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第154話

 Mr.カトルズ。


 その名前と越田組の存在は広く知られていない。後者に至ってはもうとっくに滅んだ過去の存在として認識されている。


 だが一度死んだ看板を掲げて蘇ったそれは、裏社会という世界のさらなる闇に潜む脅威と言っても過言ではない。


 真夜中。渋谷の恵比寿のホテル、グランフォール恵比寿にカトルズの走狗となった者達が集まる。


 ワイルドコブラ本部や各地を追われた者達。スカール率いる本家に襲われて逃げてきたカヴラ一派、ワイルドコブラの残党達が黒塗りの車を真夜中に飛ばして街中にある一つの貸し切りされたホテルのビルに集う。

 8階建ての最上階の部屋の豪華なソファーに座ってテーブルを挟んで向かい合う二人の影。


 一人はオレンジ上着に緑色の立った髪、長く細い舌を出し、二本の牙を生やしている。額が丸い盾のような被り物をし、大きい蛇のような顔をした高身長で筋骨隆々の大男。


 蛇拳王じゃけんおうカヴラ。今のダークメアの要である三人の最高幹部の一人である。

 その巨体から繰り出す蛇人間の能力チカラと格闘術で、コカトリーニョをはじめとしたワイルドな異人ゼノ達に慕われた男。なのだが。


「なあ、越田組の到着までオレはどうすればいい?」


 既にワイルドコブラ本部はとうに陥落し、そこにいた者は降伏。参加していた四人の幹部も初月諒花らに敗北し捕縛。カトルズのカネで予め貸し切っていたこのホテルが最後の拠点である。


「さすがにもういいだろ! コカもレカも、ビーネもスコルも全員やられちまった。初月諒花に! オレがこの手で……!」

 苛立ちを隠せない。拳を椅子の肘掛けに叩きつける。


「まあまあ落ち着けよ、カヴラさん。明日、おれの指示通りに暴れてくれていいですから。シュウシュウ……」


 そう宥めるのは彼と向き合う一人の影。巨漢のカヴラと対照的に普通の体型。彼こそが化蛸の異名で呼ばれるダーガンその人だ。黒いモーフに身を包み、体を温めると同時に姿を隠している。


 姿を変えられる彼にとっては一瞬でアバターを変えるようなもので、その本来の顔は敵に知られても、化けて人混みに入れば見つけようがない。


 モーフを被って見える化けていない本来の顔は、肉を噛み砕き生き血を啜るギザギザの牙に蛸の触角、黄緑色がかった蛸の目の形を彷彿とさせる目元が黒い異形な瞳、悪魔のように尖った鼻、大きな額には真ん中に向けて伸びる縞々のタトゥー、極めつけはうっすらと青白い灰色の肌。


 その素顔は普通の人間には程遠い。本来の姿に戻る際、親しい人間が肌も目の形も常人からかけ離れた化蛸に変化していく様は見る者を震え上がらせる。


「オレはよ、あんたや越田組との契約だから従ってる。けどよ、この戦況だ、痺れを切らしちまうぜ。シャーッ……」


 蛇らしく巻き舌を立てながらそう語るカヴラ。本来の蛇拳王とは知略とは無縁で危険を顧みず、勇敢に突っ込んでいく戦法を好む武闘派、更にはパワフルな肉体派であり、文字通り犯罪組織ダークメアの剛を担う者。


 しかし今は化蛸ダーガン、そして背後にいるカトルズに手綱を握られている獣に等しい。


「シュウシュウ……おれのコンサルティングに黙って任せておけばいいんだカヴラさん。あんたには既に億単位のカネを出資してるんだから……」


「それに無事に関西に逃げ帰れば、上乗せして更にそれ以上のカネがもらえるんだから……それまでの辛抱だ」




 そもそも、今回の滝沢家との抗争の始まりはカヴラがスカールと喧嘩したからではない。もっと前から原因は始まっていた。


 2016年に滅んだ岩龍会。関東最大組織の座をそこからとって代わったダークメアはレーツァンが総帥となって独自の活動が顕著に、ナンバー2のスカールが最高幹部の肩書きそのままに事実上のトップとして仕切る体制となっていった。

 

 が、スカールの采配は決してカヴラの理想通りにはいかなかった。


 この裏社会でしか気持ちよく生きられない異形で屈強な異人ゼノ達。虫や獣、爬虫類、鳥類、魚介類など数多の動物に由来のチカラを持つ化け物と呼ばれる者ども。


 この首都東京の地下に岩龍会時代から秘密に作られたいくつもの闘技場リングの上で、筋骨隆々な体と怪物的な強さで尊敬と憧れを集め、同時にダークメアという王国キングダムを大きくしたい、繁栄させたい欲と野望を持っていた蛇拳王カヴラはスカールに不信感を前々から抱いていた。


 せっかくそれまで関東で天下を握っていた岩龍会の土地や兵力や資源を手に入れて勢力も急拡大したのに、勢いに乗じて支配領域である東京23区から外へ大規模に侵攻して勢力を拡大する様子もない。それさえ可能なはずなのに。


 23区内にもダークメアと敵対する対抗勢力があり、睨み合いや交戦を繰り返しているがそれらも一向に解決しない。

 ついでに本拠地を置く港区から近い渋谷区や広大な世田谷区などでの活動は手薄。渋谷区に至っては世田谷区以下で活動もしてないも同然。


 ────結局は港区をメインにした勢力の地盤固めだけ。


 まるで何かの襲撃に備えるかのように慎重だ。悪く言えば度胸なし。邪魔するヤツはもっと数と拳でねじ伏せればいいだろうに。カネだってある。それができるはずなのに。




 そんな不満を内心と苛立ちを抱く中、総帥であるレーツァンが初月諒花に敗れた。


 するとスカールは唐突に打倒中郷のプロジェクトと言い出した。


 このプロジェクトのミーティングはそれ以前から行われていて風邪や関西への商談、つまり越田組に会いに行っていることを理由に欠席したので非があるのはこちらかもしれない。


 しかし、ここで唐突にそれをお出しされた事にどうしても納得がいかなかった。


 中郷を倒す前に内紛を起こさせて組織内ダークメアの膿を出すために一度崩す? 冗談じゃない。


 ――膿だろうとなんだろうと、力と権力で従わせればいいだけだろう!!?


 なので腹いせに初月諒花を倒すとスカールに宣言した蛇拳王。


 だがこの時、彼は既に裏で蛸やカトルズの傀儡、お飾りへと成り下がっていた。


 プロジェクトのミーティングより前、スカールに不満を抱くカヴラの前にこっそりと一人の男が現れた。



 それが、今彼の目の前に座っている化蛸である────。





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