side水地雫 依頼
「………………やっと二人っきりになれましたね、雫先輩」
「そんな風に呼ぶのはもうあなたくらいよね、リリム」
「それで二人っきりで秘密のお話って何ですか?何かの契約でしょうか?」
「ええ、これは仕事の契約。ここ最近、100年以内に転生した者が居ないか調べて欲しいの」
「はは~ん。もしかしてあの異常な彼の事を調べて欲しいんですね。転生者と言うのは確定で?」
「おそらくだけど。あなたも見たでしょ、さっきの試合。下位とはいえ天使の使う封印術式を使って見せた。現在では天使と一部のエクソシストしか使わない術式を使ったのよ。そして彼には天使と接点が一切ない。学ぶ機会どころか知らない術式を詠唱から完璧に使う事なんてできる訳ないでしょ」
「なるほどです。それに私も違和感ありますから。何というか年上の悪魔が若作りしている雰囲気と似た感じがするんですよね。肉体だけ若いままを維持している悪魔そっくりな気配。確かに転生者の路線で調べるのが真っ当ですが……ここ最近だったら不可能ですよ。正確に言うとあの戦争以降は」
「奇跡の神ね」
「その通りです。あのクソ神が奇跡的に生き残って、奇跡的に他の生物に転生している可能性がありますからどの神話体系も目を光らせてます。日本なら閻魔大王を含めた十王、ギリシャならハデス、マイナーな所だとメソポタミアの冥府の女神すら注意しているんですからほとんどあり得ないですけど……」
「あの神なら奇跡的に掻い潜るかもしれない。いえ、気付けなかったと言う方が正しいのかも」
「ですよね……と言うかあのクソ神の権能がチート過ぎるんですよ!なんですか奇跡って!!過程をすっ飛ばして求める結果だけ反映させるとかチート過ぎてやってられないですよ!!おかげで戦争の時どんだけ対先した事か!!」
「……あまり考えたくないけど、彼がその神の生まれ変わりである可能性も出てきた。もし彼がそうだった場合はこちらで処理させてもらうわね」
「先輩。悪魔じゃなくてもバレバレの嘘をつくのはやめておいた方が良いですよ。先輩は彼がクソ神の転生体ではないと思っているんでしょ。それに本当に奇跡の力が万能なら、生まれた時から世界最強とかでも不思議じゃありません。でも弱点はあったし、万能でもなかったみたいですし」
「そうね。唯一の問題であるエネルギー問題。仮に転生に成功していたとしても奇跡の力を使うには信仰心が必要。今の時代だと奇跡の神の信者は戦争時に比べるとかなり減った。数十万人は減ったし、それでもまだまだ信者はいると言っても活動は縮小化。日本で言う隠れキリシタンみたいに家の中でそっと祈りを捧げる人の方が圧倒的に多くなった」
「あれに関しては悪魔としてマジで面白く見させてもらいましたよ。いや~やっぱり教会がぶっ壊される姿を見るのはスカッとしますね。人間達が暴動を起こして近くにある教会を破壊し始めたのは見ていて本当に楽しかったです!」
「その中に歴史的価値がある物が含まれていなかったらね。その暴動で壊されたのが町のミサとかそう言った小さな物だけだったらよかったけど、歴史的価値が高い物も破壊されちゃったからね……」
「悪魔から見ればやったぜ!!ざまぁwww!!みたいな感じでよかったんですけどね~。先輩の言う歴史的価値の高い教会は大抵悪魔が入れないようにする結界の役割も果たしている事が多いからおかげで侵入しやすくなりましたよ。ま、今じゃ敵対してた天使の形もだいぶ変わってしまいましたが」
「それは仕方ないでしょ。名のある天使達はあの神のせいで強制的に堕天使にされた事でかなり混乱が起きてしまったのだから」
「そのせいで堕天使との付き合いがやり辛くなっちゃったんですよね~。はぁ」
「仕事の話に戻すけど、神が転生に成功したとすればやっぱり天国を通って転生したと考えるのが無難かしら?」
「十中八九そうでしょうね。神として天国に戻り、人間の体を得る方がよっぽどやりやすいでしょうしね。今の天国はぶっちゃけ侵入不可能。超高度セキュリティーが天国を守っているので誰も入れません。入れるとすればその宗派の人が天国に行けた時だけ、でしょうか」
「こういう点では超常の存在も面倒ね。あのセキュリティーは特に私達の攻撃性が高いから」
「元々他の宗教に侵されないための施設みたいなところですから。宗教侵略しまくってたくせに」
「その辺りはかなりデリケートだから止めておきましょ」
「それじゃ契約内容は分かりました。各神話体系の転生に関係する部署にあたってみます。多分出てこない可能性の方が高いですけどね。本当に依頼するんですか?」
「お願い。少しでも神の可能性を潰しておきたいから」
「先輩も本当にあのクソ神が大っ嫌いですよね。まぁ超常の存在であいつの事が好きな奴なんてそれこそ天使だけだと思いますけど」
「あなた達悪魔の初代達も元は天使じゃない」
「初代様達は嫌いになったから堕天使にされたんですよ。そこからさらにサタン様のおかげで悪魔と言う種が誕生したんです。ルシファー様とはまた違った意味で神のごとき威光を放ってますよ」
「悪魔が神なんて単語使っていいの?」
「いいんですよ。サタン様が居なかったら私達が生まれてくる事すらなかったかもしれないんですから。とりあえず今日本にいますし、十王の所から聞いてみようと思います。何の情報もなかったとしてもちゃんと契約料はいただきますからね」
「ただ働きをさせるつもりはないから、よろしくね」
「分かりました。名ばかりリリムが働きますよ」




