さんからは跡取りの話じゃないっていうから行ってみないと分からないなぁ」

 姉の湖都美が亡き今、必然的に笹城家の跡取りは妹の歩美となる。零のことで頭がいっぱいだが姉は9月に交通事故で亡くなっている。歩美の今後も気になる所だ。なお、三連休最終日は文化の日だ。

「ハナは行かなくていいのか?」

 実は姉の湖都美が亡くなった時の葬儀、告別式には仕事と偽って家を抜け出した花予も歩美と一緒に大阪に行って同席していた。零も含めた自分たちには黙って。ほかにも花予は生前の湖都美と古くから親交があり、母親代わりの湖都美の都合で実家のある大阪を離れ、単身東京で暮らす道を選んだ歩美への懸命なバックアップ体制を敷いていた。これも花予からこの前の変態ピエロを倒した先月19日の事件の最中で聞いた話だ。


 そして諒花もまた、湖都美とは幼い頃に三軒茶屋の駅前に高くそびえ立つオランジェリータワーのレストランで歩美、花予も交えて一緒に食事したりした思い出がある。年上のお姉さん的存在だった。

 歩美が関西弁ではないのも東京暮らしが長かったのもある。小二を最後に大阪に帰り、小五の時に東京に戻ってきたが変わらずだった。というか笹城姉妹は姉も含めてそこまで露骨な関西人という印象を感じない。姉は少しなまっているように聞こえるが。

「今回はわたし一人で行くことにしたんだ。家に帰るだけだもの」

「お土産のお金だけ渡すからお父さんによろしくね」

 花予も葬儀で歩美の父親に会ったのだろう。歩美の父親には会ったことがない。だが金持ちだけあって大物に違いない。

「ハナ。その気になれば歩美と行けばいいじゃないか。戦いに巻き込まれずに済む」

「あ、言われてみたらそうだね。確かにそれもできる」

 すると少し黙りこくる花予。


「ただ、零ちゃんもだけど、あたしは歩美ちゃんも含めてみんなが帰ってくるのを待っていたい。なぁに、翡翠ちゃんもいるし大丈夫さ」

 滝沢邸ならば、敷地内で森や植物を使った能力を自在に行使できる翡翠だけでなく妹の紫水もいる。花予が懸念したヤクザの兵隊はともかく、翡翠がこの家にわざわざ赴いてまで花予を納得させたのだから敵襲を気にせず、安心して過ごせるだろう。

「そろそろ時間だね、行かなきゃ」

 できることなら歩美を駅まで送りたい所だがワイルドコブラに見つかってしまっては元も子もない。だから玄関までしか送ることができない。玄関で靴を履いた歩美と向き合う。

「諒ちゃん、必ず零さんを連れ戻してね」

「ああ、そっちも気をつけろよ。また三人で会いたいな」

「うん!」


 次に歩美と会うのは最速で文化の日の連休最終日だ。とはいえ、その次の日の学校になるか。その時までに零を取り戻せたらいいが、それは今後にかかっている。今日を入れてたった三日だ。ただもしパソコンに零の居場所を示す有力な情報があるならば可能性はある。

 花予と蔭山も「いってらっしゃい」「気をつけてな」と見送った所で、再び話し合いの体制に戻る。

「蔭山さん。ワイルドコブラについて何か知ってる?」

「俺が言えることは港区のまだできて新しい高輪ゲートウェイとか、田町近辺に拠点を構える二次団体ってことと、これは風の噂だが総帥が死ぬ以前に本家ダークメアとの折り合いがだいぶ前から悪かったようだ」

 折り合いが悪いとはいったいどういうことだろうか。

「まさか今回の抗争もそれが原因? 変態ピエロ倒した後にあったちょっとしたケンカとかじゃなくてさ」


「これも滝沢翡翠ならとうに全部知ってるに違いねえ。俺達も準備しよう──」

 その時だった。スマホが震えた。見てみると出発したばかりの歩美からメッセージが来ていたのだ。どうしたのだろうか、それを見た瞬間。目が大きく開く。


「あ……」


『諒ちゃん助けて』




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