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第159話

 真夜中の闇に、電灯というわずかな灯りがある、潮騒が聞こえる大都市。


 風を受けながら歩道を一人の少女は歩いていた。少しかかる短い銀髪、右目に黒い眼帯。


 黒い布のコートを被った少女は同じ格好をした黒づくめの男に囲まれながら、黒塗りの車にそっと乗り込むと、どこかへ向かっていく――。


 少女は横の窓から流れゆく夜景を見る。その表情はとても悲しさに満ちている。


「諒花……」






 ――……はっ……!


 目が覚めた。そこはベッドではなく、滝沢邸の翡翠の秘密の部屋、プライベートルームだった。翡翠のレトロゲームコレクション、というか彼女が4年前に秋葉原にあった閉店してしまったレトロゲーム店、レトロディアから買い取った、引き継いだ宝が眠る部屋。


「えっと……昨日あたしどうしたんだっけ……」


 夕飯後に一人で風呂に入ってそれでどうしたか。初月花予は記憶を辿る。


「ここの風呂、とても気持ち良かったなぁ」


 辺りを見渡す。横にこの部屋の主、青山の女王が横になって布団を被り静かないびきをかいていた。黒髪で気持ちよく眠る寝顔が眠り姫のようで美しい。


「あ、そうだった」


 忘れかけていた記憶がジワジワと浮かび上がってくる。薄型の大画面のテレビで布団を被りながら、二人で遅くまで汽車で日本列島を巡ってCPU三人入れて四人で資産を競うゲームをしていた。


 翡翠は何やら急用ができたようでかなり遅れての参戦。このゲーム、CPUを途中からプレイヤーに置き換える事ができるため、翡翠はCPUと交代する形で参加した。


 最初の目的地、北海道に到着して次は沖縄を目指し到着、次に広島を目指すタイミングであったため順位は開き始めていた。が、それでも翡翠は卓越したゲームプレイでどんどん差を埋めていったのだ。


 一番弱いCPUによって大赤字状態だったのを短期で戦えるまでに立て直した。この時、花予は思った。やはりゲーム得意なんだと。


 そうして二人で汽車で日本列島を駆け回りながら、各地物件を買い占め、貧乏神やスリに遭いながらも、翡翠よりも先に東京で夢の国の購入に成功。したが直後、CPUに貧乏神をなすりつけられ夢の国があっさりと売却されてしまう。あっけなく夢がコナゴナに粉砕された所で睡魔に襲われ、意識が飛んだ。 


 昨日は朝からホテル帰りの諒花も敵に襲われて大変で、急遽この屋敷に避難してきたのもあって、この屋敷自体が人知れない楽園のようで、興奮して疲れていたのかもしれない。


「そうか……」


 やはり本当に寝落ちしてしまったようだ。テレビは真っ黒。つけてみると『はなよ』の文字が。茨城付近で青色の汽車も止まっている。翡翠がテレビを消してくれたようだ。


 窓を見ると真っ暗だった夜空がほんの少しだけ青くなっている。やがて明るくなってくる。


 壁にある時計は朝6時半になろうとしている。冬になっていくこの時期は夜が明けるのが夏に比べて格段に遅く、日が暮れるのが早い。


 さすがにベッドではなく、布団を敷いて被って変な体型で寝ていたためか、少し体が痛い。





 まだ起きるには早いので家から持ってきた荷物とかも置いてある部屋に戻って、ベッドで再度寝ようとプライベートルームを抜け出した。


 早朝の屋敷の廊下はとても静かだ。人気もないと自分以外誰もいないのではないかと思ってしまう。少し肌寒く早歩きになる。


 諒花もまだ部屋でぐっすり寝ている頃だろう。いくつもドアが並ぶ長い二階廊下を歩き、その部屋へと向かった。


 それで寝ている諒花を起こさないようにそっとドアを開けた――え?




 入ってすぐ見える、自分用のベッドとはもう一つの部屋の奥にある隣のベッドは綺麗に整えられている。そこは諒花が眠るベッドだ。


 そこにグッスリ寝ているはずの姪、亡き姉から預かった大切な娘の姿はどこにもなかった。





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