会長に魔力操作指導
修行が始まり3日目、少しずつ修行内容が調整され俺と会長はほぼ別々の修行をしている。
会長の場合は基礎体力の向上やオーラのコントロール。俺の場合はオーラや魔力量の上昇を目的とした修行内容に変わった。
俺の方は今まで無理矢理強化しようとしていた事を安全性第一で行うようになった感じなので特に苦労していないが、会長の方は苦労していた。
今まで意識してコントロールしようとしてこなかったのか細かい魔力コントロールが出来ておらず、めちゃくちゃ苦戦。指先にライター程度の火を灯そうとしても強すぎて火柱になったり、弱すぎて陽炎が見えるくらいでコントロールが本当に下手。
本当に今までごり押しばっかりだったんだろうなっと思う。
タマに調整してもらいながら少しずつ強くなっている……気がする。
まぁ安全第一の修行なので劇的な変化が起こる訳がない。やっぱり劇的な変化を求めるのであれば危険な事をする必要があるんだよな……
なんて思いながら今日の修行終了。
晩飯を食べてゴロゴロしながらスマホいじったり、宿題を適当に消費したり、リルとこぎつねをもふもふしたりして集中力0の状態で時間を潰している。
そうしていると俺の部屋がノックされた。
「どうぞ?」
一体誰だろうと思いながら言うが……扉が開かない。
あ、もしかして俺が開けないとダメか?そう思いながら扉を開けるとそこには会長がいた。
「会長?どうかしました??」
何で会長が来たんだろうと思いながら顔を見ると、なんだか恥ずかしそうにしていた。
俺修行中に何かしたかな……
そう思いながら言葉を待つと、会長はたどたどしい言葉遣いで言う。
「その……相談に、乗ってもらえませんか?」
「相談?ええ、いいですけど……俺の部屋でもいいですか?」
「お願いします……」
という事で会長を部屋に招き……茶も何もないな。
「えっと何か飲む物もらってきます?」
「大丈夫です……」
な、なんか気まずい……
相談の内容が分からなければ何と言えばいいのか分からないし、それ以外の話題もない。
あ~必要最低限の物しかない空間を恨む日が来るとは思ってなかった。
せめてお茶と茶菓子くらいあれば話をするきっかけくらいにはなるかもしれなかったのに!
「その、ご相談と言うのは……」
来た!
「相談は……」
「ど、どうやったら魔力操作がうまくいくでしょうか!!」
………………え、そんな事?
「えっと、それだけですか?」
「そ、それだけではダメですか!!」
「もちろんダメじゃありませんが……てっきりもっとすごい事を言われるんじゃないかと身構えていたので……」
「もっとすごい事と言っても、今の私ではそんな事が出来るレベルではありませんし……今までオーラを増幅させてぶつける事しかしてこなかったので……」
「でも何でそんな覚悟を決めたような雰囲気だったんですか?流石にそこまで恥ずかしがることでもないような……」
俺はそう聞いてみると、顔を真っ赤にしながらそっぽを向きながら小さな声で言った。
「だって……後輩に基礎を押してもらうって、なんか恥ずかしいじゃないですか」
なるほど。
プライドの問題だったか。
「分かりました。でも俺に教わるのが恥ずかしいなら、タマ先生に頼む方が良かったのでは?」
「それも考えましたが……色々私達のために修行内容の修正をしているところに声をかけるのはちょっと気が引いたので……」
「なるほど、色々納得しました。まぁ基礎中の基礎なので俺でも教えられる事ですが、いくつかプランがあります」
「急に相談したのにいくつもプランが思いつくものなんですか?」
「思いつくと言っても1つは今している修行内容と同じ物です。もう1つは少し恥ずかしいけど劇的に変わる修行内容です。どうします?」
「は、恥ずかしいとは具体的にどれくらいですか?」
少し緊張気味に、いやこれは変な事をされるんじゃないか警戒しているって言った方が正しいか。
まぁ見方によっては確かに変な事と判断されてもおかしくないんだよな。
「俺が会長に密着してオーラを廻してコントロールする感覚を直接体に叩きこみます」
「密着……それってどの程度ですか?」
「まぁ……俺なら手と手をつなぐくらいでできますね」
そう言うと会長はずっこけた。
「それ密着って言います?」
「最低それくらいは必要ってだけで密度が高くなればその分効率は良くなりますよ例えば……後ろから抱きしめるとか、抱っこするとか」
「それは服越しでも大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。まぁ直接肌と肌が接触する方が効率が良いのは確かですが、そこまでするつもりはないんで」
俺がそう正直に言うと会長は真剣に悩み始めた。
ぶっちゃけ魔力操作に長けた人がやれば同じ効果が得られるし、異性である俺ではなく同性であるタマに頼む方がいい。
その方が安心できるだろうし、変に緊張する事もないだろう。
そう思って返事を待っていると、意外な事を言った。
「……手」
「手?」
「手を握ってできるのであれば、お願いします」
「…………分かった」
つい動揺して素の話し方をしてしまったが、手を握るだけなら大丈夫か?
昔は手を握るくらい男女でもそんな緊張するほどでは…………いや、異性同士になると結構仲良くないとやらなかったな。
でもセクハラになるほどではないだろ。
何だっけ?恋人つなぎ?だっけ??指を指の間に入れるような握り方じゃなくて、普通の握手だから問題ないよな。
で、普通に握手したが……会長本当に大丈夫か?手を握っただけで顔真っ赤なんだけど。
これ大丈夫なんだよな?っと思いながらリルと子狐を見るが、リルはこの程度問題ないでしょっと言い、子狐はよく分かんないと首をかしげる。
まぁこの程度なら問題ないと俺も思うが、顔真っ赤だとセクハラしているような気分になってやり辛いんだよな……
でもまぁ握ってもらったし、さっさとやるかと思い会長の魔力を廻す。
「っ!?」
何故か魔力を廻されるとビクンと大きく反応する会長。
何かしくじったかと思い聞く。
「何か違和感ありました?」
「い、いえ。何と言うか、くすぐったい感じが全身を襲うというか、痒いというか」
「あ~。それ今まで細かい魔力制御をしてこなかった人の特徴です。人体で例えると今回初めて毛細血管の隅々まで魔力が巡っている感じなので、それで普段感じない感覚に襲われているんだと思います。これを続けて行けば少しずつ自分でもコントロールする事が出来てくるはずなので、この感覚を覚えていてください」
「……自分でコントロールするときもこのくすぐったさは現れるんですか?」
「自分でコントロールするときは出てきませんよ。あくまでも他の人に自分の魔力を強制的に回されているから起こる感覚ですので、自分で回した場合は起きません」
「それは良かったです」
とりあえずお試しで10分くらいで終了させる。
辞めると会長は息を荒げながら上半身を両手で支える。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。少し、サウナ後のような感じがしますが」
肌は赤くなり、汗もかいているので確かにそんな風に見える。
こんな時に水食らい出せたらいいのだが……コップとかないので空中に水を出して直接飲んでもらうしかない。
「すみません。コップがないので直接飲んでもらうしかありませんが……」
「十分です。ありがとうございます……」
そう言って浮かぶ水の玉に直接口を付けて飲む会長。
これ他の男子生徒が見たらエロいって言いそうだな……
上気して赤くなった肌、はだけた浴衣が汗でくっつき、目元が蕩けている。
見ようと思えば胸見えるな。見ないけど。
「…………はぁ。ありがとうございます」
「良かったです。あと服なおした方がいいですよ」
俺がそう指摘すると会長は今の自分の姿を確認して、恥ずかしがりながら浴衣を直した。
「……見ました?」
「見ませんよ。これでも一応紳士なんでそう言う事は口説き落とした相手にしかしません」
「私を口説き落とそうとはしないんですか?」
「理事長の世話になっているのにそんな裏切るような事しませんよ。あとが怖すぎる」
少し大袈裟に言うと会長はくすくすと笑った。
そしてふと思い出したように言う。
「ちなみに今のは一回で十分なんですか?」
「う~ん。こればっかりは個人の感覚、才能次第ですかね。才能があれば今ので十分でしょうし、才能がないなら何度か繰り返して体で覚える方がいいかと」
「そうですか。それじゃ明日もお願いします」
「え」
俺は意外な言葉に驚いた。
いくら後輩とはいえ男に触れられるのは嫌がるとばかり思っていたからだ。
そんな俺に会長は不満そうに言う。
「もうしたくないですか?他にご予定があるのであれば無理には言いませんが」
「いえ、そういう事ではなく、嫌じゃないんですか?男に触れられるの?」
「……そうですね。他の男性だったら嫌だったかもしれませんが、あなたなら問題ありません。これからもお願いしてもよろしいですか?」
「……本当に、嫌じゃないのなら」
「それでは明日もよろしくお願いします。このお礼は合宿が終わった後でもよろしいでしょうか?」
「別にお礼なんて――」
「それでは、失礼します」
お礼なんていらないと言う前に会長は去ってしまった。
一体快調などんなつもりで俺に頼んでいるのだろうと思っていると、リルは何故か尻尾を振って面白い物を見たという感じで楽しそうにしている。
子狐の方はよく分からず首をかしげていた。




