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第62話

 黒焦げ状態で目の前に倒れているニワトリ野郎、コカトリーニョ。

 サッカーボールに紫のユニフォーム姿で現れたこの男。ひょっとしたら彼も、本当はサッカー選手になりたかったけれどもこのチカラ、異人ゼノなのが原因でなれなくてこうなったのだろうか。

 だとしたら少し共感できる。表向きドーピング対策や教育のために行われているメディカルチェックによって夢を絶たれたならば。普通のサッカー選手になれてたならこんな戦いもしなくて良かっただろうに。


「……ふう」

 ふらっと息を吐いて初月諒花はその場で膝をつく。疲れた。横に倒れている黒い塊となったコカトリーニョはもう動く様子がない。黒焦げになって、気を失っているのか、それとも死んでいるのか分からない。自分の炎に焼かれるという情けない最期だった。

「諒花様、ご無事で」

 いつの間に後ろの方からゆっくり歩いてきていたのは相変わらずの緑色のスーツ姿の石動。ただその綺麗に整ったスーツは少しシワや汚れがあるようだった。

「石動さん! 奇襲部隊とやらは?」

「殲滅しました。彼ら、早朝のうちにここの地下水道からの侵入を企んでいました。なので警戒していた私は侵入されるより先に駐車場から地下に降りて立ちふさがったというわけです」


 さすがに全てを防ぐには限界がありましたが、と石動。一階にいたガスマスク集団はそれを抜けてきたか、別の場所から地上に出て迂回してきたのだろう。

 それにしても下水道。なんて場所から侵入してくるんだ。内心嫌悪感が出る。下手すれば地下から大軍が来て挟み撃ちにされていたかもしれない。

「それでニワトリ野郎は一人でアタシを直接始末しにやってきたってわけか。かなり強かった。サッカーボール飛ばしてきたんだ」

「ワイルドコブラでは切り込み隊長にあたる男です。脚技で次々と敵をなぎ倒し、彼にかかればボールだろうが蹴飛ばせるものは何でも凶器となります」


 石動の落ち着いた言葉から発せられたそれに寒気が走った。やはりだ、どこにでもある普通のサッカーボールが充分に戦いで機能する飛び道具と化していた。今までの、ただチカラで殴ってきたり攻撃してくる敵にはないものだ。

「なあ、このニワトリはもしかしてサッカー選手だったりしたのか?」

 気になって仕方なかったのでダメ元で石動に訊いてみた。どうしても無視できなかった。

「元々、趣味か何かでサッカーが好きだったのでしょう。しかし表社会で夢が叶わずこうして裏社会で生きるしか道がなかったと推察できます」

 異人ゼノなので表社会でプロサッカーに入れるはずがない。メディカルチェックで弾かれるからだ。真っ当な経歴ではないのは目に見えている。だが、サッカーが好きだからあんなボールを飛ばすテクニックも磨きをつけたのではないか。自分が格闘で戦うように。

「と、それより」

 話を切り替える石動。

「この度は敵に先手をとられた挙句、奇襲を許してしまい、本当に申し訳ございませんでした」

 そっと深々と丁寧に頭を下げた。美しい横髪と前髪がたれて下を向く。

「いやいや、いいっていいって! この通り倒したんだし」

 両手を前に出すも謝罪は止まらない。


「それでも。猛省すべき点です。この石動、不覚でした。このような騒ぎになってしまった以上、もうここを拠点として利用することはできません。申し訳ない」

 敵はこちらがホテルに宿泊していることを予め突き止めた上で攻めてきた。もう敵にはこちらの顔も居場所が完全にバレている。離れなければならない。



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