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転生者の贖罪  作者: 七篠
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お父さんと呼ばれる価値

 訓練後の夜。俺はタマに呼び出されていた。


「昼のお父さん呼びって結局何なの?」


 ……何かしょうもない事を真剣に聞かれてるな。

 呼び出されたのはタマの仕事部屋のようなところであり、ベッドなどもあるが人の部屋という感じはあまりしない。

 仕事部屋と自室がごっちゃになったような雰囲気があるのであまり私物は置いていないのかもしれない。

 私物っぽいのは教科書や医療関係の本。何度も読み直したのか汚れたり癖がついている。


「いや~何と言いますか、昨日の夜に俺が会長にとっての理想のお父さん像と言われまして……そのまま好きに呼べばいいと言ったらお父さんになりまして」

「嫌じゃない?年上からお父さん呼びされるの?」

「まぁ前世の頃から数えればとっくの昔に大人何で、とくには」


 そう伝えるがタマは何か呆れたような雰囲気で手を顎に当てる。


「それ、どれだけの価値があるのか全く分かってないみたいね……」

「価値?会長からお父さんと呼ばれる事が??」

「水地涙から父親として見られているって事はその母親、水地雫の夫となる可能性が最も高い地位にいるという事。人間だけじゃなく神仏まで狙っているポジションよ。しかも最も難しい外堀である娘の涙に認められるってこの事を他の連中に知られたら絶対ちょっかい出されるわよ」

「ちょっかいですか」

「ええ。その神の使いが様子見してくる程度ならまだいいけど、下手すれば直接戦闘能力を確かめに来たり、何かしらの試練を与えてくる可能性だってあり得る。物によっては死にかけるかもしれないわよ」

「そういうちょっかいならもうすでに出されているんですけど……」

「ちょっと待って。もう既に出されてるって何?」


 前のめりになりながら聞いてくるので俺は少しうろたえながらも言う。


「いや、ドクターストップかけられる前後くらいに妙な視線をずっと感じてたんですよ。なんだろうと思ってつーに観測してもらったら色んな所の神仏が魔法やら何やらを使って俺の事を監視していたみたいなので、もうすでにちょっかいを出されていると言ってもいいのかな~っと思って」

「それもっと前に言ってほしかったわね……」

「おそらくグレモリーに占ってもらった事がどこからか流れたんでしょう。あるいはグレモリー自身が情報を流したか。多分後者でしょうね」

「……その根拠は」

「悪魔グレモリーの当主は実力があればありとあらゆる未来視を依頼される立場にあります。その中には世界規模の災害、厄災が起きる前兆が観測された場合各神話に通達する義務があったはずです。俺と聖書の神が戦うと言う、正確に言うと聖書の神が復活すると言う情報は文字通り世界を揺るがす大事件の前兆です。それを観測する事が出来たのだから様々な陣営に情報を流すのは仕方ないでしょうね」


 確かグレモリーの当主にはそんな契約があったはずだよな~っと思い出しながら言う。

 もちろんこの契約はあくまでも契約している間だけに情報を流しているだろうが、それでも一つの事象に大してその正確性を高めるために自身が所属する神話体系内の占い師などにも確認を取るだろう。

 グレモリーに依頼するのもその確認作業と情報の正確性を高めるための行為と言うべきだ。

 おそらくとっくの昔に他の占い師たちもミルディン・グレモリーが見た占い結果が同じかどうか、確かめているだろう。

 その結果までは分からないが、それをきっかけに俺がどんな人物なのか確認すると言う意味でも見張っているのかもしれない。


「…………そんな所まで予想していたのね」

「予想と言うかなんというか、最低でも魔王には情報を共有される可能性は考えていましたから。でも聖書の神が復活すると言う情報は各神話にとって重大な情報でしょうから共有されることはほぼ間違いないと思っていましたから」

「……はぁ。おそらくその通りでしょうね。ミルディン・グレモリーが占った結果あなたと聖書の神が戦う所までは確定。その後他の神仏が介入できるのか、それともできないのかは確かめる必要があるわね」

「ええ。俺も一人じゃ多分倒せないんでご協力していただけるのであれば助かります」

「前に一人で倒したいって言ってなかった?」

「ええ。倒したいですよ。だから俺が負けて死んだ後にお任せしようと思います」


 あいつを殺す事だけは俺がやらないといけない。

 それは意地でもあるし、責任感からくるものでもある。

 今度こそ、二度と復活できないほどに殺し尽くしてやる。


「後に任せるって勝つつもりなの?あのチート神のこと知ってるんでしょ?それなのに勝つって……」

「こればっかりは俺の意地なんで、どれだけ止められたって辞める気はありませんよ」

「それはもう十分わかってるから。それにしても本当にどうしてそこまでこだわるんだか。弱いのに」

「今度こそぶっ殺すために強くなろうと必死なんですよ」

「……はぁ。それで、強くなる方法に関しては何か案があるの?」

「とりあえず魔力量を増やしながら技術力を上げて……あとできれば武器が欲しいですね」

「武器を手に入れる当ては?まさか最近仲良くしてるって言う先輩に造ってもらう訳じゃないでしょうね」

「出来れば村雨の妖刀が欲しいんですけどね……」

「な!あの人の妖刀が欲しいの?あの人が作る妖刀は本当に人斬り包丁。美術的な価値ではなく人を殺すための価値で名工と言われている、本物の鍛冶師よ」

「だからこそ欲しい。俺が欲しいのは美術品じゃない。神をも殺せる武器が欲しい」


 そう言いながらタマを見るが、タマは少しだけ俺を見て肩を震わせた。

 一体その時の俺の目は一体どんな目をしていたのだか。


「まぁそんな感じで色々足りてないので2年後のクリスマスまでに強化しておきたいんですよ」

「…………それなら理事長に頼まないの?蛇」

「自滅覚悟ならそれもありですが、それは本当に最終手段として残しておきたいですね。生き残ったとしても永遠に隷属される可能性がないとは言い切れない」

「そんなことするような人じゃないのは分かってるでしょ」

「あくまでも可能性の話ですよ」


 そんな事をしない事は分かっている。

 でも俺はこれ以上あの人の世話にはなりたくない。

 いや、もうすでに世話にはなっているだろうが、おんぶにだっこと言う情けない状態にはなりたくない。


「…………改めて聞いておくけど、本当に雫と一緒になる気はないの?」

「何でそんな話になるんです?あくまでも会長が俺に言っているのはあだ名のような物だと思っているんですが」

「……涙は多分本気よ。本気で貴方を父親だと思ってる。今までは渉とかが外堀埋めようとしてお父さんって呼ばせようとしていた事もあったけど、違うと言って今も一度も呼んだことがない。それなのにあなたにはそう呼びたいって事は、もしかして雫と――」

「それはいくらなんでもあり得ませんよ。俺は理事長とそういう関係になった事なんてありませんから」


 そういう関係にならないように、突き放してきた。

 正直に言えば惚れてたさ。恋してたさ。愛してたさ。

 でも俺は自分がクズだって自覚していたから突き放し続けていた。

 まぁ全く間違いがなかったのかと聞かれれば……一回だけ間違いはあったが……

 いや、あれを間違いと言うのはあいつがマジで泣きだすな。覚えてないだろうけど。


「本当にそうなの?それじゃ何で涙はあんな本能的にあなたの事を父として慕っているの?あなたは本当に、私達の仲間じゃないの?」

「……残念ながら、前世の頃は仲間どころか敵対していましたよ。まぁ勝てない勝負をするほど自意識過剰ではなかったので逃げ回ってましたけどね」

「それなのに私達が参加した聖書の神との戦争に参加したの?」

呉越同舟ごえつどうしゅうって奴ですよ。あの戦いだけはどの神話体系も協力してあの神を袋叩きにしたじゃないですか」

「嘘をつかないで。聖書の神とは誰も戦ってない。原因不明の消滅で運良く助かった」

「運良く助かった?そんなバカな。あの神の権能は――」

「みんな知ってる。だからこそ運良く助かったなんてありえない。やっぱり……あなたが倒したの?何かを犠牲にして、あなたはあの神と相打ちになった。だから聖書の神に対して責任を感じるような――」

「どうやら話しすぎたみたいです。それに話ずれてますよ」


 これ以上俺の前世について予想されるのは色々面倒臭い。

 前世の記録が決して見つかる事はないが、それでも俺の事を調べている間に矛盾を見つけられてしまうかもしれない。

 その俺が存在したと言う矛盾が浮き彫りになったら、どうなるのか分からない。

 いい方向に進むのであれば大歓迎だが、悪い方向に進まないとは言い切れない。

 それにあのクソ神がどうしているのか分からない以上俺の事を突くのはやめて欲しい。


「でもこの話も重要で――」

「俺は俺の前世について話したくありません。これだけは話しても無駄です」


 強く拒絶すると渋々、でも納得していないと握りこぶしを固めながらタマは俺を睨む。


「なら勝手にこちらで調べさせてもらう。どれだけあなたが黙っていても必ず私達との関係について見つけ出して見せる」

「無駄ですよ。そんな事をする暇があるのなら、次世代を育ててより盤石な体制を築き上げた方がいい」


 そう言って俺は部屋を出た。

 諦めるつもりはないだろうが、どれだけ探したって俺の前世に関する情報はどこにも残っていない。

 俺の記憶以外には。

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