閑話 聖書の神の復活を世界は知る
とある日、とある緊急招集によって各国の首脳陣、そして神話世界の最高神達はパソコンを前にリモート会議を行っていた。
『……各国首脳、各神話の代表者の皆様。お集まりいただき誠にありがとうございます』
『緊急の招集とは、それほど恐ろしい災害を見たという事かね?ミルディン・グレモリー』
『……はい。非常に簡潔に申し上げますと、今回見た未来は聖書の神が復活すると言う内容です』
その内容に全員が驚きと動揺の声を上げた。
突然復活し、なぜ消えたのか分からない存在が復活すると予言されたのだから当然である。
『それは間違いないのか!』
『……間違いありません。2年後の12月24日、深夜0時に復活します』
断言するミルディン・グレモリーの言葉に参加者全員が一気に話し合う。
『奴は急に復活し、不完全であったからこそ消滅したと考えられていたのではないのか?』
『その説を信用するのであれば今回は確実に完全体で復活する可能性が非常に高い。それに対抗するだけの戦力は十分なのか?』
『今なお聖書の神を信仰する人々は多い。彼らにこの事が知られたらどんな行動をとるか計り知れない』
『それに軍事力が十分であったとしても本当に当たるのか?ただ軍事力を上げるだけではなく、攻撃が当たるようにしなければ軍事力も意味をなさない。どんな兵器であろうとも当たらなければ意味がない』
『それは我々でも解析を試みているが、やはりやつ固有の物としか言いようがない。どれだけ原理を調べても何故あのような結果になるのか調べたところで無駄だ。あれはそういう神なのだとしか言いようがない』
『あれは私達神でも攻撃を当てる事すら至難の技。あの概念に触れる事が出来るかどうかが鬼門。触れる事が出来なければ、どんな存在であろうとも勝つことは出来ない』
『あの概念に触れられる術式の開発はどうなっている』
『難航しておりうまく開発できておりません。元々あやふやな概念ですから』
『前回は不完全であったからこそあれは撤退した。もし今回完全に復活していたとすればもう次はない』
『分かっている!!だが、”奇跡”なんてものを意図的に操るなど、どうすればいいのだ!!』
聖書の神の権能、それが”奇跡”である。
ある村の水瓶の水をワインに変えた。荒れる海を一言で静めた。病人を触れるだけで治した。死者に起きろと言うだけで生き返らせた。
聖書にも載っているこれらの奇跡を引き起こしてきたのが聖書の神。
物理法則を超え、聖書の神が望むままに世界を変えると言ってもいいほどの強力すぎる権能。
弱点と言えば奇跡の規模によって信仰心の大きさによって叶えられる物と叶えられない物があるくらい。
だがそのエネルギー問題さえ解決できれば永遠に発動し続ける事が出来る。
神による終末戦争の際に聖書の神は奇跡の力で敵対する存在達、他の神話の神々の攻撃すら避けることなく霧散したり、攻撃と攻撃がぶつかり合って聖書の神に攻撃が届かない事態も発生した。突風が邪魔をしたり、射線上に仲間が入ってしまい攻撃できなくなったり、聖書の神の信者が狙ったようなタイミングで邪魔をしたりと全く聖書の神には攻撃が届かない。
その間聖書の神は散歩でもしているかのように悠々と歩いていたのだから、あの強力な権能をどうにかしなければ本当に攻撃は届く事すらできない。
『いっその事まだ聖書の神を信仰する者達を絶滅させるか?』
『それはあまりにも無謀だ。もう既に聖書の神の事件により信者達は堂々と信仰している訳ではない。隠れて細々と信仰を続けている。そんな彼らを全て見つけ出し、殺すなど非現実的だ』
『だが他に奴を弱体化する方法もない。今の我々に出来る事は奴への信仰心を少しでも減らす事。多少強引な手段を使ってでもな』
そう言った過激な意見も飛び交う中、1人の魔王がグレモリーに問いかけた。
『今までいくら占っても出てこなかった未来が、なぜ今回占う事が出来たのか詳細を聞きたい』
そう聞いたのは少し黒みがかった白銀の髪の魔王、ルシファーである。
ルシファーの問いにミルディン・グレモリーは正直に答える。
『……とある学生との契約で占った結果です』
『その学生とは』
『……八百万学校1年生、佐藤柊から聖書の神と戦う日にちを聞きたいと言われ、占った結果聖書の神が復活する事が判明しました』
その告白にさらに代表たちはざわめく。
『つまりその青年と聖書の神は戦う運命にあると?』
『言い方を変えればその青年が占ってもらおうとしなければ判明する事すらできなかったと』
『運が良いと言うべきか。いや、それはあの神に対してありえないか?』
『なんにせよ事前に知れたことは良い事だ』
『他に占いで分かった事はあるか』
再び魔王ルシファーが問うとミルディン・グレモリーは答える。
『……さらに深く占ってみましたが、あまり多くの事は分かりませんでした。分かった事は先ほど申し上げた日にち、そして彼と神が何か話した後に戦闘が始まったところまでです。何度占ってもそれ以上先は占うことは出来ませんでした』
『そうか。報告ご苦労。彼の他に協力者のような者はいなかったか』
『……1人で神と向かい合っておりました』
『どうやらその青年が神と戦うのは決まっているらしい』
『そのようですね。グレモリーの占いが正しければ周囲に我々はいないのか、あるいは遠くからその様子を見ているのかのどちらかかと。前回同様に自陣の守りを固めている可能性も低くはありませんから』
『こちらも”運命の三姉妹”に観測してもらうとしよう。彼女らも同じ結果が出たのであれば信憑性はさらに上がるじゃろうて』
『各時間に関する神々にも協力を要請しましょう。聖書の神が出現する場所がみな同じと言う結果が出れば納得していただけるはずです』
『一つよろしいでしょうか』
各国、各神話の代表達が話し合う中1人の女悪魔が声を上げた。
『皆様にお願いがあるのですが、彼が転生者である可能性を考慮してそれぞれ転生者を生み出していないか調べてはいただけないでしょうか』
『……何じゃと?それはどういう事じゃ』
『これは八百万学校理事長であるウロボロス様からのご依頼なのですが、彼の言動、戦い方などがあまりにも年頃の青年とは思えない戦い方をするので調べて欲しいと依頼がありました。なので皆様、特に冥府など人間の死後に関する神々の皆様に調べていただきたいのです』
『それは貴様がウロボロス殿から受けた依頼であろう。何も神々に直接頼む必要も無かろう』
『いえ、その場合ですと調べてもらうために様々な書類やら何やらが大量に必要となりますので、この場でお話しするのが最も効率が良いと思いましたので発言させていただきました』
『……ウロボロス殿からの依頼、か』
『そちらはどう考える?』
『どうも何も、ありえないと言うのが正直なところです。仮に彼が転生者であったとして、ここ数百年は人間や他の種族に関係なく記憶を保持したまま転生させてはいません。どの魂も浄化し、無垢な魂として転生させているはずです。仮にどこかの神話が関係していたとしても、そんな分かりやすい事をするでしょうか?』
『であるよな……』
『ではこの青年は我々神の目を盗み勝手に転生したとでも?それこそあり得ない』
『そうあり得ない。仮に人間であった場合冥府に落ちるか、天界にいざなわれる。これは絶対の理だ』
『人間ごときに出来る物ではないな』
『では本当にどこかの神々が彼の転生を見逃した、あるいは手助けをしたとでも?しかも厳格な日本の地獄が??』
『ありえないだろうな……十王は地獄を統べる裁判官。あれが死者の魂を厳格に裁かない訳がない』
『日本人として生まれたのであれば通常日本の地獄で転生されたと考えるのが定石。かといって高天原はあくまでも日本の神々が住まう場所、人間を招き入れるとすれば神社仏閣の高位の巫女や宮司だけだろう。とても普通の人間が行けるとは思えない』
『さらに言えば聖書の神と戦う事をミルディン・グレモリーに占ってもらったという事は、必ず戦うと分かっていたのでは?そして転生したという事はあの戦争で亡くなった者が居た?』
『いや、重軽傷者は多数いたが死者は0であっただろう。どこかが数え損ねたか?』
『それ以前に聖書の神と戦ったのは誰だ??』
このつぶやきによって神々の言葉は完全に次が出てこなくなってしまった。
聖書の神と戦えるほどの実力者だったと仮定するのであれば、神々も知っていても何もおかしくない。
ではやはり天使達と戦っていた戦士が敗北し、死んでしまった物が彼に転生した方がよっぽど可能性が高い。
『《消失魔法》』
骸骨の仮面を付け、肩に巨大な鎌を肩にかけた神、ハデスがつぶやいた。
『《仮にその者の前世が消失魔法を使えたのであれば可能性はある》』
『お待ちください。消失魔法はあくまでも自身の寿命や記憶などを対価に魔法を行使する禁呪。それが自身ではなく他者を起点とするだけでも難易度は高まりますし、それが我々神々を含めた物となればその物の実力は我々神をしのぐほどの強者となってしまいます』
『《あくまでも可能性の話。だが私も非常に興味が湧いてきた。オリュンポスの冥府で転生した魂がないか調べてやろう。感謝しろ小娘》』
『ええ。感謝しますわ』
『……我々も調べておきましょう。ウロボロス殿の依頼でもある様なので』
『ではこれをもって本日の緊急招集は終了とさせていただく』




