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第44話

 それは今も行方を捜している──居場所ならこっちが聞きたいというのが本音の彼女の名前だった。

「なんで……なんであんたが零のこと知ってるんだよ!?」

「あなたの傍らには彼女が常にいると調べはついています。あなたと一緒に彼女もレーツァンをはじめ、他にも様々な大物の異人ゼノと戦ったと」


 それはそうだろう。あの変態ピエロも最後は零のアシストもあったからこそ倒せた。自分一人で倒したわけじゃない。いや、それよりも。

「零がいなくなったことと何か関係があるのか?」

「いなくなった? それはどういうことですか? 説明して下さい、今すぐ」

 その語気を強めた言葉から、彼女もまた零の存在を必死に求めているように見えた。


「零はただ転校してきて仲良くなったんじゃなくて、最初からアタシを監視するためにやってきていたんだ──」

 

 零がいなくなった経緯を記憶を探りながら説明した。相手はこれほどまでに強いXIEDシードだ、漏れなく包み隠さず説明しよう。そう決めては順を追って説明していく。まずあの変態ピエロ──レーツァンの背後にはもう一人黒幕がいたこと、レーツァンはそいつと組んでこちらを狙っており、そいつを蹴落とすためにレーツァンは諒花の両親と恋人を殺害していたこと、その黒幕は手下を送り込んでおり、こちらのすぐ近くにいるとレーツァンは言い残したこと。更にそこからいくつも伏線をつなぎ合わせた滝沢翡翠の推理と協力によって、その手下は零であるという疑惑に辿り着き、彼女の正体を先月27日に確認すべく家を訪問したが暴いた所で逃げられてしまったことを。


「……なるほど」

 話を聞き終えたフォルテシアは黙りこくって考え込んだそぶりを見せる。

「なあ。零のこと知っているのか?」

「はい。あなたの前に現れた彼女が何だったのか、私は知っています──」


「教えてくれ! 零は何だったんだ?」

 受けたダメージをものともせずに身を乗り出してフォルテシアに迫る。

「それを教えるつもりはありません」

「は!?」

 思わず、痛みを忘れて声が出た。こちらに散々訊いておいてそれはないだろと問い詰める。

 

「さっきの戦いで分かったはずです。あなたはあのレーツァンを倒したかもしれない。それぐらいのチカラを持っている。ですがあなたは私に傷一つ与えることもできないくらい弱い」

「零はアタシの大切な友達なんだよ! 見つけ出していなくなったワケを聞きたいし、取り戻したいんだ! 教えてくれ!」

 たまらず懇願する。だがフォルテシアは表情を変えない。


「今からでも遅くはありません。彼女のことや、この世界のことは忘れて、普通に一般社会で生きる道も考えてみてはいかがですか?」

「は? なんだそれ? ふざけたことを言うなよ!」

 またしても声が出た。今度は今までの道を否定された戸惑いも滲み出る。

「ふざけてはいません。あなたはまだ中学生。今からでも心を入れ替えて、その情熱で勉強すれば良い高校や大学にも行けると思いますよ」

「勝手なこと言うなよ! アタシのことなんも知らねえくせに!」

 

 こっちはこのチカラのせいで小学生の頃からずっと入りたかった空手部もメディカルチェックで不合格になって入れず、帰宅部になっていてなりたいものにもなれないのに。だから零の言ってくれた言葉を信じて、この異能溢れる裏社会で生きる答えを探してここまで来たのに。ところがその零は監視役で送り込まれてこっちは困っているのに。それを今、まとめて一蹴された。


「この世界はあなたの思っているほど甘くはありません。だから言っているのです」

「こっちは……零と一緒に色んな修羅場を潜り抜けてきたんだよ、助け合ってきたんだよ。喧嘩することもあったけど。アタシ、バカだから難しいことは分からねえ。でも零は教えてくれたんだよ。それも全部忘れて普通に生きろだ? できるわけねえだろ!!」

 

 その時、冷静なフォルテシアの目がわずかに大きく開いた気がした。立ち上がって、再びフォルテシアに向き直る。そしてファイティングポーズをとる。 

「まだアタシの意識は飛んじゃいねえ。あんたが教えてくれるまで、アタシは立ち向かってやる! アイツのために! 何度でも!」


「その様子では、引き下がらなさそうですね」

 フォルテシアは仕方ない様子でそっと立ち上がる。

「いいでしょう。その内に秘めた執念、その言葉を裏付ける全て、私にぶつけてみなさい」

 

 猛々しい掛け声をあげ、高く跳び人狼の拳で殴りかかる。それを受け流し、迫ってきた拳をスルりと避け、発生した一瞬の隙。


「そこっ!!」

 足元を崩し、真後ろの丸腰なしっかりとした背中。そこを狙って──、

「ぐああっ……!」

 フォルテシアの小さい手による正拳突きが突き刺さった。後ろから走る激痛。同時に人狼の拳が元の少女の手へと戻っていく。この攻撃は相手の生命力と同時に今燃え上がっている異源素ゼレメンタルや発生しているチカラも消し去る。

 それだけは明らかだった。ただ殴られるのとは違う。


 痛みなら先ほどの腹部の方がまだ覚えている。倒れない。しっかり足で根をつけてこらえ、背後にいるフォルテシアと距離をとって向き合う。今こそぶつける時だ。

 

「フォルテシアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

 再び右手の人狼の拳で殴りかかっていく初月諒花。泣きの一回である第二ラウンド。何度攻撃を避けられて反撃を食らおうと、歯を強く噛みしめて立ち続ける。


 あの別れ際に涙をこぼした零のため。実力差があることはとうに身に染みている。それを埋めることはできない。さっき自分で出した言葉が再度奮い立たせる。何度でも。


 全ては零のために。もし、零が帰ってきたら、真面目に勉強して良い高校や大学を目指してみるのもありかもしれない。勉学にメディカルチェックは関係ないのだから。だが、それで良いのかは別問題だ。

 とにかく零を取り戻すまでは、納得できる生きる答えを見つけるまでは。何度倒れても打ちのめされようが立ち上がってやる。


 やはりこちらの攻撃は一向に当たらないしカスりもしない。避けられてしまう。これが異人ゼノ専門の警察、XIEDシードの実力というものなのか。

 折れてやるわけにはいかない。零がきっとどこかで今も待っている。この女がそれを知っている──それまでは全力で食らいついてやる──!

 

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