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転生者の贖罪  作者: 七篠
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修行開始

 朝5時。

 早朝の修行という事で座禅。

 と言っても普通に座禅をするのではなく魔力の循環を一定の速度で行う修行。


「これは基礎中の基礎だから無理のない範囲内で出来るだけ速く廻す事。こちらの指定した速度以上、速度以下になったら叩くからね」

「…………」


 隣にいる会長は座布団の上であぐらをかき、集中して行う。

 一方俺は指定された速度を保ったまま半分眠気に負けて舟を漕いでいた。

 あぐらの中にはリルと子狐がおり、2匹は丸くなって仲良く寝ている。


「…………」


 真面目にやっていないと思われているのか、会長からチラチラ見られた。

 ちなみにタマからも視線は冷たかったが一応やるべきことはやっているので叩きたいけど叩けない、みたいな葛藤をしていた。


 朝6時。

 朝の修行という事で伏見稲荷の山をランニング。

 ペースメーカーは子狐達であり子狐達から5メートル離れたらアウトという事になっている。

 ちなみに身体能力強化系の魔法やオーラの使用は禁止であり、普通にキツイ。


「はぁ……はぁ……」


 ちなみに会長は俺より後ろを走っており、ギリギリ5メートル圏内ってあ。アウト判定食らった。

 会長はアウトになったが俺はギリギリ頂上までペースを守って登頂する事が出来た。


 朝7時。

 朝食。

 朝から精進料理と言うのは体によさそうだけど、あんまり腹に溜まらなそうだな~っと思いながら食べる。


「最低3食分食べないと商業に必要なエネルギーを得られないからしっかり食べなさい」


 タマの言葉に俺は腹いっぱい食べる事が出来た。

 しかし会長はランニングのダメージがまだまだあるからか、もそもそと次の修行時間まで時間を掛けて食べていたらしい。


 朝9時。

 オーラを操作する練習。

 体中ありとあらゆる場所のオーラを操作し、タマが指定した形にする。


「次。肩に直径5センチの球体」

「ほい」

「………………」

「涙。直径8センチだし球体を保ててない」


 俺はなんてことなくこなすが会長はずいぶん苦手そうにしている。

 多分これまでの様子を見る限り、細かい制御をせずに戦ってきたんだろうな。

 世界最強のウロボロス様がごり押しすれば大抵の相手は倒せるだろうしな。


 10時。

 準備運動をした後に組手を行う。

 ただし普通の組手ではなく、お互いにオーラの量を同等にした状態での組手だ。

 会長は俺に合わせてオーラの量を少なくし、俺は会長に合わせてオーラの量を増やさなければならない。

 俺にとっては普段以上にオーラをわざと放出しているのでいつもより疲れるくらいだが、会長はいつも以上にオーラを出す事ができない事に苛立っているように見える。


「涙!力の制限を顔に出さない!!そんな状態だったらどんな敵にもすぐにばれちゃうわよ!!そっちはそっちで消極的に戦わない!もっと積極的に戦いなさい!!」

「はい!!」

「うっす!!」


 特に武器を使う訳でもなく素手と蹴りだけで戦っているのはお互いにやりやすいが、やはり純粋な筋力量などでは会長の方が上。

 見た目は人間の女の子だが正体はドラゴンの女の子。どう頑張っても純粋な力の差は出てしまう。


「くっそ」


 会長の胸ぐらを掴み、背負い投げようとするが筋力だけで止められてしまう。


「はぁ!!」


 逆に俺は会長に空高く投げ飛ばされると、顔面を思いっきり殴る。


「ぐが!!」


 今の拳で頬の骨が砕けた。

 この後飯だって言うのになんて事してくれる!!

 地面に激突すると地面には大きなクレーターができ、砕かれた骨から大量の血が頬に溜まり大きく膨らむ。

 それでも戦うのを止めようとしない俺に会長はまっすぐ一直線に飛び込んできたが、タイムアップの音が聞こえた。


「そこまで!!」


 その言葉に反応したのか、会長は俺のすぐ隣を過ぎ去り地面に拳を突き付けると、さっきできたクレーターよりも巨大なクレーターを作りながら止まった。

 いや~流石に今の食らってたら死んでたな。


 そう冷静に考えながらやはり基本スペックの差はどうしても覆す事ができない事を悟りながら、どうやって埋めるか考える。

 オーラは基本としてそこからさらに魔術系統にも着手して、いや、それとも薬物にも手を出すか?正式な医薬品ではなくともプロテインとかそういう日常的な物を使うのもありか。

 効果の高い危険な薬を手に入れる事が出来るほど俺の財力と人脈は広くない。ようやく武器の実験アルバイトでそれなりの金を稼げているとしても、所詮学生のバイト程度の額。高額な薬に手を出せるほどの金じゃない。


「う~ん」

「……はぁ。また強くなる方法を模索してるわね。種族差はどうする事も出来ないのに」

「………………」


 ん?

 また会長が俺の事をじっと見ているが何かしただろうか?

 何かした覚えはないので首をかしげる事しか出来ない。


 12時~14時まで昼食及び夏休みの宿題の消化。


 15時~17時まで筋トレ及び体力作り。


 18時。


「流石にそろそろ休みません?」

「君にはそんな時間ないでしょ。あとこれ本当に修行にするとしたらもう少しレベル上げないとダメか」


 リルとオーラを同調させる訓練。

 これに関してはほぼ最初から問題ないはずだが確認したい事があるという事で一応やっている。

 確かに現在の俺にとって最大の切り札はリルとの合体になるが、今更訓練するほどの物でもない。

 何でこんな事をしているんだろうと思っていると、タマはため息をつきながら言う。


「君初見の相手とも同調することできる?」

「え?ええ多分。と言っても相手側の問題もありますから100%は出来ないでしょうが」

「私とはできそう?」

「出来ますね」


 即答するとまたあきられた。


「あのね、私とはまだ一度も合体した事ないのに何でそんな自信満々に言えるの?本当に誰とでも同調できると思ってるんじゃない?」

「いや、タマ先生の場合はこうしてちょくちょくあってましたし、今回の修行とかで色々注意深く見る機会がありましたからできると思っただけです。それに100%は無理でしょうから」

「本当かしら……」


 疑いの視線を向けて来るが俺の正直な感想だ。

 ぶっちゃけ俺の方はタマと同調する事に自信をもってできると言えるが、タマの方がどうだか分からない。

 俺だけ100%同調できたとしても、タマの方が100%同調できなければ実力を十分に発揮することは出来ない。

 だから現状球が俺の事を疑っているから100%の合体は不可能だと思っている。


「だってこの技お互いの信頼関係がある事が前提の技ですよ?どちらか一方が不信感を持っていたら出力一気に下がる訳ですし、俺とタマ先生にそこまでの信頼関係はないでしょ」

「そうはっきりと信頼関係がないと言われるのは少し悲しいけど、普通に考えればそうよね……」


 俺の言葉に納得するタマ。


「信頼関係を強めるには色々ありますからね」

「例えば?」

「そりゃ……仲良くおしゃべりするとか、一緒に遊ぶとか?」

「子供っぽいわね」

「それじゃデートとかセックスするでも構いませんが?」

「それは極論過ぎ。それに私と君の関係を強める前提だったらもっとありえないでしょ」

「え、何でです?」

「何でって当然でしょ。私君から見ればおばさんなんだからそんな風に見れるわけないでしょ」

「………………」


 あれ?俺転生者だってことバレてるはずだよな?

 それとも現在高校生だから自称おばさんだからそういう目で見られないと思ってる??


「俺タマ先生の事おばさんなんて思ってませんけど?」

「それはどうも。でも友達が子持ちって思うと私もおばさんって気がどうしてもするよのね~」

「ああ、理事長の事ですか。でもそこまで遅れてるわけじゃ……」

「遅れてるに決まってるでしょ。子供がいてもおかしくない年齢なんだから」


 確かに人間基準で考えればそうかもしれない。

 いや、だからか……


「お付き合いしている人はいないんですか?」

「そんな人いないわよ。居たら女医しながらこんな所で仕事してないって」

「金毛家の当主様がモテないとは思えないんですが」

「むしろその肩書のせいで全然なんだから。まぁ……私自身あまり結婚するつもりが出ないのだけど……」


 ………………これも前世の俺が招いた事態なのだろうか。

 どんだけ俺は人の人生おかしな方向に進ませれば気が済むんだよ、俺は。


「……もし、本当の最終手段ですが、その時は俺が責任持ちますよ」

「責任って何よ。結婚でもしてくれるの?」

「タマ先生が望むなら」


 俺がそう言うとタマは俺の目の奥を真剣に見て、真偽を確かめようとする。

 何かに納得したのか、笑って目を逸らした。


「同情と責任感で結婚するなんて私が嫌。本気なのは意外だったけど」

「俺じゃ吊り合わないですか」

「そうじゃない。さっき理由を言ったでしょ。そんな同情と責任感で結婚なんて嫌、お互いに好きになって結婚してみたいじゃない。子供っぽいかもしれないけど」

「子供っぽいとは思いませんけどね。誰だって好きになった相手と結ばれたいと思うのは自然な事だと思うので」

「理解してくれてありがと。さて、明日からの修行内容少し変更しないと。これじゃただのリハビリで強くしてあげられないし」

「本当に強くしてくれるんですね」

「これでも色々考えてはいるのよ。素の状態で強くなれば危険な力に頼らなくて済む。そうすれば体の負担も軽くなる。そう考えて行動しているだけだから利がない訳じゃないの。君みたいに―――自分を犠牲にする戦い方をする人は嫌いだから」


 犠牲か。

 やっぱりタマも記憶になくても感覚的に覚えているんだろうか……


「晩御飯の後は自由時間だから好きに過ごしていいけど、勝手に練習とかはしないでおとなしくしてなさいよ。もし破ったらすぐその子から報告来るようになってるから」


 タマはそう子狐を見ながら言った。

 少しでも早く強くなるためにやりたかったが……ダメか~

 なんて思っていると腹が盛大に鳴る。

 それを聞いたタマは大笑いするのだった。

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