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第61話

「何のつもりだ!!」

 コカトリーニョの、奴の体を包むサンライトのオーラの輝きはまるで一手に集まる炎のようだった。

「鳥人間なのに飛べなくて舐められてきた俺っちが、究極の脚技の次に編み出した秘奥義……」


 ――秘奥義だと……!


 一体全体どんな技なのか。それをすぐに刮目することとなる。


「燃え上がれ!! 神炎の(ゴッド・フレイム・)巨鶏(コケコッコー)!!!!」


 思わず失笑しかけた、末尾が見事に残念なダサい技名を真剣に叫びながらコカトリーニョから放たれたのはその名の通り全身炎の鳥。神々しい翼を広げながらこちらに襲い掛かるその神鳥の顔はよく見ると立ったトサカからニワトリの炎影。まるで飛べない自分の叶わない夢を込めた姿だった。


「コケーーッハハハ!! この技に焼かれて駐車場ごと黒焦げになれェ!!」

 このままでは自分を含めて、この化け物にコンクリートに囲まれた駐車場が炎で焼かれてしまう。そんな残酷な未来をその存在で突き付ける、猛々しさと響き渡るニワトリの嘲笑。

 ここはコンクリートに囲まれた地下の駐車場、辺りには車が沢山止まっている。この炎が燃え広がりでもすればガソリンが一斉に破裂し、連鎖的大爆発を引き起こすことは想像に難くない。そうすればその炎はこのホテルも下から燃やし尽くしてしまう。炎が立ち昇り、たちまち街はパニックになる。


「……!」

 この攻撃を避けてはいけない。炎が燃え広がり車に当たってしまう。直接当たっても絶対にいけない。この化け物を防ぎきらなければ負けも同然だ。これ以上、こちらの都合でホテル内の騒ぎを大きくしてはいけない。こんなに立派なホテルを台無しにさせてはいけない。このホテルはこの街のシンボルの一つでもある。

「こんなことされて……たまるかよ……!」

 眼前に迫ってくる吠えるニワトリの化け物。熱気が迫りくる。赤く灼熱に燃える炎はとても苦手だ。怖い。両親が死んだあの事故の悪夢が蘇る。

 だがその恐怖に怯え、悲しみに蝕まれている場合ではない。いくつもの湧き上がる想いを勇気に変えて、それらを振り払う。両手を力強く前に出す。


 先月19日も緑炎の中、あの変態ピエロを倒した。そして変態ピエロは両親と恋人を殺した張本人だった。あれは辺りの景色も含めて、過去のトラウマが敵となって具現化したかのようであった。

 その困難を結末はどうあれ乗り越えたのだ。こんなのごときに負けてはいられない。フォルテシアには負けたが。翡翠にはもっと強いチカラを出せるように心がけるよう言われた。限界と思っている壁を飛び越えてみろと。


 それにここでやられては零にまた会えない。顔向けできない。そんなことは絶対に嫌だ。 溢れる思いが、両手の人狼の腕に一手に集まる。全て、この体で受けとめてやる――!


「初月流・全受けの構え!!」


 迫りくる炎の鳥を殴るのではなく両手で受け止める。集約されしその強大なチカラを外から波動を込めて受け止め、相殺していく。削り取っていく。

 所詮はチカラの塊をした代物。それを構成するモノを同等なチカラをぶつけて潰していけばいい。

 両翼、頭、燃え上がるその全てが集まってくる。内側からチカラが湧き上がるこの体で全て受け止めてやる。死に物狂いで全身から限界を超えたチカラを一気に解き放つ。


「コケッ!! 打ち破れ!! 俺っちの必殺技!! な、なんだこれは!?」

 押しとどめたそのチカラはやがて勢いを失い、しぼんでいく。ニワトリの化け物はみるみるうちにしぼんでいき、やがてひよこ同然にまで縮小する。ピヨッ。

「コケッ!?」


 一瞬、ひよこの形をとったものの極小となって消えていく化け物。その時、急激にサイズがしぼむと同時に偶然弾け飛んだ流れ弾の炎がコカトリーニョの白い翼を焼く。それは巨大な風船の空気が外に漏れ出たかのようだった。その他の残り火は車に当たらないようにこちらが引き受けて消していく。


「誰か、水、水、水うううううううううううううううううううううううう!!」


 右手の翼に燃え移った炎は瞬く間にコカトリーニョの全身を包み込み、焼き尽くしていく。これほどの炎の塊のバケモノだったことを思い知らされる。

 燃えるコカトリーニョがじたばたしている間も炎は容赦なく彼を食らっていく。熱さと恐怖で彼を覆い尽くす。


「空を飛べる奴らに負けたくなくて鍛え上げたこの脚の次に編み出した必殺技があああああ!? そんな……バカなあああああぐぅぅああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 ――知るかよ。


 こういうのを因果応報というのだろう。ここまでの所業に対する報い。勝手に独り相撲で燃えている。その白い羽毛も全て炎に覆われ、ただひたすらに焼かれゆく。足踏みをしてじたばた暴れながら火だるまになる。その体も相まって、炎はとどまることを知らない。


 衣服も焼けて、長い髪も、その贅肉も、全ては炎の一部となる。その炎の勢いが収まるとその巨体は文字通り、ただの真っ黒の焼き鳥となった────。

年内の連載はこれで以上となります。今年一年本当にありがとうございました。

最後はコカトリーニョで締めさせて頂きました。

人狼少女シリーズの作中時間とリアルが重なる2024年。にも関わらず、上半期は一話完結の短編をほぼ月一間隔で出したものの、

肝心の人狼少女2の連載ができず延期を余儀なくされました。

そしてようやく8月19日に連載開始、年内にここまでお届けできて本当に良かったと心から思います。

「人狼少女と捜査局からの使者」で前作人狼少女1と今作人狼少女2を合わせて計200話を突破しました。


来年からは窓際刑事の彼や前作で4回諒花の前に立ちはだかった「バーッハハハハ!」と笑うアイツが帰ってきたり、

滝沢家が零の自宅から押収したパソコンの解析に成功したり色々動きます。お楽しみに!

続きは年明けの1月6日の夜から再開します!


よいお年をお迎えください。来年もよろしくお願いします。

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