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転生者の贖罪  作者: 七篠
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広がる薬

 7月と言ったらあと数える程度で夏休みに入る楽しみな時期だ。

 テスト?テストはもうすでに終わってる。

 特に可もなく不可もなく、全科目赤点回避できたのだからそれでいい。


 転入生の乾に関しては特に不審な動きはない。

 常に見張ってるわけではないが、とりあえず校内で変な事をしている様子はない。具体的に言うと変な薬をばらまいている噂はない。

 体育と言う戦闘訓練でむせたり苦しがっている姿は目撃されるがこれに関しては普通だろう。

 普通の人間が人外たちの戦闘訓練についてこれているだけまだマシな方だ。


 そして夏休みまであと2週間と言う所で担任である大神遥から朝のホームルームで衝撃的な事が言われた。


「別な学校で龍化の呪いによって生徒が生徒を襲う事件が起きた。襲った生徒はすぐに鎮圧されたそうだが気を付けるように」


 その日のクラスの話はその話で持ちきりだった。

 何せ龍化の呪いが近くで起きたのだから。

 どのような経緯で呪われてしまったのかは言われていない分、余計に想像力だけで話が膨らんでいく。

 そしてもう情報屋のようになりつつあるカエラが俺と桃華の前で話す。


「ちょっと調べてみたけど、その襲った生徒やっぱり薬を飲んでたみたい」

「クスリってまさか……」

「あのリリンの生徒が使ったのと同じ奴。今回は人間が使ったから大した事なかったみたいだけど、また悪魔や他の種族が使ったら大事になっていたでしょうね」


 やっぱりあの薬が水面下で広がりつつあるらしい。

 薬の効果はあの日からあまり大きく変わっているようではないが、それでも効果が高まっていると想定すると楽観視してられない。


「あの薬広まってんのか……」

「ええ。噂程度には広まってるわよ。どこかの生徒から買えるとか、不良グループに入るともらえるとか、いろんな情報が飛び交っているせいでどれが正しいのかは分からないけど。でもうちの学校では使ったって噂はないわね」

「売り手が警戒してるのか?」

「それもあるでしょうけど、あの交流試合の時にはぐれ悪魔になったのを見たからかなり危険な薬って理解できてるみたい。でも危険な力でも力が欲しいっていう子も全くいないとは言い切れないから、その辺りは先生達が頑張ってるんじゃない?」

「まぁそうだよな……」


 噂程度であろうとも薬が広まっていれば警戒するのは当然だ。

 だがそれを普通の学校で行うのはかなり難しい。

 うちの学校みたいに戦える先生達が在籍している訳ではない。大人と子供と言う立場ではあるが、高校生となれば肉体的にはほぼ大人、さす又などを持って止める事ができればいいができない場合もあるだろう。

 それに龍化の呪いにかかってしまったと分かってしまったらそれだけで怯えて動けないかもしれない。もしそうなったら非常に大きな被害が出てしまう可能性が高い。

 それを回避するためにも薬の回収は必須だ。


「お前らは間違ってもあの薬飲むなよ」


 俺がそう言うと何故かカエラと桃華はじとーっと俺の事を見返してきた。


「なんだよ?」

「いやだってさ……」

「その、性格的な問題と言いますか……」

「だから何?」

「「使う可能性としては柊(さん)が使う可能性高くない(ですか)?」」


 それを言われると否定し辛い俺だった。


 ――


「意図的に龍化の呪いを引き起こす薬を作るとすればどう作るか?」

「ええ。最近校内で龍化の呪いの噂が蔓延していますので、純科学を志す人の意見も聞いてみたいなっと思いまして」


 放課後。暇つぶしにロマンの研究室に来ていた。

 ちなみに事情は話しているのでしばらくアルバイトはできずにいる。

 それを聞いていた佐々野穂香も口を出す。


「確かに不思議ですよね。薬を飲むだけで正体不明と言われていた呪いを強制的にかける事が出来るだなんて」

「しかしだね柊君。あれは呪いであって科学の分野ではない。さすがの私でも別分野の事に関してそこまで詳しくはないのだが?」

「だからあくまでも意見を聞きたいんですよ。呪いを薬として服用させる事が出来るのかどうか」


 俺の膝の上で欠伸をしながら横になるリルを少し見てからロマンは言う。


「一応ではあるが、呪いを何かに込めて閉じ込めると言う所は実現可能だ。これに関しては君の方が詳しいかな?」

「ええ。いわゆる呪いの人形のような物ですよね」

「その通りだ。意図的、偶然と様々な形ではあるが呪いを物質に閉じ込める行為そのものは既に技術として定着している。だが純科学で呪いを再現する事は不可能だ」

「結論早い」

「だから別ジャンルだと言っているだろ。呪いについて聞きたいのであれば、大神遥先生にでも聞けばいい。大神家の当主なのだから呪いについてならそちらの方が詳しいだろう」

「純科学で呪いに似た事は出来ねぇの?」

「似た事ならできなくはないが……それでも呪いと言うにはあまりにも違い過ぎる」

「過程が違うだけで同じ結果になるのならそれでも構わない気がするんだけど」

「純科学を志すものとして過程も大切な物だと私は思っている」

「あの、純科学で呪いに似た事が出来るって事に私は驚きなんですけど……」


 佐々野穂香が手を上げながら言うと、ロマンは少し考えながら言う。


「それでは少し社会問題を引き起こしたゲームを例に言おうか。君達は”青いクジラ”と言うゲームを知っているだろうか?」

「あ、俺知ってる。マジで社会問題になったゲームじゃん」

「え?社会問題になったゲームってなんです?」

「青いクジラは簡単に言うと自殺を促すゲームだ。SNS上で1つの問題をクリアして行く物だが、最初は自分を体のどこかを傷付けるや、気分の落ち込む音楽を聴くなどを繰り返させて自身を傷付けることについて抵抗感を消していく。そして50日後に自殺させるというゲーム」

「………………それ日本で聞いた事ないんですけど」

「当然だ。日本では当然流行った事などないし、見つかればどんな事になるか分からない。だがその自殺させるまでの経緯に関しては精神学的な面からのアプローチもある。自身を傷付ける行為を慣れさせて抵抗感を薄めたり、暗い雰囲気の曲を聴き続ける事で精神的にも負荷をかけていく。ちなみにだが悪魔の音程と言うのは知っているかな?その音程を聞くと人間は不快に感じたり、気分が悪くなる。わざと怖い雰囲気を出すためにこの音程を使って恐怖を演出する事もある。こんな感じで科学的に呪いに近いことは出来なくはない。かなり条件は厳しいが」

「はぁ。科学的に怖い事をするって嫌ですね」

「さて、ここから改めて言わせてもらう訳だが、龍化の呪いを純科学のみで再現するのは無理だ」

「その理由は何で?」

「単純な話だ。私達は龍化の呪いについて何も知らないからだ」


 どういうことだと思う俺と佐々野穂香。

 ロマンはため息をつきながら言う。


「純科学の場合どうしてそうなるのか、と言う当然の帰結が必要だ。今回柊君が求めている龍化の呪いを集めて物質に閉じ込めるという行為だが、どのように呪いを集め、どのように物質に閉じ込めるという行為が全くできないからだ。それ以前に呪いを科学的に説明できていない。現在判明している事は精々呪いにかかったら暴走してしまうという事だけ、これでは科学的に扱いようがない。何せ原子も分子も一切検出されていないのだから」


 お手上げ万歳という感じで背もたれに大きく寄りかかるロマン。

 だがそれは逆説的に言えばできなくはないという事か?


「それって、集め方とかの干渉方法が分かれば純科学でも再現は可能って事ですか?」

「それはまぁ、理論的にはね」


 できっこないけどっと言う雰囲気を纏いながら言うロマン。

 それなら一応呪いを錠剤に込めることは出来るのか?科学でも。

 一体あの薬はどのように作られているのか、本当に解明が必要なようだ。

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