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転生者の贖罪  作者: 七篠
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sideタマ 今度こそ、帰るから

「あ~疲れた」


 私、金毛タマはついそうつぶやいてしまった。

 呪われた数百人の人達の拘束は流石に疲れた。出来る限り傷付けることなくという条件が加算されていたせいで必要以上に大変。

 ただ倒すだけだったらここまで疲れなかったけど、一般人が多かったため仕方がない。


 それに今も彼らは呪われた状態であり、拘束が解かれればまた暴れ出すだろう。

 他の自然と呪われてしまった人達に比べれば弱いし、周囲への被害も少ないがこれだけ多くの人数が一気に押し寄せてくるとなると今までと違う戦い方をしなければならないので非常に疲れる。


 どれだけ疲れても女の意地で地面に座ったりはしない。

 そこで疲れてる男性職員のように地面にあぐらで座るなんてもってのほかだ。


 それにしても……まさかスカウトに来るなんてね。

 佐藤柊君にかけている呪いはただ戦えなくするだけではなく、位置情報、盗聴機能もある。その時の会話を聞いて本当に勝手に修行していないか、無茶な事をしていないか確認しているのだが……今回は戦わなかったとはいえまた無茶をする。

 もし仮に戦う事が目的だった場合巻き込まれる事は想像に難しくない。


 戦闘となればリルが前に出てくれるだろうけど、そもそも戦いの場に来てほしくない。

 と言うか戦わないように多少強引でも戦えないようにした方がいいのでは?

 それこそ呪われてしまった人達用の施設の中とか――


「うわ~、こりゃマジで多いな」


 そう考えていると彼が手足のない誰かを引きずりながら現れた。

 そして呪われた人達は彼を見つけるとうめき声をあげながら這いずってでも彼の元へ行こうとする。

 まるで芋虫のように這いながら彼に近付こうとする。


 その姿はまるで哀れな被害者。

 助けを必死に求めるようで、まるで助けてくれる人を見つけて必死に呼びかけているようで、そこら中から呪われた人達がただひたすらにうめき声をあげる。

 彼はそんな被害者達を見ると私に言う。


「タマ先生。いい加減この首輪外してもらってもいいですか?もう十分休んだでしょ」

「……何をする気」


 ある程度予想はついているが一応聞いてみる。


「この人達の呪いを解きます。1人ずつやってたらいつまで経っても終わらないので一気に終わらせたいので力使わせてください」

「…………はぁ」


 私はため息をついてから呪いを一部解除した。

 力を使う事は可能だが位置情報と盗聴機能は消していない。

 それに呪われている証である首のマークは肌の色と同化させているので見た目では変化ない。日常生活にも支障は出ない。


「ありがとうございます。ツー、ちょっと手伝え」


 力を使えることを確認した彼はスマホの中にいるツーに向かって話しながら何かしようとする。


『何をすればいいですかマスター』

「この学校の敷地内限定で龍脈に接続できるようにしてくれ。黄龍の力をパクればいいだろ」

『了解しました。学校の敷地内の龍脈に接続……完了しました』

「よし。そんじゃやるか」


 そう言って彼は地面に手を付けたと思うとあっという間に呪われた彼らから呪いだけを綺麗に吸い取っていく。

 ツーの手伝いがあるとはいえなかなかの手際の良さだ。

 いや、元々彼は他の何かと同調、あるいは同期させるのが得意なのかもしれない。

 龍脈に接続するのだって地球の気と同化させる必要があるし、それはかなりの高等テクニックであり、日本では仙術と呼んでいる。


「仙術使えたのね」

「ええ、ほんの少しだけですが」


 その少しがずっと使えない人間の方が圧倒的に多い。

 仙術だって人間も訓練すれば使えるようにはなるが、努力以上に才能センスが問われる。才能がなければどれだけ努力しても無駄だし、それは人間でなくても同じ。

 妖怪であっても才能がなければ仙術を覚えることは出来ない。


「どうやって覚えたの?誰かから学んだ?」

「最初は教えてもらいましたが……今じゃほぼ独学ですね。自分の感覚がものをいう分野でもありますからやっぱり自分が思うようにやる方が結構楽なんですよね」


 そう言いながら立ち上がる彼はまた強くなった。

 呪われていた人達から呪いを奪い、己の力に変える。さらに呪いの力が強まったはずなのにそんな雰囲気は一切感じさせず、普段と何も変わらない。

 異常なほどの巨大な魔力保有量は一体どこから生まれたのだろうか。


「ねぇ。どうやって仙術を使っているか聞いてもいい」

「どうって言われても……まだまだ実戦では使えない物しかありませんよ」

「どんなイメージで使っているのか聞きたいだけよ」


 仙術を使いこなす基礎は自然と一体化するイメージが重要だ。

 ただどのように自然と一体化するイメージを浮かべるかは人による。風のように、水のようにと言う人はいるが彼の場合は――


「俺の場合は『死』ですね。死んで幽霊になる訳でもなくただ世界を揺蕩たゆたう。世界のエネルギーの一部なる。そんな感じですね」


 私は――絶句した。

 そこは普通転生するとか輪廻の輪に加わるとかそう言うのじゃないの?

 何で死んで終わり?死んではいさようならなの??


 彼は根本的に狂ってしまっている。

 命に価値を見出していない。

 まるで自分の事を見ていない。


「ほ、本当にそんなイメージでやってるの?」

「はい。まぁ死んだあとはどこかしらの死獄に落ちるのが普通ですが、ぶっちゃけ天国も地獄も行きたくないんですよね。死んではいお終い、世界のエネルギーの一部としてきれいさっぱり消えてねの方が好みなんですよ。これに関しては本当にそれぞれの考え方によると思いますが」


 本当に淡々とただ事実を言っている。本当にこれが彼の考えなんだ。本当にこれが彼の本心なんだ。

 それなら私は――


「ねぇ。そんなに死ぬのも同じだって思っているのなら、なんで傷付く戦いを選ぶの?何もせず、ただだらけてもいいじゃない」


 ゆっくりと九つの尾を伸ばし、彼の手足に絡ませる。


「そんなイメージをしているって事は無理に戦う必要はないでしょ?あなたの言葉から未来の希望のような物を感じ取れない。それならグダグダ生きてたって良いと思うの」


 彼を引き寄せ、目に力を込める。

 サキュバスとは少し違うけど相手の目と合わせる事で洗脳する事が出来る仙術。これを使えば――


「私が養ってあげる。このまま私の腕の中で――」

「タマ」


 ふと彼が私の名前を呼んだ。

 先生と付けずに呼ばれたのは初めてなはずなのに、懐かしい気持ちと心地よく耳に残る。

 彼は私の事を抱きしめ、心臓の音を聞かせるように私の耳を胸に置いた。


 規則正しく刻む心臓の音。力強く響くこの音はとても落ち着く。

 どこかで聞いた事がある気がする力強い音と優しく抱きしめられながら頭を撫でられる感触は思い出せそうで思い出せない。

 私はこの音と抱きしめられた感じを知っている。

 妖怪の私が思い出せない事は――


「ごめんな。あと少し、2年後のクリスマスまで待ってくれ。全部終わったら、今度こそ帰るから」


 ――――見なきゃよかった。

 後悔と謝罪、無念、絶望、怒り、様々な負の感情を抱えながら無理矢理笑みを作って私を安心させようとしている顔。

 私が彼にこんな顔を作らせてしまった……

 そして非常に強い意志がこもった瞳だけは、過去と未来、どちらも見ているようで不思議な瞳をしている。


「今度こそ、帰ってくる?」


 そんな言葉が私の口から勝手に出てきた。

 その言葉に対して彼は力強く頷く。


「当然。そのために頑張ってるんだから」


 当然と言う彼の表情はとても頼もしくて、非常に懐かしく、無条件に甘えてもいい相手だと思ってしまった。


「ごめんな。今度こそ、帰ってくるから」


 その最後の言葉だけは、何時までも耳に残るのは何故だろう。

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