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第41話

 放課後。今朝会った彼女から受け取った紙切れを頼りにその書かれた場所へと向かった。紙切れには白黒の地図が印刷されていて赤ペンで場所が丁寧に記されていた。空は真っ白な雲に覆われていて青空は見えない。


 その場所は渋谷駅から南西に遠く離れた所に位置する。途中、滝沢家が拠点を構える渋谷ヒンメルブラウタワーが向かいにそびえ立つがそれを通り過ぎてその境界線たる高速道路の道をひたすら横から沿って真っすぐ行くと次第に渋谷駅から南西の街の方角へと進むことなる。


 渋谷駅から次にある池尻大橋駅いけじりおおはしえきが近い。因みに池尻大橋の次の駅はオランジェリータワーが高くそびえ立つ三軒茶屋さんげんぢゃやである。この前、19日に変態ピエロを最終的に倒すことになったあの謎の女騎士事件の際、零の提案によって一度立ち寄った。


 そこでは歩美が変態ピエロによって女騎士に仕立て上げられていたり、自分達には伏せられていた知られざる歩美と花予の事情が明らかになったりと、色々あってそこから決戦の舞台である青山へと向かうことになったのだった。


 しかし今回はそこに用があるわけではない。これから行く場所は池尻大橋駅の手前だ。ここは渋谷区ではなく南から伸びる目黒区に位置する。

 渋谷と池尻大橋の間は渋谷区と目黒区が折半しているのだ。高速道路が入り乱れている中にドーナツ状の円の形をした灰色の建物がある。そこはコンクリートに囲まれた緑の溢れる公園だ。

 中に入り、円を一周回ってテッペンまで直行するエレベーターを使うか、上へ上へと坂道を上っていく形となっている。ここはマンションも建つ都心の庭園ともいうべき場所、その名も天空園てんくうえんだ。えんは円にもかけている。フォルテシアからもらった紙はその場所への地図。


 丁寧に植物が植えられた道。円の真ん中の空洞はサッカーなどができる広場となっている。高速道路が外部では入り乱れているが、この円の形をしたこの庭園はコンクリートに囲まれた大都会の中でも数少ない自然に溢れた場所だ。


 ここに来るのは初めてではない。普段はのどかな公園だ。しかし風が吹き、植物がざわつき、そしてあまつさえすれ違う人が誰一人いない。空は先ほどまでの真っ白から一転して徐々に黒さが混じっている。何だか不穏な空気に包まれている。雨でも降りそうだ。

 

 が、それでも行かなければならない。学校でもそのことで頭がいっぱいだった。ここへ来る途中、石動に連絡をしようか迷った。だが、そうしているうちに来てしまった。

 相手はXIEDシードだ。今はもういない親のいた組織の人間でもある。それにフォルテシアに話しかけられた時、何となく向こうはこちらだけに用があり、他の誰かに横槍を入れて欲しくないような空気を感じた。


「待っていました。ここまでご足労おかけしました」

 円をぐるりと上った先はこの辺りの街並みを一望できる場所。ガーデニングがされ、植物が生えた手前に木造で座れるベンチがある。フォルテシアは一人、真正面奥にあるそのベンチに座ってこちらを待っていた。誰もいない静かなこともあって、それはまるで玉座に座ってこちらを待つ高貴な姫のような雰囲気であった。

 空はどんより暗い雲に覆われている。ずっと離れた遥か向こう側の景色は茜色で明るい。今にも雨が降ってきそうだ。


「ここで勝負するってか?」

 近くにはドーンと公園からも入れる形で一件のマンションが天に向かって建っている。洗濯とかでベランダに出てきた人にこの現場を見られたらどうするんだと。


「愚問ですね。事件は場所を選びません。テレビとかだと爆破テロ事件や銃乱射事件とかで報道されることがありますが、我々の世界で起こっている戦いは表社会に知られることはまずありません」

「やっぱり報道番組っておかしいよな。起こってる事件を正しく報道しねえし」

「あなたも分かっていましたか。毎日、観るテレビの報道の違和感に」

 この世界を知って最初期に抱いた違和感がそれだ。ちっとも異人ゼノのことやってないじゃないかと。勿論、変態ピエロとの戦いも。


「この前のハロウィンの日も、あなたはダークメアのワイルドコブラ幹部、スコルビオンと戦っていましたね?」

「なぜそれを」

「見てましたから。あれも当日夜のニュースではハロウィンで騒ぐ若者のことしかやってませんでした。そういうことです。我々の世界は」

 非常に分かりやすい例だ。その流れで言うと、

「仮にあのサソリ野郎が大量の爆弾積んでテロ起こしてもハロウィンのせいにされるんだよな?」


「そうです。どれだけ異人ゼノ同士が街中で激突した大規模な戦いが起こっても、それは謎の大爆発事件とか大火事事件とか、表にとって都合よく改変されて伝えられます」

 するとフォルテシアはそっと立ち上がる。

「たとえマンションの住民がこの戦いの様子を目撃して写真や動画で撮って、SNSにあげたとしても、それが広まることもありません。インターネットという全世界中に張り巡らされた電子の海は、まるで独自に生き物の免疫、白血球のような機能を持ち、それら有害と思われる情報を独自に勝手に拒絶するのです」


「……それ知ってる。前いたアタシの友達に教えてもらった」

 零だ。初めて会って間もない頃のこと。機械は得意ではないが、スマホでカメラアプリを開き写真を撮ることはできた。だから襲ってきた敵などを写真にとってネットにあげたらいいんじゃないかと提案したが零は却下したのだ。そして試しにやって見せると上げた写真が白と灰の砂煙に覆われた不気味なものへと変わっていたのだ。ゾッとした。


「さて今回、私が来た目的は二つ。一つは初月諒花、あなたと戦うこと。もう一つ──それは戦ってからお教えしましょう。いいですね?」


「ああ。そのもう一つの目的が気になるけど、どこからでもかかってこいよ!」

 肩にかけていたカバンを後ろに投げ置き、ファイティングポーズで右足と右手の拳を前に身構えた。



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