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転生者の贖罪  作者: 七篠
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転生者である事をばらした

 その後会長は少しずつ細かい魔力操作が出来るようになってきた。

 と言ってもかなり集中した状態なので短いと数秒、長ければ5分くらい細かい魔力操作ができる。

 ただ戦闘で使う事はまだまだ出来そうにはないのでこれからも修行を続けていくしかない。


 そして俺の方が順調に最大魔力が上がり、使える魔法の種類も少しだけ増えた。

 中級魔法なら50発くらい撃てるし、上位魔法なら10発撃てる。

 最初の底辺レベルから見れば大したものだが、ぶっちゃけこれにはからくりがある。その魔法を必要最低の分だけで使える魔力量に調整して撃てるのが今言った数字。

 魔力量を調整せず普通に使うのなら中級魔法25発、上級魔法1発が限界。と言ってもそれはその後の活動出来る事を前提とした数なので、その後の活動を考えなければもうちょい撃てる。

 それでも上級魔法は2発が限界だが。


 魔力量が絶対と言う訳ではないが、それでも強さの基準の1つではあるのでどうにかもっと魔力量を底上げしたい。

 でも修行中以外に魔力量を上げる訓練をすると、すぐにタマが飛んできてハリセンで頭を叩かれる。

 修行時間以外は回復にいそしめ、だそうだ。


 それから今も会長に魔力操作を体に叩きこんでいる。

 少しずつ細かい魔力操作が出来るようになり、実感があるからか毎晩頼んでくるようになった。

 最初はくすぐったさやいろいろ苦労していたが、今では特にそう言う事はない。ただ風呂上がりのような心地よさと発汗だけは今も起こる。

 そして今日の分も終わると会長はタオルで汗を拭きながら言う。


「今日もありがとうございました」

「いえいえ、別に大した事ではありませんから」


 今日の分はこれで終わりと思っていると会長はカバンから缶ジュースを取り出した。


「これどうぞ。お世話になっているお礼です」

「ありがとうございます」


 ジュースをもらって口に付ける俺。

 その光景をなぜかじっと見る会長。

 いや、本当に何で俺の事じっと見てるの?


「どうかしました?」

「…………あの、もう少しお時間いただいてもよろしいですか?」

「どうぞ?」

「それでは少し外を歩きませんか?」

「はぁ」


 会長の意図が分からず気の抜けた返事をしながら俺達は外に出た。

 リルは俺の隣を歩き、子狐は俺達の一歩後ろを歩いて付いて来る。

 護衛と言うかお目付け役と言うか、夜の裏京都は人間にとって危険なのでそばにいるんだろう。


 修行として裏伏見稲荷にいる訳だが、一歩外に出ればそこは人間の法が通じない妖怪達。悪鬼羅刹とまではいかなかったとしても妖怪の不良に絡まれれば大怪我するかもしれないから外には出ていない。

 元々修行目的で来てたわけだし、観光するとすれば裏ではなく普通の京都で観光するべきだろう。

 そんな理由もあって夜に外を出歩いた事もない。

 それは会長も同じはずだが一体何なんだろう?

 話しにくい内容ならリルや子狐だってついてくるのを断っていただろうし、そうでないのならいったいどんな話をするつもりなんだ。


 伏見稲荷の名物と言ってもいい無数の鳥居をくぐりながら会長はようやく口を開いた。


「ここの空気、美味しいですよね」

「え、ええそうですね。やっぱり山の中ですからね?」

「それに人間が居ないから車の排気ガスとかもないのが理由でしょう。ここの空気は綺麗です」


 そう言いながら会長が見上げる空は非常に澄んでおり、星空が綺麗にはっきり見える。

 地元では地上の街灯などのせいで見えなくなっているからか珍しい光景に思える。


「……ほんの少し失礼な事を聞いてもいいですか」

「どうぞ」

「…………何故柊君は大人の雰囲気を纏っているんですか」


 …………


「私は子供の頃から母の関係で大人の人達に囲まれてきました。良い人に悪い人、無関心な人に興味を持つ人。そのせいか私の話し方も敬語が普通になってしまって、もう少し軽く話しても良いとよく言われるんですがどうしても慣れなくって結局敬語でばかり話してしまいます。そんな様々な大人たちに囲まれているから分かるんです。柊君は本当は大人、ですよね」


 確信を持って聞かれているのは分かる。

 でも俺が転生者である事までは分かっていないだろう。

 もし理事長やタマから話を聞いていれば俺が大人かどうかなんて確認するとは思えない。分かっていれば確信を持ってお前は大人だろうと言えばいいだけだ。


 さて、転生している事は……言ってもいいか。

 ぶっちゃけいつ理事長やタマから言われるか分からないし。


「まぁ……訳ありですけどね」

「訳あり?どこかの神様が私の成長のために派遣したとかじゃないんですか?」

「俺そんなすごい人に見えます?」

「違うんですか?てっきり母が私の成長のためにどこかの神話体系に依頼したのだとばかり……」

「…………あいつならしかねない雰囲気があるのはなんでだ?そこまで親ばかなところを見た訳でも何でもないのに」


 小声で愚痴った後リルが俺に向かって視線を向ける。

 もちろん内容は本当の事を話すのか。

 俺はそのつもりだと頷くとリルは言わなくてもいいのにと呆れながら求めようとはしなかった。

 なので俺は正直に言う。


「俺は転生者だ。わざとじゃないけど」

「転生者?え、あの転生者ですか?犯罪者の??」

「その転生者だよ。意図的じゃないけど」

「意図的でないのに転生する事が出来るんですか??それこそ神々の干渉がなければできない事だと思いますが」

「俺もそう思うし会長の意見が最もだ。でも俺は前世の時にどっかの神に転生を頼んだ覚えはないし、転生する準備だって出来ていたとは思えない。魂残さずきれいさっぱり消えたはずなんだけどな」

「……何で転生してるんです?」

「知りません。分かりません。出来ればちゃんと死にたかったです」


 こればっかりは本当に誰がやったのか分からない。

 と言うか消失魔法で消えたはずの俺を転生させる事なんてできるのか??

 完全に消え去ったはずなのに。


「不思議な事を言いますね。普通は死にたくないというのでは?生きててラッキーくらいの感想はあるんじゃないんですか?」

「俺の場合はないですね。むしろちゃんと死んだ方が都合よかったのに……」

「死んだ方が都合よかったってどんな悪人だったんですか」

「マジで色々やりましたからね。あっちこっちから恨み買ってましたから」


 本当はただ親しい人達から逃げていただけだが。


「…………一応今の話が嘘ではない事は分かりました。それではなぜ私の事を気にかけるんですか?」

「それは……」

「やはりウロボロスの娘、だからですか」


 核心と諦めの混ざった言い方。そして見た事のある何の感情もない表情。

 こう言う所は母親そっくりだ。


「…………確かに。一番の理由はそれでしょうね」


 正直に言うと会長の目から感情が消える。

 やっぱりか、それしかないんだという感じの諦め。

 強すぎる母親の娘だから特別扱いを受けていると感じている。

 でも俺の理由はそれじゃない。


「でも無限の力が目的じゃありません。ただ単に水地雫の娘だから守るべきだと思っています」

「…………変わらないでしょう」

「違います。前世の頃俺は水地雫に恩があります。恩のある相手の娘だから守りたいし、傷付けたくないんです。もう少しうまい言い方があるんだと思いますけど、すみません。あまりこういう事を伝えるのは得意じゃなくって……」


 もう少しいい言い方があるはずだが思いつかない……

 昔からそのせいでダチには誤解されていると言われてたな。

 でも会長は少しだけ俺の話に耳を傾けてくれた。


「水地雫の娘だから?私もウロボロスだからじゃなくて?」

「その辺りはあまり気にしてませんよ。ウロボロスだろうが普通の人間だろうが、理事長の娘だから無条件に守らないといけないって思うんです。例えるなら……」

「例えるなら?」

「……いややっぱりこの表現は失礼ですね。えっと……」

「正直に教えてください。いったいどんな風に私の事を見ているんですか」


 強い視線で正直な答え以外認めないと睨み付けられる。

 そんなに気になる事だろうかと思いながら、渋々口を開く。


「その、娘みたいな感じで見てました……」


 娘。

 これはただの妄想だ。本当に頭の中だけにしか存在できない空想。

 もしも俺とあいつの間に子供がいて、もしも娘だったら……なんて妄想してしまう。


 俺は自分からそういった未来を捨てたのに捨てきれないそんな妄想。

 俺とあいつの子供……


 ほんの一瞬だけそんな事を考えていると、会長は目を大きく見開いた。

 そりゃ年下の、転生者とは言え後輩として見ていた男子にそんな事を言われれば驚くだろう。

 でも会長から出てきた言葉は意外だった。


「…………それなら、お互いに呼び捨てで話してみませんか」

「え?何でです??」

「……親子ごっこ、とでも言いましょうか。試しに呼び捨てで私の名前を呼んでみてください」

「えっと……涙?」


 つい疑問形で言ってしまうと、会長は本当に、本当に不思議そうな顔をしていた。

 初めて呼ばれたのにそう感じない。妙にしっくりくる。何故かそう呼ばれても全く嫌じゃない。

 そんな感情を読み解くと会長は言う。


「あなたには、そう呼んで欲しいです。それからこれからはため口でお願いします」

「え?これから??」

「はい。これからずっと、柊君は私のお父さん役として呼び捨てで話してもらいます」

「いや、え??何でそんな話になるんです??」

「呼び捨て」

「いやだから」

「呼び捨て」


 何故か強い口調でそう命令される。

 俺はため息をついてから諦めて言う。


「何で俺が父親役なんだよ」

「本当は私、お父さんに憧れてたの。他の子達がお父さんとお母さんの間で手を握ってもらいながら買い物している光景が羨ましかった。渉さんとか遥さんがお父さん役をしてくれたこともあったけど、何かが違うと思って結局やめてもらった。でも柊君からは私の理想のお父さん像と言うか、もの凄くしっくりきたの。私にとっての理想のお父さん像はこの人だって」

「…………」

「だからこれからはお父さんとして私の事鍛えてくれない?お父さんなら私の事もっと強くしてくれそうな気がする」


 …………何で、何でそんな残酷な事が出来るんだろう。

 俺にとってこの光景は、捨てたはずの光景だ。

 誰かが見るはずの物で、俺でない誰かとの関係でこうなるとしか思っていなかった。

 なのに何でこの子は――


「お父さん?何で泣いてるの?」

「え?」


 言われてから目元を手で触れて気が付いた。

 確かに俺は泣いていた。

 ぼたぼたと、歓喜の涙を流していた。


「ああ、これは気にするな。大した事じゃない」

「もしかしてやっぱり嫌だった?」

「そんな訳ない。お前がそれを望むのならそれでいい」

「本当?それじゃ私の事鍛えてくれる?」

「それは今はダメだ」

「何で?」

「今俺達はタマに鍛えてもらってる状態だ。ここからさらに俺の訓練も一緒にやるのは流石に無理だ。お前のための訓練メニューもまだ考えてないし、修行が終わったら鍛えてやる。これでもいいか?」

「分かった。約束ね」


 そう言いながら涙は俺に小指を突き出した。

 すぐに意図をくみ取り俺も小指を出す。

 涙はお互いの小指を絡ませて歌う。


「ゆ~び切りげんまん、嘘ついたら針千本の~ます。指切った!」


 あまりにも子供っぽ過ぎる約束。

 でもこれがこの子が子供の頃出来なかった事で、今したいと言うのであれば、これくらい叶えてもいいだろう。


「約束だよ。お父さん」

「分かったよ、涙」


 満面の笑みの涙を見て心の底から思った。

 本当に俺は、愚かな事したんだな。

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