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転生者の贖罪  作者: 七篠
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裏伏見稲荷

 裏京都の街並みから少し離れたところでバスを降り、俺達は裏伏見稲荷大社を目指して歩いている。


「見ろ、人間だ」

「奇妙な気配の人間だ」

「龍?龍の気配する」

「呪われている人間だ」

「龍の呪いにかかった人間だ」


 町に居る妖怪たちは俺の事を興味深そうに遠くから眺めている。

 まるで珍妙な生物を見るかのように興味津々に、恐る恐る覗く者もいる。

 この様子なら変に絡まれることはなさそうだと思いながら裏伏見稲荷大社を目指す。


「はい到着。しばらくここで修行するわよ」


 到着した裏伏見稲荷大社だが、通常の伏見稲荷とは違い人はいない。代わりに狐の神職達が掃除をしたりしている。

 狐と言っても顔が本物の狐である妖怪もいれば、狐のお面を付けた妖怪もいる。

 人間は……いなさそうだ。


「お帰りなさいませ、タマ様」


 狐顔の神職が駆け寄ってきて頭を下げる。

 おそらく偉い立場の人なんだろうが、タマは特に気にした様子はなく自然と言う。


「しばらく厄介になるわよ。そしてこの2人が生徒達」

「お初目にかかります。私、宮司のコックリと申します。皆さまの修行のお手伝いをさせていただきます」

「……先生。宮司って偉い人じゃないですか。しかも裏で宮司やってるって相当な実力者でしょ」

「まぁ一応ね。でも私や妹に比べるとまだまだだから」


 それを言ったらほとんどの奴がまだまだだよ。

 いつからこいつこんな自分基準になったんだ?前世の頃はもうちょっと一般的な常識を身に付けてたはずなのに。

 どこで間違えた。


「それからこの者達がみな様のお世話をさせていただきます」


 そう宮司さんが言うとポンとコミカルな音と共に小さな狐の巫女たちが現れた。

 まだ幼い、小学生くらいの姿に見えるが彼女達も妖怪。見た目通りの年齢とは限らない。


「この者達は修行中の巫女です。雑務やご要望があればこの者達をお使いください」


 巫女たちを見て気が付いた。

 この子達こっくりさんだ。


 占いで有名なこっくりさん。十円玉と鳥居が描かれた紙を使ったあれだ。

 確かにあれも狐の動物霊を呼び出す占いだったと思うが……まさか神使しんしを目指している子もいたとはな。

 ただ狐のお面をかぶって何も言わずに頭を下げるだけなのはおそらく修行中なのだろう。

 あるいはただの動物霊から妖怪になりかけている途中なのかもしれない。


「本日はお疲れでしょう。修行は明日からでよかったですね、タマ様」

「ええ。今日はもうご飯食べてお風呂入ってゆっくりしましょ。明日の朝から修行開始だからちゃんと起きてよ」

「は~い」


 返事をしつつも朝5時起きはキツイな~っと思いながら俺達は大社を案内される。

 大社の中は当然巫女などの神職の人達が過ごす場所と、神様のための部屋がある。いわゆる儀式場やそのための祭壇などを保管している所ばかり。

 ぶっちゃけ巫女などが暮らす部分は最低限であまり広い訳ではない。だがチラッと見る限り水道やガスなどに関しては最新の物を使っているようなので不自由はなさそうだ。


 そして通された部屋は少し狭いが1人で過ごすのであれば十分な広さのある部屋だった。


「ここが柊様のお部屋になります」


 本当に寝るための部屋という感じで、ちゃぶ台とテレビだけがある。押し入れの中にはおそらく布団しか入っていないだろう。


「本当に寝て休むだけの部屋ですがコンセントはありますのでスマホの充電などはできます。このような部屋で申し訳ありません」

「十分ですよ元々修行のために来ていますから」

「それからこちらWi-Fiのパスワードを書いた紙です。大社にいる間はこちらのWi-Fiをお使いください」

「裏京都にもWi-Fiってあったんですね……」

「こちらでも近代化は必要ですから。妖怪の中でも人間が使う道具の方が便利な物が多いという者もいるくらいですので、これくらいはあります。それに表とのやり取りでもWi-Fiや電話は使えないと困りますから」

「納得です。それではありがたく使わせていただきます」

「ありがとうございます。それから洗濯物に関しては浴室にある洗濯籠の中に入れておいてください。まとめて洗濯いたしますので」

「何から何までありがとうございます」

「いえいえ、それでは夕食の際にまた。柊様のお世話、よろしく願いします」


 最後に見習の巫女であるこっくりさんにそう言って彼は去った。


 さて。これで夕飯まで特にやる事はないのだが……少しでも宿題終わらせておくか。

 とりあえず……社会科の宿題からやるか……ほとんど暗記問題だし。


 そう思いながら宿題を広げ、ちゃぶ台を使わずに畳の上で寝転がりながらとりあえず始める。

 面倒事はできるだけ早く終わらせ、あとはゴロゴロしていたいのが俺の流儀。まぁ修行もしなきゃだからあまり余裕がないからって言うのもあるけど。


 そんなだらけ切った感じで始めた宿題だが、それを正座してただじっと俺の事を見ているのが巫女ちゃん。

 リルも移動で疲れていたのかすぐそこでぐで~っとしているので何かするつもりはないようだ。

 その中で1人正座して背筋を伸ばしているのを見るとなんか居心地が悪い。


「なぁ、君も楽にしたら?」


 俺がそうこっくりさん巫女に言うが彼女は首を横に振る。


「何か話さないの?」


 そう聞くが雰囲気は困っているように感じる。

 …………もしかして……


「お前、話せないのか?」


 そう聞くとこくりと頷いた。

 どうやらただの動物霊から妖怪になってまだ日が浅いらしい。

 反応を見るに人語を理解することは出来ているが、話す事はまだまだ出来ないようだ。

 そうなるとリルと話すような感じの方が伝わりやすいだろうな。


『楽にしたら?』

『ダメ。怒られる』


 やっぱりだ。

 リルと話す時と同じようにするとスムーズに意思疎通する事が出来る。


『怒るって誰に?』

『偉い人。この群れを率いている妖怪』

『なるほど』

『それに客人に失礼のないようにと言われてる。だからダメ』

『俺は気にしないから楽にしな。なんか言われたら俺にそう命令されたからって言えばいい』

『…………』


 そう俺に強く言われるようやく楽な姿勢になった。

 と言っても巫女の姿ではなく小さな子狐の姿だ。お面も付けていない尻尾が2本ある子狐の姿。

 ようやく楽な姿勢が出来ると思ったからか、思いっきり前足を伸ばし、尻を高くしてストレッチをする。

 その後体の毛を振るわせて俺の近くにやって来た。


『これでもいい?』

『構わない。こっちがグダグダしている時にきっちりしてる奴がいると気まずい』

『そうなんだ』


 そう言って子狐は俺の近くで丸くなる。

 ずっと人の姿に化けて疲れていたのだろう。すぐに寝息を立て始める。

 やはり見た目通りまだまだ幼いのだろう。それが巫女になるために厳しい修行を頑張っているのだとすればこれくらいの休みは必要だろう。

 静かに寝息を立てる子狐が可愛いなと思いながらも宿題に手を付ける。

 少しでも進めて修行に集中しよう。


 そう思ってしばらく宿題を進めていると、部屋がノックされた。

 その音にハッと目が覚める子狐とリル。

 何でだろうと思いつつも部屋の扉を開ける。


「は~い」

「ご夕飯の準備ができました。食堂に来てください」

「分かりました」


 宮司さんがそう呼びに来てくれた。

 こうして俺達は食堂に向かい、合流したタマと会長と一緒に晩飯を食べ始める。

 精進料理と言うのだろうか?肉とか魚ではなく野菜がメインだが意外と食べ応えがある。

 黙々と食べているとタマが言う。


「それじゃ明日から本格的に修行を始めるから朝5時から始めるから……4時半ごろには起きておいてね」

「うえ~。早すぎませんか?」

「君のリハビリでもあるんだからこれくらい時間が必要なの。ただのリハビリで元の状態に戻すだけならこんなに早くやる必要はないけど、強くするにはこれくらいから修行を始めないと間に合わない。それに見ていないうちに勝手にとんでもない負荷を与えないためにも監視しておかないと」

「勝手にって……」

「勝手に負荷をかけて体を壊したから強制的に止めたんだから言う事聞きなさい」

「……はい」


 渋々頷いて飯を食べ終わる。

 お上品な薄味だったが、満足感は悪くない。

 それにこの食材その物も特殊な物のようだ。


「宮司さん。この食材もしかして神様のご加護入ってます?」

「お分かりになるんですか?」

「ええ。少し神の気配が感じられたので」


 伏見稲荷大社で祀られているウカノミタマは五穀豊穣の神様。そこから発展して商売繁盛とか色々つけたされたみたいだが、大元は五穀豊穣である。

 だから今日食べた晩飯にも神様の加護がほんの少し入っていたのだろう。

 妙に体の巡るオーラの動きがよくなっている。

 気のせい程度のものかもしれないが、俺にとっては十分すぎる効果だ。


「その通りです。と言いましてもウカノミタマ様ではなくウカノミタマ様に認められた神使達が育てた野菜や加工した食品です。効果は微々たるものですが、よくお気づきになりましたね」

「こういうのに敏感なので分かったんですよ。それじゃごちそうさまでした」


 俺がそう言って立ち上がるとリルも立ち上がる。

 リルと俺の担当をしている子狐も立ち上がり一緒に部屋に戻る。

 ただ気になったのは食堂を出る前に感じた会長の視線。その視線は俺の気のせいでなければ嫉妬のように感じた。

 世界最強のウロボロスの血を引いている女の子が俺のようなただの人間に嫉妬するわけがないと思い、気のせいだと判断した。


 その後は風呂に入り、宿題をもう少しだけ進めてから早めに寝た。

 ただ子ぎつねが俺の枕元で正座して待機しようとしたのは流石に寝にくかったので俺の隣で一緒になるように促す事で一緒に寝る。

 それではおやすみなさい。

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