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第58話

「くそっ! こうなったらアタシがあのニワトリ野郎を倒すしか止める方法はねえのか……!」


『奇襲部隊も手馴れ揃いで救援に向かうこと叶いません。諒花様、申し訳ございません』

「これがあの変態ピエロが総帥をしていた犯罪組織の実力なのか……!」

『ワイルドコブラはダークメア三大幹部の一角が直々にボスをしている二次団体です。簡単にはいきませんよ』

 あの変態ピエロが裏社会の帝王と呼ばれていたのがよく分かる。これだけの子分が沢山いて、しかも三人も凄い幹部が下にいるならばそりゃ帝王と呼ばれて当然だ。

 そしてそんな首領ドンを倒せたのも昨夜翡翠に言われた通り。条件が重なって一時的にパワーアップしていたからにすぎない。


『渋谷のシンボルの一つでもあるこのホテルでの揉め事も今に始まったことではありません。ホテルを荒らしてしまった手打ちは我々滝沢家でしますので、諒花様はコカトリーニョに専念して下さい』


 フォルテシアに負けて一夜明けての敵襲。内心、足りないものを今は酷く痛感している。しかしこのホテルの平穏は取り戻すには戦う以外ない。昔、零も言っていた。


 ──生きる答えを自分で見つけることの大切さを。


『異能の蔓延る裏を知れば、生きる答えを必ず見つけられる。他人に教えてもらうのではなく自分自身で納得いく答えを見つけること。でなければあなたの答えではない』


 だから、自分が立たなければいけない。メディカルチェックを不合格にされた自分に零が言ってくれた言葉だ。毎度だがここで負けたらそれはない。


「コケーーッ!! どこだあ? 初月諒花!!」

 女子トイレの外からドアを貫通して、奴の声が大きく響く。ついに追って来てしまった。さすがに女子トイレまで入ってくることはないだろう。男のモラル的な意味でも常識的な意味でも。


 そういえばあの寝室にいた時、外からの物音は全く聞こえてこなかった。それもあって快適に寝れた気がした。防音がしっかりしてるのかもしれない。だがこのトイレはドアの隙間があるのか防音が弱いのか、その咆哮が漏れ出ている。


 しかし今、表に出れば廊下で奴と相対することになる。廊下というボールも跳ね返りやすく、かつ広くない空間フィールドでは分が悪い。どうするか――――、


 その時だった。何かが女子トイレのドアを乱暴に開けた音が響いたのは。さすがにここまでニワトリ野郎が入ってくるとは思えない────なら他の客か、だとしたらニワトリ野郎、無関係な相手には優しいのかと思った時――、


 ふとトイレを囲む壁の真上を見た。すると、浮いたサッカーボールが今にも迫ってきていたのだ。

「嘘だろ!? なんで――」

 考える間もなく、ボールは天井に跳ね返り、頭にぶつかって激痛が一瞬で全身に伝った。


「いってええええええええええええええええええええええええ!!」

 思わず悲鳴をあげた。同時に足をシタバタしてしまうほどの頭の痛み。それは無論、先ほど腹に当たったのと同じ強度で異人(ゼノ)でなければ骨ごと頭を割られるに違いない。銃弾で頭を貫かれるのと同じように。


 頭に当たったボールはそのまま便器の脇に転げ落ちると同時にさすった頭にタンコブがあることを実感する。


 ――おいおい、冗談だろう……?


 無論、投げ入れられたものではない。それは蹴飛ばされてやってきた。


 女子トイレの外の廊下からサッカーボールを蹴飛ばし、そのボールはドアを開かせ、しかも威力を失わず、壁を上から越えて狙い通りに標的に当てる──そんな常識外なことができるのか??


 落ちてきたサッカーボール。拾ってグルグル見てみる。どこからどう見ても普通のボールだ。ボールからは異原石(ゼムライト)が埋め込まれていることによる異源素(ゼレメンタル)反応を感じない。


 異源素(ゼレメンタル)の結晶とも言える特殊な鉱石、異原石(ゼムライト)が埋め込まれている、もしくはそれを使って作られた武器を異能武器(ゼオプロ)と言うが、防具などにも同じようなものもある。

 だが、このボールはその類ではない。どこにでも売ってるごく普通のサッカーボールだ。


 ということは、奴が蹴った時だけ、この普通のボールはデタラメに飛び回り、止まるまで破壊をやめない、銃弾やナイフにも劣らない凶器と化すということでもある。普通の人間だったらとっくに骨のいくらかがへし折られてるはず。


「コケーッ!! もうそこにいるってことは分かってるんだ。とっとと出てこーい!! 俺っちがケチョンケチョンにしてやるぜ!!」


 やはり。さっきの予想外の攻撃に伴う悲鳴で居場所がバレてしまった。いつまでもこうはいけない。こうなったらやるしかない────!


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