表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/172

第144話

「転売ヤーは飲食店の景品さえ手に入れば食べ物も平気で粗末にするので私も嫌いです。自分勝手で哀れな方達です」


 そう語る青山の女王。翡翠、そして紫水の過去は分からない。だが、滝沢家として裏社会で頭角を現す前から色々と苦労があったのだろう。凄く恵まれているのに自然を愛し、環境問題や食品ロスにも目を向けるその熱は並々ならぬものだ。


「集団で買い占めって……そうなったらもう買えないよね、諒花」

「そうだなあ……紫水」


 互いに顔を見合う。仮にやるなら、もう徹夜するかチームでも組んで作戦を立てないと無理だろう。組織ぐるみの転売の他にも、純粋に紫水のようにそれが欲しい人との激しい争奪戦になりかねない。最も、その組織ぐるみで転売がドン引きなのだが。


「我が滝沢家では転売ヤーは減らせなくてもフードロスは減らそうとしていて、近隣のコンビニの売れ残りなどを可能な限り引き取って、裏社会で食にありつけない人達に寄付したり、投獄中の囚人に出したり、植物の肥料に使ったりして、せめてこの青山だけでも削減に努めてますけどね」


 裏社会は異人ゼノ異能武器ゼオプロなど異能が溢れていて危険な世界だ。しかし。


「裏社会って物騒なイメージあるけど、翡翠見てると表とはまた違う世界に見えてくるな」


 物騒なだけではない。翡翠やフォルテシアのような正義もある。


「実際、その通り、表とは違う形で成り立ってる世界ですよ。表社会では異能はないものとして認識されてますからね。その逆をいってます」


「裏社会って呼び方はある種の偏見でもあります。光か闇で定義して分かりやすく生まれたもの」


 どちらが自分の住む世界なのかは人によって変わってくるのかもしれない。異人ゼノじゃないゆえにメディカルチェックに合格できた人は普通にスポーツをしているし、こんな裏社会の事なんか知らないだろうから。


 翡翠の慈善事業はもはや裏社会というもう一つの世界における紛れもない善行。よくホームレスが毛布に包まれたり段ボールの上で渋谷の橋の下などにタムロしているが、助かるに違いない。 


 それらもなりたくてなったわけではないのは、自分に通ずる事でもある。


「翡翠姉ー、転売ヤーって次から次へと出てくるけど、ダークメアの系列ってことはないよね?」


 もしあのスカールが転売を組織ぐるみでしてたら最悪だ、と考えてたら翡翠の言葉。


「スカールさん達は地下闘技場の興行やカジノとか、裏社会で築き上げた自分達の王国でお金も沢山ありますからね。転売しなくてもお金はあるでしょう。しかしこの関東では彼らの統制がきかない、ダークメアの看板を傘にした底辺の人間やそれに属さない人間が稼ぐ手段として手を染めている印象です」


 紫水、きっとトレーニングや戦いの合間に転売ヤーに苦労してきて翡翠に何度も相談してるのだろう。


 そして翡翠の口からさりげなく出たダークメアの作り上げた王国という言葉。あの不死身のスカールが率いているのならばその強大さは納得だ。

 紫水が言ってた偽装屋といい、やはり裏社会についてまだまだ知らない事が多い。闘技場は零がいてくれた時にチラッと聞いた事はあるが、スカールやフォルテシアのような強すぎる相手を見たら自分の甘さを痛感せざるを得ない。


 あと、コレは私の見解ですがと翡翠は続ける。


「転売ヤーはそもそも異能すら知らないような、ただお金しか興味がない俗物が大半だと私は考えます。大量購入できるだけのお金とアプリ使えるスマホさえあれば子供や学生でもできますし、ネットを介して転売を目論むコミュニティにも容易に入れますからね」


「裏社会でも転売ビジネスで成功した組織は過去にいましたが、どれだけ暴れても、また第二第三の徒党を組んだ勢力が生まれても、所詮その程度のせこい手段でしか稼げない小物にすぎません」


 ナイフや拳銃、もしくは異能武器(ゼオプロ)を手にした一般人と同じ理屈だろう。必要な道具を持てば誰でもなれるという意味で。



 ここで花予も鶏の唐揚げを食べながら話に入る。


「転売ヤーか……昔はレトロゲームも狙われたけど最近は新しいゲーム機や周辺機器ばかり狙われてる気がするね。でもいざという時に欲しいものが見つからなくて、高額転売されてるとムカッとくるなあ」


 花予もレトロゲームのコントローラーが修理不可能レベルまで壊れるとさすがに買い換えるのだが、やっと見つけたそのコントローラーが本来の三倍価格で売られてるのを見て発狂していた記憶がある。


「私もです花予さん。道具はちゃんと使いませんとね」


 翡翠はお金があるので高額転売されてても買えそうだがやはり気にするのだろう。すると翡翠は妹の方を見る。


「紫水ちゃん、今回の戦いが終わったらハムちゃんキーホルダー、転売ヤーに甘い思いさせないで私が手に入れてみせますからね」


「本当!? 翡翠姉、偽物とかは嫌だよ?」


 紫水は姉の言葉に凄く嬉しそうな子供のような顔をしていた。


「大丈夫ですよ。ちゃんと本物を手に入れます」


 翡翠は妹思いだ。現に地下にジム顔負けのリングやトレーニングマシンなどを置いた妹のためのジム顔負けの部屋を作ってしまうほどだ。先月19日も、そのリングで待っていた紫水と訳ありで拳を交えた。


 そう考えるときっと翡翠の行動力や政治力、恐ろしさは凄まじいだろう。転売ヤーからすれば。


 だが翡翠が良い事を言っている中、身を乗り出して危機感を持ち、必死に食いついたのは花予。


「ちょっと翡翠ちゃん、サラッと死亡フラグみたいなこと言わないでよ!! 絶対、あたし遺して死んだりしないでね!? せっかく会えたんだから!!」


「ハナ。翡翠は凄く強いから大丈夫だって」


 そう言っても花予が落ち着かないのも無理もない。翡翠が戦う姿を見たことがないのだから。


 ふふっ、とその様を見て翡翠は平然と笑い、


「私は死ぬつもりはありませんからご安心下さい、花予さん。勉強や追試とかで大変な中、頑張ってくれた妹のためですから」


 そんなわけで騒がしくも楽しい夕飯の時は過ぎていった。



  食事をするのは初月諒花達だけではない。


 レカドール戦の爪痕が残る死屍累々な滝沢組事務所の後処理を部下達に任せ、屋敷の別部屋でお台場に送り込んだ零捜索隊と通話してデスクワークしてるシンドロームとマンティス勝も、ポテトや唐揚げなどバイキングの美味しいメニューのいくらかを摘んでいるが、あともう一組。



 売れ残りコンビニ弁当に加え、今回はハロウィンに転売ヤーに買われて開封されず捨てられ、滝沢家に救われたジョイセットのバーガーやポテト達。

 それらがベルトコンベアーで運ばれ、天井が開いて落ちてくる形で、やや遅めの夕飯として提供される、監獄に閉じ込められし彼らである――。


読んで頂きありがとうございました!ちょっと時事ネタパロディを含んだ転売ヤー前編後編でした。

次回はそんな残飯が運ばれていく監獄に再び戻りますw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ