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第63話

「敵はもう渋谷の色んな場所に潜んでるってことでいいんだよな?」

「はい。十分に警戒が必要です。これからあなたはどうされますか?」

「それは……」

 花予が心配だ。できることなら一旦帰りたい。しかし帰るにしても昨日学校から着てきた制服の格好では一発でバレてしまう可能性がある。どうしようもない……と思ったその時、石動のスマホが鳴るとすぐに出る。


「はい、石動です。はい……はい……かしこまりました」

「諒花様。翡翠様からお電話です」

 石動はそっとスマホを手渡してきた。もしもしと応対する。


『石動ちゃんから話は聞いています。拠点が事実上陥落した事は残念でした。甘く見過ぎていました。ひとまず諒花さんが無事で良かった』

 翡翠は深刻にとらえつつもホッとした口振りだった。

「こうなったのは想定外なのか?」

 計算高く頭の回転が良い翡翠にしてはあっけない陥落っぷりだ。

『可能性としては予め考えていましたが、完全にやられましたわ。ここまで調べあげて攻めてくるとは』

 どちらにしろ、ホテルに宿泊しようがしまいが、敵に居場所がバレて攻められるのは時間の問題だったのかもしれない。


「ワイルドコブラってダークメアではカチコミ担当なんだろう? やけにやることが計算高いじゃねえか。トップもそうなのか?」

『いえ。最高幹部カヴラはパワー全開の突出した暑苦しい肉体派です。とても頭脳派とは程遠いです』

 それを聞いて、たぶん全身筋骨隆々で身長もとてつもなくでかくて、たくましい体をしているのだろうイメージが浮かんだ。

「だったら、数で攻めてきたあのハチ野郎の他に別で頭良い奴でもいるのか? 作戦立てる参謀的なポジション」

『私も石動ちゃんと同じ考えです。あのビーネットみたいに現場の指揮に頭の回る幹部はいても全体を統括することに優れた幹部は聞いたことがありません。いつもスカールさんなど上からの指示で動くことが多いので。ですが今回はワイルドコブラ単独、戦争を始めた最初から地道に、幹部が倒されても勢いを崩さず攻めて追い込んでいます。まるでチェスのように』

 チェス。零とやったことがあるが、あれも一手ずつキングを追い詰めて最終的にはとった方が勝ちだ。勿論、頭の良い零はとても強くて敵わなかった。


「一番手のあのハチ野郎の時から裏で仕組まれていたってのも同じなんだよな? 石動さんも言ってたけど」

『はい。あの時多数の構成員が渋谷になだれ込んできたのは記憶に新しいはずです。諒花さんと戦う以外にも別の目的で送り込まれた者もいることでしょう。この調子ですと』

 やはり最初のビーネット戦から全てが始まっていた。渋谷に住む自分を仕留めるために攻めてきたがそれはほんの一部分で、実際は戦闘担当以外の者も入り込んだ。もし昨日フォルテシアと戦って、そのまま家に帰っていたらどうなっていただろうか。もしかしたらあのニワトリが家に攻めて来ていたのかもしれない。

 いつどこから攻めてくるか分からない。完全にそのような事態に陥っている。

「翡翠、アタシは家に帰りたい。ハナが心配だ」

『そうですね、そこにいてもコカトリーニョがやられたのを聞きつけて、敵が襲ってくるかもしれません。一度花予さんに顔を見せてあげて下さい────』

「けどどうすればいい? 制服のまんまじゃ敵に見つかっちまう」

 なるほど、と頷く翡翠。

『でしたらこうするのはどうでしょうか? 敵に姿を晒さないように変装するのです。それで帰宅して下さい』

「変装? どうすればいい? 服なんて……」

 姿を隠すための着替えは当然持ってきていない。だから困っているのだ。

『石動ちゃんが用意してくれるはずですわ。家に帰って暫くの間、じっとしてて下さい。何かありましたら必ず連絡します。と、ではそろそろ失礼』

 翡翠もやることがあるのか急いだ様子で通話は打ち切られるようにして終わった。すると石動が、

「ホテル側への後始末は私が手打ちしてなんとかします。諒花様だけでも脱出して下さい」

「石動さん。アタシはチョーカーのことを調べてみようと思う」

「諒花様のチカラを封じていた、首にしていたあの赤いチョーカーですね。良いと思います。黒條零の居場所もまだ分かっていません。GPS、つまりは発信機があった以上、それがどこでつけられたのかさえ分かれば、背後の黒幕を突き止めることができるかもしれません」


 この場は石動達に任せて、家に帰ろう。花予ならばあのチョーカーについて知っているはずだ。

「諒花様、私からの餞別です。こちらを」

 石動がどこからともなく出したそれは素顔を隠すサングラスと大きめのテンガロンハット、黒いコートだった。無論、男ものだ。白い不織布マスクもある。女が着るにはサイズは少々でかめ。だが暖かい。これの用途は当然分かっている。だが。

「なんだ、これ?」

 袖を通してみて、服の各所を見る。

「私の真夜中の活動用、尾行や潜入任務用を想定した装いでいつも予備に用意しているのですよ」

「石動さんのなのか、いつの間に。まぁいいや、グズグズしてられねえ……ありがとう!」


 それらを身に着けてその場から駐車場の出口に向かって走り出す。サングラスで目の前が暗くなるがそれでも歩けるだけの視界は確保できている。コートの裾が大きく浮くので前を閉めて、再び走り出す────

 拠点をこんな形で潰されるとは思ってもいなかった。今後は拠点だからといって安心しきってはいけないのかもしれない。

 進むべき指針はチョーカーしかない。今はこれを調べてみるほかなさそうだ。もう一度、過去を遡る必要がある。これをつけることになった時のことを。そこから黒幕が分かれば、零を直接足で見つけ出すよりも早く零に会えるかもしれない。

 零も黒幕に使われているということは、黒幕に近づけば、必ず零も現れるはずだから────!




コカトリーニョ戦後半、第60話と第61話の文字が詰まっていたので少し改行を加える修正を行いました。

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