NCDの幹部
悩むと言っても数秒くらいしてからすぐに行動に移すのが俺。
こういう空気は前世の頃は当たり前だったので特に動揺する事なくスマホを確認。予想通り通信を妨害されているのか、圏外と表示され使えそうにない。
となるとアナログな方法、直接探しに行くしか方法はないか。
「ちょっと裏切り者探して始末してくるわ。あ、一応乾は連れて行くな」
「ちょっと待ちなさいよ!!そんな危険な事していいわけないでしょ!!」
「危険って、このまま何もしない方が危険だと思うけど?すでに学校に侵入者が居るのは確実だし」
「それこそ先生達に任せておけばいいじゃない!むしろ私達みたいな弱いのが言ったところで……」
「邪魔になるってか?」
カエラが言い辛そうにするので俺が代わりに言うと、渋々という感じで頷いた。
でもぶっちゃけその考えは間違いなんだよな。
「カエラ。先に言っておくが今現在一番足手まといなのは俺だからな」
「何でよ。人間のくせにかなり強くなったじゃないの」
「だって今の俺呪われて戦えないし」
「あ」
残念な事に今現在も呪いの影響で戦う事ができないのだ。
こんな状況になっても呪いが解けないとかマジで融通が利かない。
「だから俺はリルを連れてちょっと状況を確認しに行くだけだ。戦えないからな」
「それなら余計に危険じゃない!大人しく教室で待機してる方が――」
「まぁその方がほぼ安全だろうな。でも相手の目的が分からない以上、ここに居るのが安全とは限らない。理事長が目当てで攻撃して来たなら分かりやすくていいが……そうでなかった場合何が目的なのか突き止める必要がある。だからあくまでも俺がやるのは情報収集。今俺にもできる事をするだけだ」
「…………」
「もちろんこれは俺の勝手な判断でやるだけだから誰かについてこいとか言うつもりはない。ただリルを護衛として連れて行きながら状況を確認するだけだ。あとついでに乾を餌にして主犯を見つけられないかな~って思ってるだけ。仲間意識が強ければ助けに来ようとするかもしれないし」
教室から出て行く理由を話しながら乾の首根っこを掴む。
これ以上教室が狗命で汚れるのは後が面倒だ。もし仮に自分達で掃除しなければならなくなってしまったら血の汚れを落とすのってマジで面倒だからやりたくない。
魔法でどうにか出来るかもしれないけど。
そう言ってから教室を出ようとすると、桃華が俺の手を掴んだ。
「わ、私も行きます」
「何言ってんだ?危ないぞ」
「危ないのは柊さんも同じです。それに様子をうかがいに行くなら服数人いた方がいいです。どちらかに何かがあった時、どちらかか片方が情報を持って帰る事が出来るかもしれませんから」
そういう桃華の手は細かく震えている。
恐怖を無理矢理押し殺している普通の人の手。何が起こるか分からない恐怖に対して真っ当に恐れているのだからまだ彼女は壊れていない。
だからこそ――その手を振り払った。
「ダメだ。怖いならここに居ろ。怖くて動けなかったら足手まといだ」
「でも!!」
「どんな奴が現れるのか分からない、どんな怖い目に遭うのか分からないから怖いってのは真っ当な奴の反応だ。俺みたいにそういう状況だって分かっていながらいつも通り動ける異常者と一緒になるな。そのまま真っ当に生きろ」
桃華の手を振り払い、教室の外に向かうが桃華は動けないでいる。
その方が安全だ。
動けない桃華に対して安心しながら教室を出る。
「リル。結界張れるか」
俺が聞くとリルは簡易ではあるが結界を張ってくれた。
と言っても結界で守るというよりは封印に近い。内側からも外側からも開ける事ができないのだからその方が表現として正しいのかもしれない。
とりあえずこれでみんなの安全は少しは向上したはず。
リルは戦闘系の魔法は得意だが、結界や防御系の魔法となるとあまり得意ではない。この結界だって中級の結界であり力尽くで壊そうと思えばできる結界だ。
それでもリルの力をそれなりに注いで作ったからそう簡単に壊れる物ではないだろうが、この結界を壊せる実力者が居たら本当にヤバいな。
乾を引きずりながらとりあえず会長がいるかもしれない生徒会長室に向かって歩く。
乾はようやく意識がしっかりして来たのか口を開く。
「……容赦ないな」
「当たり前だろ。殺しに来た相手を殺して何が悪い?むしろ殺さず情報を引き出せるかもしれないってだけで生かしてる優しさに感謝してほしいくらいだ」
「その雰囲気、俺みたいなチンピラじゃない。本当にヤバい奴の雰囲気だ。どこのチームに所属してる」
「あえて言うなら八百万学校の戦闘科だよ。お前みたいなチンピラと同じだと思うな。お前らみたいに関係のない他人を巻き込んで攻撃するほど切羽詰まってない」
「……それは強い奴だから言えるセリフだ。俺みたいに弱い奴らは、強い奴らの奴隷だ」
「お前の言葉は何も間違ってねぇよ。所詮俺達生物は力の奴隷。現代じゃ少し変わって知識とか財力とか色々差別化されたが、結局最後に物を言うのは武力や軍事力。半端に知識を付けただけの獣と変わらない」
より効率的に殺すために道具を作り、そこから発展して武器や兵器が開発されるようになった。
身体能力と言う点で見れば他の動物達と比べれば最底辺と言ってもいいくらい弱いだろう。しかし物を作るという分野において人間は神すらも利用するほど貪欲に進化し続けた。
最初は神の道具の見た目だけ模倣したガラクタから始まり、今では研究と称して神の道具と大差ない物を作り出す事が出来る。
中身、神の技術や材料は違えど結果は変わらない物が多く生まれている。それどころかスマホやゲーム機などと言った娯楽に関しては神の領域を超えている分野だって存在するのだ。
それを兵器と言う分野に置き換えれば、神々が警戒するのもうなずける。
猿の一種が神を殺す道具を製作すほどの力を手に入れたのだから。
「で、お前ら本当に何の目的でこんなバイオハザードもどきを引き起こした。やっぱり理事長か会長が目的か?」
「…………」
「フラッシュバーー」
「言う!言うからやめてくれ!!」
リルに手足を食い千切られた光景を再体験させようとしたら止めてきた。
話すのであればと何もせずにいると乾は言う。
「目的に関しては本当に知らない。ただ俺は構成員として学校の区画や警備、防衛装置の場所を調べてただけだ。あとは薬をばらまいてより大きな混乱を起こせるようにしたくらいだ」
「本当に下っ端の仕事だな。もっと有能な奴が他にもいるんだろうが、そいつらと連絡はどう取ってた」
「……裏サイトだよ。連絡用に作られた専用サイトでやり取りをしてた。ついでに言っておくがそのサイトはもう削除されてるぞ」
「ツー」
『乾相馬のスマホにハッキングを開始。…………ハッキングしました。使用していたサイトは確かに削除されているようです』
「復元できるか」
『残念ですが入念に削除されており、すぐに復元することは出来ません。3日ほどお時間をいただければ復元できます』
「それじゃ後で頼む。多分理事長達もそういう情報も欲しいだろうし、一緒にやった方がいいだろう」
乾が居ようが居まいが変わらない俺達。
廊下を歩く限り他の生徒達は教室内に閉じこもっているらしく、生徒の姿は見えない。それに例の破壊音が聞こえてきた場所はまだ遠いのか特に壊れている場所はない。
だが外では先生達がゾンビもどきと戦っているのか戦闘音はあちこちから聞こえてくる。
おそらく四方八方から押し寄せてきているのだろう。
あのゾンビもどきたちはどのように誘導しているのか気になる。
何かゾンビもどきたちが引き寄せられるものがあるのか、それとも誘導されているのか。捕まえて調べてみないと分からないか?
生徒会室に向かうにつれて戦闘音が近づいてくる。
廊下もコンクリートか何かの破片が散らばっていたりと戦闘中である事はほぼ間違いないだろう。
それに生徒会室に向かっていくほど視線が強くなる。敵対者と言っていいはずの者達から視線を感じるが、悪意や敵意と言うよりは好奇心、興味のような視線の方が強い。品定めをしているようにも感じる。
だが何かしてくるわけでもなく壊れた生徒会室の前までくると、生徒会室の壁だったはずの所が崩壊しており、会長と誰かが戦っていた。
誰かは俺同様に呪いの力を得て戦っているようだが、俺よりも強い呪いの力を持っているらしい。そしてそれを完全に制御し、自在に扱っているところを見ると俺の上位互換と言った感じか。
会長の方はやはり戦闘経験が少ないせいか後手に出ており敵の攻撃を受けているが、そこはさすがウロボロス。オーラの量で攻撃が通じていないし、一撃はいれば勝てるだろう。
だが敵もそれはしっかりと分かっているようなので決して攻撃が当たらないように絶対に避けられる距離を保ちながら長距離攻撃を中心に派手に魔力砲をぶっ放していた。
そして俺よりも先にこの戦いを見ていた女性、金髪で物静かな人が俺に頭を下げた。
「初めまして、佐藤柊様。私はNCDの幹部をしている者です」
「これはご丁寧にどうも。佐藤柊です。本日はどの様なご用件でしょう」
戦う意思はないようなので俺も丁寧に相手をする。
名乗らないのは理事長達を警戒してかな?
「あまり時間もございませんので簡潔に、手短にお話しさせていただきます。佐藤柊様。我々NCDの仲間になっていただけないでしょうか」




