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第157話

 暗い部屋で一つの大きなモニターに映し出される、緑色の線によってきめ細かくホログラムのように描かれた首都東京の地図。


 そこから左下に拡大し、渋谷駅を中心にきめ細かな長方形や正方形の集合体たる街並みが線で描かれる。そこから少しだけ下に画面がスクロールし、無数の波紋が一つの建物を中心に発生する。


「ここか」


 モニターの前に立って腕を組んでいるのは不死王スカール。滝沢邸で用が済んだ帰り際に人狼姫と青山の妹に格の違いを見せつけ、車を飛ばしてアジトに戻ってきた後、もう一人の側近からある報告を受けてやってきた。


「追撃部隊が逃げる車の後方に発信機を撃ち込んで泳がせ、現地に偵察部隊も送り込みましたが、このホテルと見て間違いないっスねー」


 スカールに軽い口調で説明するもう一人の男。背中には黒羽の翼を生やし、わざと着崩したダークブルーのジャケットを着て真ん中を少し開けたワイシャツ、青いチェーンを首にたらし、少し目にかかる銀髪で整った顔立ち。


 男が操作するとモニターに実際の写真が映し出される。そこは恵比寿の街中にある、8階建てビルのホテル。小さいがジャグジー付きの風呂やオシャレなメニューが出てくるレストランがあるなど、設備がなかなかに良い。

 

「現地からの報告によるとグランフォール恵比寿はまさに貸し切り。逃げ伸びた生き残りが続々と集まって、風呂やメシを独占状態ですよー」


 通常ならば、短期滞在のサラリーマンや旅行客が宿泊するはずのホテルが今は反社の居城と化している。


「でかした。これを奴らの最後の晩餐にするぞ、レイヴン」


 そう呼ばれた、背中に大きな黒羽の翼を生やしたホストのような出で立ちをしたこの男。


 二次団体ワイルドコブラにも数多の異人(ゼノ)の幹部がいるように、ダークメアの本家にもトップであるスカールを補佐する幹部がいる。現在、滝沢家に滞在しているハインとともに、レイヴンは双璧を成す側近である。


 背中に生える黒羽の翼はカラス人間の異人(ゼノ)の象徴。コスプレではなく勿論本物だ。同じ鳥類由来の異人(ゼノ)、ニワトリ人間で飛べない代わりに脚の強さに特化したコカトリーニョと違い、彼は本物のカラスのように翼で自在に空を舞うことができる。


「そんじゃオレがちょっくら行って、一生帰れなくしてやるのはどうですかねぇ、親父」


 その呼び方は本当の親子でもなければ杯を交わしたわけでもない。かつて自分を打ち負かしたスカールへの忠誠と敬意を込めたもの。しかし交わしているのとほぼ同等の関係である。


 戦闘機のような速さを誇る蜂人間のビーネットと同等の飛行速度に加え、より小回りが利き、速さだけに特化せず研ぎ澄まされた飛行能力を持つレイヴン一人を出撃させれば、雑魚は彼一人で充分。兵隊を直接送り込むより上空から地上を一掃してしまうだろう。


 地上から彼を撃ち落とさんと放たれる無数の銃弾も、彼を捉えることはできない。並みのスナイパーでは彼を撃ち落とすことはできない。暗闇だろうが獲物を捉え、空中から一斉放射する雨のような攻撃で一気に殲滅してしまう。


 彼が通り過ぎた道には無数の羽がブッ刺さる血だらけかつ、大きな切り傷と身体を切断された骸が各所に転がっているという。


 そのカラスの両翼は風を起こし、羽も含めて凶器となる。

 


 それにも関わらず普段の口調はマイペースで、しかも夜遊びが好きな彼はいつしか畏怖を込めて遊鴉ゆうあという異名で呼ばれるようになった。

 

 夜中に遊び歩く人を揶揄して月夜鴉と呼ぶが、彼は空を飛び、地上にいる無抵抗な相手に無双していく様はまるで遊んでいるようにも見える。

 

 スカールの計画通り、組織内ダークメアで起こった内紛処理の最中、ワイルドコブラが起こした今回の抗争。


 度々勝手な行動に出るハインをやはり心配し、スカールが急遽前倒しで滝沢邸に単独で出張れたのも、最高幹部タランティーノに加え、更にレイヴンといった主力を内紛の対応に置いて留守を守らせていたからこそ実現できたものだ。


 この布陣に、既に本拠地を追われた内紛者というネズミどもは太刀打ちできない。


「待て。まだ行くな」


 そうスカールに止められ、すぐには動かなくなるレイヴン。待ったをかけた不死王は続ける。


「アイツ(ダーガン)の存在が気がかりだ。お前単騎で行って、もしもの事があったら困る。実力はアイツのが上だ」


「おっと、親父がそう言うなら、オレはカップ麵でも食いながらアニメ観て待ちますよ。相手は常に騒ぎを起こす天才。蘇った化蛸とサシで交えてみたいと思ってた所ですわぁ」


 化蛸は姿を自在に変えられる。それにより臨機応変にこちらを騙す。逃げにも攻撃にも使える厄介なチカラだ。


 それだけではない。かつて倒したはずの奴が生きていて、それがワイルドコブラに相談役として所属しているという気味悪さも考慮している。


 六本木の40階のビルから落ちて自力で生き延びていたとは到底思えない。なぜそれがカヴラと組んでいるのかもまだ掴めていない。


 奴の生存が判明後も探らせてはいるが、最後の拠り所であるホテルがこうして分かったのが精一杯だった。


「夜明け、総攻撃をかけるぞ。降伏勧告はしなくていい。一度本部ガサ入れした時にしているからな。気が変わって投降する奴を含め、残ってる奴は裏切り者だ。恵比寿から一歩も出さないように今のうちに準備しておけ」


「あいよっと。もしものことも考えて、タランさんに後方からの応援要請しときますー?」


「タランティーノには引き続き内紛者ネズミ駆除を頼むと伝えておけ。掃除を怠ってはプロジェクト通りにはいかない」


 元々、打倒中郷のプロジェクトの一環として、レーツァンが死ぬことで組織内の膿を出す。だから内紛を起こさせた。そういう意図だ。出すからには全て出し切らないといけない。


 誰かの資金援助によって成り立っていたとしか思えないほど設備の良いネズミどもの巨大なアジトは駆除したが、それでもまだしきれていないのが潜んでいる。奴らの存在はまさにレジスタンスだ。


 タランティーノ。千影王せんえいおうの異名を持つ三人の最高幹部最後の一人。スカール、カヴラと並ぶ実力者であるが、よほどの事がない限りは応援は呼ぶ必要はない。


「カヴラとの落とし前は俺がこの手でつける」


 そう意気込む不死王スカール。


「親父熱いですねぇ、その直接対決はオレも手を出しませんぜ」


 戦力数はこちらが圧倒的に上手だ。レイヴンが先陣を切り、一掃してなだれ込む。ただしカタギであるホテルの従業員には手を出してはならない。

 最も、ホテルが悪党の巣窟になってる時点で事前に会計しているので、とっくに逃げているだろうが。





 だが彼らはまだ真実を充分に知らない……黒闇の魔女を除いて。脱獄を企て御用となった死神によってひょんな事から一歩二歩先を行ってしまった青山の女王たちと違って。


 滅んだはずの越田組とその背後にいるカトルズの存在、そして更にカトルズの正体。


 そして、肝心のダーガンとカヴラの明日の目論見を────。


 


 


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