第71話
とりあえずダークメアの内情は翡翠に後で確認してみることにして後回しとした。パソコンの件といい、全て滝沢家任せになってしまうが仕方がない。
「それで、滝沢家が拠点にしていた渋谷ヒンメルブラウタワーが今しがた奴らに襲撃されたというわけか」
まさか自力でビルを駆け上がって窓から襲ってくるとは思わないだろう。その話をすると「そいつはとんでもねえな」と蔭山は絶句した。どうにかニワトリ野郎を倒して逃げてきたわけだが悪い事ばかりではない。
「異人ってのは中にはもはや人間じゃねえ動きをする奴もいるからな……今まで諒花が倒してきた奴を超えるぐらいの」
「アタシも見た。変態ピエロもだったけど、あんなのがまだまだいるんだとも」
フォルテシアに完敗、そして翡翠から昨夜ホテルで言われたことを思い出す。自分はまだまだ弱い。
「それで話し戻すけど、翡翠がアタシとハナに青山の屋敷への一時的な避難を提案してきて、この騒動が落ち着くまでアタシ達はそっちに移ることにしたんだ」
「それが賢明だろうな。きちんと協力関係を結んでるなら安心できるだろう。青山の裏社会を牛耳る滝沢家だしな」
「翡翠ちゃん、わざわざ家に挨拶に来てくれたし大丈夫だよ彼女は。蔭山さん」
花予の言う通りだ。翡翠は今はちゃんとした味方だ。警戒する必要はない。
「相手はダークメア三大幹部の一角が率いる二次団体だ。同系列の円川組とかと並んで地位が高い組織の一つ、それぐらいの拠点はないとな。その戦力層は翡翠ら滝沢家を当然超える」
円川組は池袋に事務所を構える指定暴力団。7月に同じ池袋でベルブブ教との抗争に勝利したということぐらいしか聞いたことがない。だが、指定暴力団という肩書きはよく聞く。その肩書きの組員が何かしら事件を起こして警察に連行されていく様がテレビとかに映る。ある意味ダークメアの表向きの看板の一つと言える。
ここで話題が大きく切り替わることになる。
「諒花はこれからどうしたいんだ?」
それはもう一つしかない。
「蔭山さん、アタシは零を見つけたい。会って、なんで今まで隠れてこんな事をしてきたのかを全部訊きたいんだ……アタシ弱いし無謀かもしれないけど」
自然と席から立ち上がって最後は俯いた。昨日、彼女に負けて痛感させられたことをより思い出す。相手は強大すぎる存在だ、無謀かもしれない。だが。
「アタシは零を取り戻すまでじっとしてなんかいられないよ。アイツの去り際の涙こぼすとこ見ちまったんだ。絶対何かある、アタシしか零を取り戻すことはできねえんだ!」
「やっぱりな。そう言うと思った。零を取り戻したいってな」
腕を組む蔭山。
「同じく、諒ちゃんならそれしかないと思ったよ蔭山さん。零さんも何かあるの確かだよ」
歩美はよく分かっている。
「大変な状況だけどさ、翡翠ちゃんいるし、相手がワイルドコブラだろうが何とかなるよ諒花。零ちゃんのパソコンの中身を見たらそこに答えは書いてあると思うから、解決に大きく近づくさ」
三人がそう言ってくれると気分が晴れる。が、しかし。ここでたまらずあの事も話したくなってきた。
「蔭山さん。アタシがあのホテルに泊まることになった経緯だけどさ」
ヒンメルブラウタワーに泊まるまでの経緯は、ここまで胸にとどめておきたくてあえて話さなかった。
「ああ、そこはまだ聞いてなかったな。なんでなんだ?」
みんなが背中を押してくれるなら話す必要があると今思った。
「アタシの所にXIEDからフォルテシアって女がやってきたんだ。変態ピエロとか比べ物にならないくらいもの凄く強かった。アタシは気を失って滝沢家に助けられた。そこからだ、ホテルに泊まることになったのは」
すると蔭山は意外にも大きく目を丸くし仰天した顔で、
「なぁにい!!? フォルテシアに会っただって!!?」
「ええええっ!? 蔭山さん、フォルテシアをまさか知っている!?」
「俺が仕事柄よく会うXIEDの馴染みの一人だぞ? ……言ってなかったか?」
「……知らなかった」
フォルテシア。その名前は昨日出会うまで全く聞いたことがなかった。たぶん忙しい蔭山の記憶違いだろう。
仕事柄、XIEDと関わりがあることは知っていたが、それがフォルテシアとは知らなかった。




