第151話
「ご苦労だったわね、あんた達」
尋問が終わり、再び監獄にブチ込まれたワイルドコブラの幹部達。黒闇の魔女ハインが両手を腰に当てて歩いてきてそう言った。
「ちゃんと情報を話してくれた事に免じて、約束通り処分が軽くなるように私の方からスカールに掛け合ってみるわ」
「感謝……します……ハインさん」
「オレ達、復帰できるゴスか……!」
ビーネットとスコルビオン。特にビーネットは樫木に利用された挙句、殴る蹴るの暴行を受けて体が堪えており、スコルビオンも尋問で疲れてぐったりしつつも、樫木脱獄前に落ちてきたバーガーを空腹に耐えられずムシャムシャ食べている。
「知ってることは全部話したコケ!」
「……結局、我々及びその他大勢は相談役に利用されていたようなもの」
弁当を頬張るコカトリーニョとレカドールも尋問によって疲れ気味だ。空腹が近づく中で樫木の脱獄計画に賛同した結果がこれだ。
尋問は一人ずつ個室に連れて行かれ、幹部達はハインがスカールへ処遇について話をつける事を条件に、正直に答えたためにすぐ終わった。
が、狭い部屋で本家の幹部と青山の女王の二人がかりの尋問による圧は精神的にダメージを与えた。
ハインは実質本家を仕切るスカールの右腕的存在であり、その実力は二次団体の幹部に名を連ねていても底しれない。逆らって良い相手ではない。
「レカドールが一番詳しかったから話してくれたけれども、早い話がカヴラがダーガンを越田組から連れてきて、そのダーガンがカヴラに代わり指揮を執って実質ワイルドコブラを掌握、好き勝手して今に至るということがよーーく分かったわ」
「言っちゃうとそうだコケ! なんだか話してたらカヴラさんの褒美とかもホントにあったか疑いたくなる。元はと言えばあの相談役が言ってた事だからな……」
「越田組とダーガンは、たぶんあなた達の事なんか捨て駒同然でしょうね」
夜遅く、滝沢邸で行われた青山の女王翡翠とハインによって行われた緊急尋問。
きっかけは樫木麻彩が脱獄しようとした事に加え、脱獄前に樫木がワイルドコブラの幹部達と話していた内容をハインが盗み聞きし、その内容が翡翠の知る所となったからだ。
その内容が事実かを確かめるべく、一人ひとりを拘束して狭い個室に連れて行って吐かせた。
訊いた事は単純だ。一つは相談役である化蛸のダーガンについて。
カヴラに任せられ、ワイルドコブラを掌握している。そして彼に仕事を任せたカヴラは裏で何をしようとしているのか分からない。
翡翠はある違和感を抱いた。ダークメア三人の最高幹部で生粋の武闘派であり、知より剛、即ち脳筋な彼が奥に引っ込んでここまで何もしてないことだ。
最後にスカールが彼と話した時に初月諒花をぶちのめすと言っていたという。それならばなぜ今まで大将が真っ先に諒花に手を出して来なかったのか。
初月諒花はレーツァンに奇跡的に勝てたとはいえ、実力は稀異人にはまだ及ばない。カヴラ自ら出ていけばすぐに終わる。
それなのになぜ、わざわざ部下任せにする必要があったのか。なぜ自分から出てこないのか。
そしてもう一つ訊いた事は越田組についてだ。
ダーガンのバックであり、それまで死んだと思われたはずの彼はそこからやってきた。まるで黄泉の国から現れたように。なぜカヴラと繋がったのかはまだ謎。
カヴラは風邪の他に関西に商談に行く事を理由にスカールのプロジェクトに関する話し合いの招集に応じなかったが、かつて滅んだはずの越田組の残党がまだ生きていて今は関西に活動拠点を移して暗躍しているからなのか?
――――と、青山の女王は考えていたのだが。
それはこの後、尋問の中で大きくひっくり返ることになる。幹部を取り調べた後は最後の一人。そう、脱獄しようとした彼だ。
そこから見えたのは果てしなく強大で深淵なる闇の底。
蛸は擬態が得意だが、これは所属組織もある意味同じかもしれない。




